盟約の刻編【ウルニス迷宮】

第42話 繋がらない点

ウルニス迷宮へ向かう陽一行は、王宮の大門を抜け、ベオリアの北門へ進んでいた。


陽たちが北門にたどり着くと、ラドウィンは歩みを止めて、ふと話し始めた。


「ベオリアを出る前に、この国を取り巻く地形について話しておこう。外の世界を知ることは、これからの旅の手助けになるだろうからな。」


陽が興味深そうに顔を上げる。

「そうですね。俺も外の国の話は気になります。」


ラドウィンは陽の言葉に頷きながら説明を続けた。

「まず、ベオリアから見て西には精霊族が集う王国、ヴァレンティーナがある。そこは豊かな森と生命力あふれる土地で、精霊族は自然と共生し、独自の魔法文化を発展させている。精霊の加護を受けた土地だからこそ、外からの侵略を寄せつけない強固な防御力があると聞いている。まぁ、それはセレーナの嬢ちゃんに聞いた方が早いか。」


セレーナが笑みを浮かべる。


ラドウィンはさらに続けた。

「次に、南には水の都アクエリアスが広がっている。水源が豊富で、港も発展しており、交易が盛んな国だ。美しい運河と青く輝く湖の景観は見事なもんでな。そして、ここ数年、ベオリアの水源が枯渇し始めてから、我々はアクエリアスに水の供給を頼るようになった。」


陽が眉をひそめた。

「なるほど…。ちなみにその水源の枯渇ってのはウルニスの迷宮が原因なんですか?」


「確証はないが…」ラドウィンの声に憂いが混じる。

「ただ、ウルニス迷宮周辺はかつては緑豊かな土地だったが、三年前から周囲が砂漠化し始め、今では荒涼とした不毛の地と化した。恐らく、迷宮で何かが起き、それが砂漠化を進行させているのだろう。結果として、ベオリアに悪影響を及ぼしていると私は仮定している。さらに、最近アクエリアスには召喚者が現れ、その者は砂漠化の原因がウルニス迷宮にあると断言していた。」


「アクエリアスにも召喚者が…!!」陽が驚きの表情を浮かべる。


ラドウィンは険しい顔で続けた。

「ああ、だからベオリアとアクエリアスで再度調査をすることが決まり、体制を整えるために国王が一度帰国を指示したのだ。しかし、その時には国王は既に消えていた。今回の黒幕が何を狙っているのかは不明だが、アクエリアスの蒼帝は簡単にベオリアを突き放すような者ではないと私は信じている。」


「国王と蒼帝の会談を直接聞いた人はいなかったんですか?」陽が尋ねた。


「ああ、本来であれば私が護衛を務めるはずだった。しかし、蒼帝から『互いの側近を外せ』という条件が提示されてな、二人きりで話をすることになったのだ。何の意図があったのかは分からないが、腑に落ちない点が多すぎる。」


陽は腕を組み、難しい顔をした。

「ますます話が見えないですね…」


「ああ、だからこそ、我々はウルニス迷宮に向かい、国王を救出すると同時に砂漠化の謎を解き明かす必要がある。そして蒼帝の真意を確認しなければならない。」


陽がは少し考え込んだ。


するとバジルが笑顔で話を遮った。

「さてさて、皆さん。そろそろ転移魔法を展開しますぞ!今回は人数が多いから、ぱっと終わらせますな!」


バジルが転移魔法を展開すると、陽たちは次の瞬間、ウルニス迷宮の前に立っていた。


そこは荒涼とした砂漠地帯のど真ん中。果てしなく広がる乾いた地面に、ところどころ黒く焼け焦げた跡が点在していた。迷宮への入り口は、巨大な岩でできた門のような形状をしており、表面には古代文字や不気味な紋様が刻まれていた。微かに冷たい気配が漂い、異様な存在感を放っていた。


「ここが、ウルニスの迷宮…。一体、中はどんな場所なんですか?」陽が扉を見上げながらラドウィンに尋ねる。


ラドウィンは真剣な表情で一行を見渡した。

「ウルニス迷宮は、ただの遺跡ではない。中に入った者の心を映し出し、過去の記憶を呼び起こすと言われている。そして、その記憶を利用して心の弱さに漬け込む。もし心が壊れれば、その者は二度と地上には戻れない。」


その言葉に一行の空気が張り詰めた。


同時にリーナは目線を下へ移した。


陽が彼女の異変に気づき、心配そうに声を掛けた。

「リーナさん、大丈夫?」


「…ええ。なんでもないわ。」返事をしたリーナだったが、その表情に違和感を覚える陽だった。


「迷宮はただの試練の場ではない。挑む者の心を引き裂き、迷わせ、互いを引き離そうとする。内部では転移魔法が発動し、私たちをバラバラにすることもあるだろう。だが、その時こそ冷静でいられるかが鍵だ。」ラドウィンが警告する。


「…覚悟しておきます。」陽は緊張した面持ちで言った。


ラドウィンが扉に手を当てる。

「準備はいいな?中に入れば、後戻りはできない。」


全員が無言で頷き、ラドウィンが扉をゆっくりと押す。砂埃が舞い、重々しい音と共に扉が開くと、中から冷たい空気と深い闇が広がり出てきた。


一歩踏み出した瞬間、足元に光の陣が現れた。



「なんだ!?」陽が叫ぶ。



「みなさん魔法陣の外へ!これは転移魔法だ!」バジルが叫ぶが、陽とリーナは瞬く間に黒い光に包まれ、姿を消していった。

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