第26話 騎士団の体術ネキ

リーナが何か言いかけたその瞬間、外から突然、悲鳴が響き渡った。


アレク、リーナ、そして陽は驚き、すぐに立ち上がった。リーナは言葉を飲み込み、全員が一斉に酒場の外へと視線を向け、何が起こったのかを確認しようと駆け出した。


酒場の外に出ると、陽はすぐにその原因に気づいた。以前、ベオリアに来る前に自分たちが倒して、騎士団に引き渡したはずの盗賊たちが、再び街を荒らしていたのだ。


リーナとアレクは初めて見る盗賊たちに少し困惑している様子だったが、陽はすぐに状況を説明した。


「こいつら、前に俺らが倒して騎士団に引き渡した盗賊だ。あの時、騎士団がしっかり見張っていたはずだったが、どうやら逃げ出したらしい。」



すると、盗賊の一人がにやりと笑って言った。「そうさ、新人の騎士が見張りだったから、ちょろいもんだったぜ!隙をついて逃げてきたんだ!」



「お前たちか…懲りてないみたいだな。」陽は静かに拳を握り、獣人化の力を解放し始めた。



リーナも冷静に盗賊たちを睨み、構えを取った。


「一応、僕も戦わなきゃだよねえ…。」アレクだけは嫌々ながらも準備を整えた。


「さっきはやられたが、もう攻撃力パターンは覚えたぜ。」


盗賊たちは構わず、凶悪な笑みを浮かべながら突進してきた。しかし、彼らは陽たちの実力を甘く見ていた。


陽の体が獣人化の力で一気に変化し、筋肉が膨れ上がり、速度も格段に上がった。彼は獣のような素早い動きで盗賊たちの懐に入り、一人の盗賊を片手で持ち上げ、地面に叩きつけた。


「グハッッーーー」


その一撃で地面が揺れるほどの衝撃が走り、盗賊はその場で気を失った。


「ヘリオスの獣人化…!?」

リーナは驚きながらも、即座に風の魔法を発動し、陽を援護した。彼女の風魔法が渦巻き、盗賊を空中に舞い上げる。


「陽!今よ!」


リーナの声に応じ、陽は瞬時にその盗賊の前に跳び上がった。次の瞬間、強烈な蹴りが盗賊に放たれ、空中から地面に叩きつけられた盗賊は、衝撃で気絶し、泡を吹いていた。



「お前ら!!また次、ベオリアを襲ってみろ?今度は本当に埋めるからな。」陽は低く唸り、残りの盗賊たちに向かって威圧的な視線を送った。


その迫力に圧倒された盗賊たちは、もはや反撃する余裕もなく、恐怖で動けなくなっていた。


「埋めるってあなた、ジャパニーズマフィアじゃないんだから」

リーナは呆れていた。


その頃、街の騒ぎを聞きつけた騎士団が到着した。

先頭にはライサが立っており、彼女は陽たちが盗賊を全員捕らえている光景を見て、一瞬驚いた表情を浮かべた。


「まさか…君たちがあの盗賊たちを捕らえたのか?」

ライサは信じられないというような表情で、陽たちに歩み寄った。


陽とライサの目が合った瞬間、ライサは驚きから感謝の表情へと変わり、小さく笑みを浮かべた。


「また君がベオリアの民を助けてくれたのか…。」


陽は少し照れくさそうに頭をかいた。

「たまたまですよ」


「それでも助けてもらったのは事実だ。ありがとう。」ライサは真剣に感謝を述べた



その後、騎士団は盗賊たちをしっかりと捕らえ、街の平和は取り戻された。

ライサは陽たちと一緒にリラックスした様子で話を続けた。


「君たちが滞在している間は、私たち騎士団の仕事が減ってしまうよ。」ライサは冗談めかして笑いながら陽に言った。


その時、酒場のマスターが陽たちの方へ歩み寄り、にこやかに話しかけてきた。


「にいちゃんたち、あんたら強かったなぁ!!本当にありがとうな!」


陽は謙虚に頭を下げ、「いや、僕たちは当然のことをしただけです。」と答えた。


「最近はな〜、外から来る大抵のやつは獣人族を見下すからよ。こうやって、暴れるんだが、ライサさんたち狼騎士団のおかげで、このベオリアの治安が守られているんだわ!。にいちゃんも強いけど、恐らくライサさんには敵わねえだろうな!がはは!」


陽は苦笑いを浮かべながら、(確かにこの前、拳を交えた時は、彼女の攻撃を受けるので精一杯だったな…)と振り返る。


すると、陽は驚いた顔で聞いた。

「ちょ、待ってください!ライサさんって騎士団に所属されているのですか!?しかも、その強さだと…騎士団長…とか…?」



ライサは微笑みながら首を振った。

「いや、私は騎士団長の娘だ。」


それを聞いてマスターは大きく笑い、

「そうだ!ライサさんは誇り高き狼の獣人族の娘さんでな!体術はもちろん、剣術も魔法も使える!その上、こんなにもべっぴんさんだ!国民が全員ファンみたいなもんだよ!」と自慢げに話した。


「ちょ、マスター、褒めすぎだ!」

ライサは顔を少し赤くしながら、照れくさそうに言った。


マスターは陽たちを見ながら冗談めかして、「でもよ、騎士団なのに、ほとんど体術で敵を倒してるのは黙ってらんねぇけどなあ!!!」と続けた。


「それは言わないって約束だっただろー!!」

ライサは恥ずかしさを隠せず慌てていた。


陽はその様子をじっと見つめ、頭の中で思った。(初めて会った時、何の獣人なんだろうと思ってたけど、狼だったのか。紫の長髪に灰色の耳、そしてふわふわのしっぽ…。確かに狼だ。マスターに褒められてしっぽを振っている姿は狼というより、シベリアンハスキーみたいだな。それにしても、こんなにスラっとしたスタイルで、どこからあのパワーが出てくるんだ?)


陽がずっとライサに見惚れていると、リーナが静かに彼の横に近づいてきた。


「…変態。」


「なぁっ!!!」


突然の言葉に陽はショックを受け、慌ててリーナを見た。彼女は冷静な表情のままだったが、目には呆れたような色が浮かんでいた。



陽がリーナの「変態」という言葉を引きずっていると、ふと空気が一変した。何か異様な気配が漂ってくるのを感じたのだ。それは寒気を伴うような、不気味な空気で、すぐに陽、リーナ、アレク、そしてライサは立ち止まり、周囲を見渡した。


「何だ…?」

陽は警戒しながら低く呟き、その異常な雰囲気を探るように目を細めた。


アレクもすぐに気配を察知し、静かに構えを取る。「この空気は最悪だねえ…」


ライサも顔を険しくし、周囲の騎士たちに静かに警戒を促した。


やがて、捕らえた盗賊の影からゆっくりと黒いマントを纏った少女が現れた。そして、その不気味な雰囲気とともに陽たちのところへ近づいてきたのだ。彼女の顔は無表情で、その瞳には深い闇の色が宿っていた。


陽たちは一瞬息を飲んだ。その少女の存在感が、ただならぬ力を秘めていることを感じ取ったのだ。周囲の空気はさらに重く、冷たく感じられる。


「お前は一体何者だ…?」



黒いマントを纏った少女が一歩前に進み、冷たい声で名乗りを上げた。


「我が名は…ミラーネ。闇と幻影を操りし者。」


彼女の言葉とともに、さらに重苦しい闇の気配がその場を覆い尽くし、空気が一層張り詰めた。

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