第41話 答え合わせ

陽はふとした疑問が湧き、ラドウィンに問いかけた。

「それで…ラドウィンさん、あなたはあれほどの力があるのに、どうしてあの盗賊相手に倒されたんですか?」


ラドウィンは少し微笑み、陽の真剣な眼差しを見つめながら答えた。

「たとえ相手が国王でないとわかっていても、あの場で“国王”を討つことは、ベオリア全体を混乱に陥れるだけだと思ったからだよ。」


「ということは…わざと…」

陽は驚き、再びラドウィンに視線を注いだ。


「そうだ。しかし、まさか薬を飲まされるとは想定外だったがな。」


ラドウィンは苦笑を浮かべつつも、続けた。


「確かに不測の事態は起きたが、君たち召喚者がこの国に来ていることは知っていた。そして、ライサやバジルと関わりを持っていると聞いていたから、一か八かで君らやバジル、騎士団たちが助けてくれるのではないか、と賭けてみたのだ。」


「騎士団長でありながら無責任な行動をしたことは重々承知している。だが、この事態を打破するには、この方法しかないと判断したのだ。」


陽は頷きつつも、もう一つの疑問が浮かんだ。

「そもそも、国王が突然偽者になったことに気づいたのはいつだったんですか?」


ラドウィンは目を閉じ、過去の記憶を辿るように静かに語り始めた。

「あれは、国王がアクエリアスへ行ってからだ。私は護衛として同行したが、ある日突然、国王に対しての違和感に気づいてな。それでも、その場で何かをすれば国中に動揺が走る。だから、最悪の事態を想定し、事前にバジルに相談しておいたというわけだ。」


「バジルさんに…てことは、バジルさんは全て知っていたのですか?」

陽は振り返り、静かにラドウィンの話に耳を傾けているバジルに視線を向けた。


「そうだ。」

ラドウィンは頷き、続けた。

「国王が皆にベオリアにとってマイナスになる事を宣言した場合、私はきっと止めに入るだろう。その時、どんなことがあっても私に味方せず、その場を乗り切るように、とバジルには先に伝えておいたのだ。」


バジルはラドウィンの言葉に合わせて静かにうなずき、陽に向かって説明した。

「私も、ただ見守るしかない心苦しさはあったがな、あの場で騎士団長に味方すれば、私たちまでどうなっていたか分からなかったからな。我慢するのは大変だったわい。」


陽はラドウィンとバジルの話を聞き、彼らが命を懸けてベオリアのために計画してきた全てを理解し、静かにうなずいた。


ラドウィンは改めて陽たちに深々と頭を下げた。

「君たち召喚者、そして仲間たちよ、君たちのおかげで、我々はこの国を守るための一歩を踏み出すことができた。心から感謝する。本当にありがとう。」


陽はその礼に応え、仲間たちと共に王宮を後にした。次の日にはウルニスの迷宮へと向かう為、一行は準備をしに宿へ戻ることにした。


王宮の門を出ると、後ろからライサの声が響いた。

「陽!」


陽は立ち止まり、振り返ると、ライサが少し気まづそうに目を伏せ、真剣な表情で話し始めた。


「今回の件、私一人ではどうすることもできなかった。助けようと手を差し出してくれたに、拒んで、あんな風に言ってしまって…首元の傷も…本当にすまなかった。」


陽は一瞬戸惑いながらも、少し頭をかき、「こんな傷、大したことないですよ。初めから俺に攻撃なんかする気もなかったでしょ?それと、檻のことは…まぁ、お互い様ですよ。俺のほうこそ、ライサさんを突き放すようなことを言ってしまって…ごめんなさい。」


すると、そばにいたアレクが軽く笑みを浮かべながら二人の間に入った。

「でもさ、陽君っ!それでも君はずっとライサさんが助けを求めるのを信じてたよね。」


ライサは驚いた表情でアレクを見つめ、陽もアレクの言葉に驚いた様子を隠せなかった。


「実はね、僕は陽君から頼まれていたんだ。」


アレクはライサに向けて説明を始めた。

「もしも、ライサさんが助けを求めてくれたら、それがちゃんと僕たちに届くように、音を拾う小さな結界を檻の周りに張っておいてほしいって。ライサさんが助けを求めてくれれば、僕らがすぐに駆けつけられるように、陽君はずっと準備してたんだよ。まぁ、どんな状況でも陽君なら助けてたかもしれないけもね。ははは」


ライサは驚きながらも、陽を見つめた。

「そんなことまで…」


陽は照れくさそうに肩をすくめ、「そりゃあ、仲間なんだから、助け合うってのは当たり前で…俺も最近それをやっと理解してというか…ああ!もう!アレクさん!!それは言わない約束だろーが!ったく…。」



そんな姿を見たセレーナは少し微笑んだ。

(私の気持ちも少し理解してくれたのかしら…)



