第37話 救出大作戦決行!!

ライサが震える声で「陽…助けて…」と呟いたその瞬間、カンジェロスは剣を振り上げ、ラドウィンにとどめを刺そうとした。


しかし、広場に陽の声が響き渡る。

「待ってましたよ!!その言葉!!」


一瞬で転移魔法が展開され、空中に眩しい光が現れた。その中からタリアに乗った陽とリーナ、ヘリオスに乗ったレオンが飛び出してきた。


広場全体がその姿に驚きでざわめき、注目が集まる。


獣人化した陽は鋭い視線で国王カンジェロスを見つめ、彼の中に潜む核の位置を即座に見極めると、迷わず一気に距離を詰めて突進した。


カンジェロスは陽の迫力に一瞬たじろぐも、すぐに剣を振り下ろし応戦する。しかし、陽はその一撃を軽々とかわし、素早く国王の胸元に手を伸ばして核を握り締めた。


「これで終わりだ!」


陽が叫び、核を粉々に破壊すると、カンジェロスの体が急速に崩れていく。処刑台から崩れ落ちたカンジェロスは、核が破壊された影響でその体が虎の獣人の姿から徐々に人間の姿へと戻っていった。


その正体が明らかになり、広場中に動揺が広がる。カンジェロスの顔は、かつて陽が酒場で遭遇した盗賊のボスのものであった。


「お前は…あの時の盗賊か!」

陽が驚きの声を上げると、盗賊の男は薄笑いを浮かべて立ち上がり、陽を見据えた。


「チッ、バレちまったか…まあ、いいさ。この俺にはまだ切り札があるんでね。あのお方がくれたこの魔晶石がな…!」

男はポケットから黒い石を取り出し、それを高く掲げた。


その瞬間、魔晶石が不気味な黒い光を放ち始め、石から流れ出した闇のエネルギーが広場全体を包み込んだ。魔力が広がると、地面がひび割れ、黒い影が次々と湧き出し、百体以上もの魔物が解き放たれた。その姿に人々は叫び声を上げ、混乱が広がる。


しかし、男はその中でも異常なほど強力な闇のエネルギーを纏った三体の魔物に視線を向けると、そのうちの一体の胸に自分の腕を突き刺し、魔物の核を取り出して自らの体に取り込んだ。


取り込んだ瞬間、男の体は次第に変異を始め、みるみるうちに巨大化し、背中からは鋭い牙と黒い鱗が生え、手足には獣のような爪が現れた。その姿は、もはや人間でも獣人でもなく、闇の魔物と一体となった異形の怪物だった。


「さあ、楽しもうぜ!狩りの時間だ!」


男が咆哮すると、魔物たちが一斉に広場に向かって猛進し始めた。


陽とリーナ、レオンはすぐに剣を構え、魔物に立ち向かう準備を整えた。陽は息を整え、「レオンは先に、ラドウィンさんを避難させてくれ!俺とリーナさんでこいつらを何とか抑える!」と指示を飛ばす。


レオンは頷き、「任せろ!」と素早くラドウィンの元に駆け寄り、彼の拘束を解き始めた。



陽が広場へ転移したのと同じころ、ライサとカイルが閉じ込められている地下の牢獄では、転移魔法の光とともにセレーナ、アレク、そしてバジルが現れた。


見張りの騎士団員が驚いた様子で駆け寄り、息を切らしながら声をかける。「バジル様!よかった…助けに来てくれたんですね!」


ライサとカイルも目を見開き、驚きを隠せなかった。


「一体、何が…?」


アレクが微笑む。

「詳しい話はあとで。まずはここから君たちを出そう。でも、檻に張られた結界は相当強力だな…」


アレクが檻に目を向けて確認し、少し考え込むと、ふとバジルに問いかけた。

「バジルさん、この結界って、闇属性ですよね?」


バジルはうなずき、「ああ、間違いない。強力な闇の結界魔法が張られているな…」


「そしたら、それを上回る光の結界を重ねれば打破できるかもしれない…」

アレクが口元を引き締め、「みんな、少し下がっていてくれ!」と檻から距離を取るよう促した。


ライサ、カイル、セレーナ、バジルが見守る中、アレクが静かに目を閉じ、深い呼吸とともにヘルメスの神獣ケリュネイアの鹿を呼び寄せた。ケリュネイアが現れると、辺りに神々しい光が満ち、周囲の空気が一気に緊張感に包まれる。


アレクは結界を見据えながら、心の中で強く決意を込めた。

「さあ、ケリュネイア…久々に力を貸してくれ!」彼の足元に淡い光が走り、魔法陣が現れると同時に、ケリュネイアが静かに佇む。その澄んだ瞳に映る闇の結界に、アレクの決意が重なった。


低く響くアレクの声が、結界の闇に波紋を広げるように届き始める。


「我が神獣よ、共に闇を制し、結界を打ち破る力を解き放て…」


アレクの手がゆっくり上がると、周囲の暗黒のエネルギーが螺旋を描きながら彼の元へと集まってくる。ケリュネイアも全身から光を放ち、その光は闇を裂くように輝きを増していく。


「浄化の光よ、闇の鎖を断ち切れ。封印の力よ、我が意に従え…『闇を切り裂く光グラディス・アングラ』!」


アレクの言葉が響くと同時に、彼とケリュネイアの体が光の波動に包まれ、闇の結界は徐々にその威力を失い、アレクの中に吸い込まれていく。やがて、結界は完全に崩壊し、檻を覆っていた闇の力が跡形もなく消え去った。



檻のドアがゆっくりと開かれ、ライサとカイルが自由になったその瞬間、アレクが穏やかな笑みを浮かべてセレーナに声をかけた。


「さあ、次はセレーナちゃんの出番だね。」


セレーナは頷き、ライサとカイルに向き合って優しく声をかけた。「ライサ、カイル、少し目を閉じて意識を集中させてください。」


ライサとカイルは言われた通り目を閉じ、セレーナに身を委ねた。セレーナがそっと二人の額に手を置くと、彼女の背中から精霊の羽が柔らかく光を放ち、静かに現れた。その羽根が銀色に輝き始め、周囲に神秘的な光が広がる。


セレーナはそのまま精霊魔法により自身のエネルギーを二人に流し込み、優しく語りかけるように力を注いでいく。銀色の光が二人を包み込むと、ライサとカイルの体から次第に薬の効果が薄れ、少しずつ元の姿へと戻っていった。


「これで、元通りです…」

セレーナは微笑みながら手を離した。


バジルが感嘆の声をあげ、穏やかな表情で頷いた。

「ほう…これが姫様の精霊魔法ですか。しかも銀色の羽…覚醒された精霊の力とは、見事ですな。」


セレーナの精霊魔法によって薬の効果が消え、ライサとカイルは再び獣人の姿を取り戻した。ライサは耳と尻尾を動かしながら、懐かしい感覚を確かめるようにしていた。


「みんな…ありがとう。そして、すまない…」

ライサは小さく息を吐き、視線を落とした。


「らしくないですよ、ライサ。お父さんを助けに行くんでしょ。」


「ああ、そうだな。」

ライサは顔を上げて気を取り直し、バジルに向かって言った。

「バジル、転移魔法を頼む。」


「かしこまりました、ライサ様。」

バジルは短く頷き、転移魔法の詠唱を始めた。光が彼らを包み、広場へと向かう準備が整う。


その頃、広場では陽とリーナが、盗賊の操る魔物二体とその周りに溢れる百体以上の魔物を前にして立ちはだかっていた。


「この数、俺とリーナさんだけでなんとかなるか…」陽は鋭い目つきで状況を見据え、リーナも冷静に隣で構えていた。


次の瞬間、地面に転移魔法の光が現れ、

ライサたちが広場に到着した。


「待たせたな、陽…」


「ライサさん…待ってましたよ。」

陽が力強く応えると、ライサは小さく頷いてから一瞬だけ視線を下に落とし、陽に向かって静かに言った。

「…本当に、すまなかった。」


「謝るのは後にしてください。今はこいつらを片付けるのが先です。」

陽は、戦闘への気持ちを高めた。


「結構、倒し甲斐がありそうだ。セレーナ、いるか?」陽が声をかける。


「ここにいるわ!」セレーナが答えた。


「セレーナは、バジルさんと一般人の避難とラドウィンさんの所へ行って状態を戻してくれ!そして、レオンをこちらへ召喚して欲しい!」


「ええ、任せて!」

セレーナとバジルがレオンの元へ向かう。


「それじゃ、予定通り僕も参戦させてもらいますかね。」

アレクが神獣ケリュネイアを召喚し、現れた美しい鹿の姿に陽が目を見張った。


「それが…アレクさんの神獣…?」


「ああ、僕の神獣ケリュネイア、名前はリディアだよ。」

アレクが微笑み、ケリュネイアも静かに頭を下げた。



セレーナの指示を受けたレオンが、転移して戦闘の場に現れた。彼の顔には決意がみなぎり、陽に向かって剣を振り上げる。


「さあ、陽、こいつらぶっ倒してやろうぜ!」と力強く叫ぶ。


陽も応えて、「ああ、俺とライサさんはボスを狙う。リーナさんとアレクさんはもう一体の強敵を。レオンとカイルは、他のやつらを頼む!」


「任せろ!こんな数、余裕っ…って、ちょっと待て、マジでこの数を俺ら二人で?」レオンが驚きながら聞き返す。


陽がニヤリと笑って、「いけないのか?」とおちょくるように返すと、レオンは肩をすくめつつもやる気を見せた。


「ったく、大将には敵わねえな。カイル、気合入れていくぞ!」


「レオンこそ、足引っ張るなよ!」カイルが自信に満ちた表情で答えると、二人は拳を突き合わせて戦闘態勢に入った。


その時、ライサが陽に尋ねる。

「陽、覇気は使えるか?」


陽は小さく笑って、

「ああ、誰かさんのスパルタ稽古のおかげで、完璧に使いこなせますよ」と応えた。


「よし、行くぞ。」

ライサも応じ、二人の間に力強い連帯が走る。


次の瞬間、陽の黄色い覇気とライサの紫色の覇気がぶつかり合うように一気に広がり、周囲に緊張が走った。


「相変わらず、すごい圧力ね…でも、今なら問題なく動けるわ」とリーナが言い、隣のアレクに目を向ける。


「ああ、セレーナちゃんの加護のおかげでな。」

アレクも気合を込めて頷いた。


それぞれの準備が整い、陽が仲間たちに向けて叫んだ。


「よっしゃ!さっさと片付けるぞ!」

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