陽は、少し照れくさそうにしていると、ライサが一歩陽に近づき、二人の距離がぐっと縮まった。周囲の仲間たちも思わずその様子に目を見開いていた。


陽はライサの真剣な感謝の言葉に軽くうなずき、少し照れくさそうに笑った。


すると、ライサが一歩陽に近づき、二人の距離がぐっと縮まった。周囲の仲間たちも思わずその様子に目を見開いていた。


そして、ライサはゆっくりと右手を伸ばして陽の頭に触れると、柔らかく彼を自分の方へ引き寄せた。陽の首元の傷跡に目を留めた彼女は、そっと唇を寄せ、その傷を舐めた。


「ら、ライサさん…!?」


陽は一瞬で顔を真っ赤にして固まった。周囲も一気にざわめき、特にセレーナが大きく目を見開いて驚きの表情を浮かべていた。


ライサは微笑みながら、少し頬を赤らめた表情で陽に向かって囁くように言った。

「狼の一族は、本当に心を許した相手に忠誠を誓うものだ。私はこの国だけでなく、陽、あなたにも忠誠を誓うよ。」



「えっ…ライサさん、それって…どういう意味ですか?」

陽はさらに混乱し、戸惑いの表情を浮かべた。


ライサはその様子を見て、照れくさそうに笑いながら言った。

「陽は鈍いな。私が、陽を主人として認めるという意味だよ。」


「俺が…主人?」

陽はますます顔を赤くし、言葉を失った。


ライサはそんな陽の様子に満足そうに微笑むと、指で彼の額をコツンと軽く押しながら言った。

「陽も、そんな顔もするんだな。可愛いぞまったく。」


ライサの尻尾が嬉しそうに左右に揺れる中、陽はさらに真っ赤になって何かを言おうとしたが、結局言葉が出てこなかった。


そんな陽を見て満足した、ライサは皆に向き直り、真剣な口調で言った。

「明日、早朝に出発する。今日は準備が終わり次第ゆっくり休んでくれ。明朝、王宮前の門に集合だ。」


「了解!」


レオンが陽の背中を軽く押して、「さあ、行こうぜ、陽!」と笑いながら言う。まだ固まっていた陽は、背中を押されて我に返り、「お、おう…」とぎこちなく答えた。


一行が宿へ向かう道中、アレクが隣にいたリーナの顔をちらりと見て尋ねた。


「怒ってる?」


リーナはアレクにちらりと視線を向け、「怒ってなんかいません。ただ…呑気なものだなと少し呆れているだけです」と、少し冷静な口調で返した。


アレクは肩をすくめて微笑んだ。

「リーナちゃんらしいね。ただ、他人事でもここまで足を突っ込める人なんて、なかなかいないよね。陽くんは責任感が強いのか、それとも…ただのお人好しか…。まぁ、どちらにせよ、その一生懸命さがみんなを惹きつけてる魅力なんだろうけど。」


リーナは真剣な表情で言った。

「私は元の世界に戻るために、この世界でやるべきことをしてくれればそれでいいです。」


アレクは彼女の毅然とした言葉に少し苦笑しながら返した。

「あはは、そうだよねぇ…。」

(リーナちゃんも、若いなぁ…)


そうして、一行は宿に戻り、それぞれが翌日に備えて準備を整えた。


翌朝ーーーー


王宮前の門に集まると、すでにライサ、カイル、ラドウィン、バジルが待っていた。全員の顔を見渡したラドウィンが声をかける。


「よし、全員揃ったな。それでは、ウルニスの迷宮に向かう。覚悟を決めておけ。」


ラドウィンは険しい表情で、一行に向き直った。


「ウルニスの迷宮…あそこはただの迷宮ではない。かつて多くのベオリアの王たちがこの場所を通り、己を鍛え、試されてきた。迷宮の内部は変幻自在で、我々の常識など通じぬ。そこは、挑む者の心そのものを映し出す力を持つと言われている。己の心に隙があれば、簡単に飲み込まれてしまう場所だ。」


「また、迷宮内は深淵のような闇に包まれている。その闇の奥には、ただの魔物とは桁違いの存在が潜んでいるらしい。過去に私も迷宮へ足を踏み入れた事があるが、30階層までは到達したことがない。ただ、迷宮の空気そのものが、挑む者の精神をかき乱し、幻覚や記憶を見せることがあるとも聞いたことがある。己の心に未解決の悩みや迷いがある者は、それに囚われ、そこを乗り越えられねば、たとえ迷宮を進めたとしても、どこかで限界が来て地上へ戻る事はできないかもしれない。」


補足をするようにバジルが、さらに注意を促すように話した。

「ウルニスの迷宮は人の弱さや怯え、欲望を容赦なく突きつけられる場所だ。だからこそ、我々は互いを信じ合い、決して心を折らない強い意志を持って臨まなければならない。」



陽はラドウィンの説明を聞き終え、一瞬静かに目を閉じて深呼吸をした。


そして、目を開け、仲間たちを見渡しながら力強く言った。


「よし、みんな。この迷宮が何を見せようと、俺たちは絶対に乗り越える。国王を救出し、全員で無事に戻る…約束だ。」



その言葉に皆はうなずき、それぞれの決意が固まる中、一行は迷宮への一歩を踏み出した。

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