第15話 胸の高鳴り

陽はラゼリアの大樹を見つめ、ファルナスの森での戦いの余韻を感じていた。その後、レオンやリオン、そしてセレーナが彼のもとに集まってきた。


「陽、本当にありがとう。あなたがいなかったら、どうなっていたか…」

セレーナが静かに感謝の言葉を述べると、リオンもそれに続いた。


「陽、姫様の覚醒に気づいたか?」

リオンはセレーナの背後に浮かぶ、精霊の羽に目を留めた。


「覚醒?」

陽は驚き、セレーナの羽を再び見つめた。


「覚醒は一部の精霊しかできないものです。精霊によって条件は異なりますが、姫様の場合は加護を与えたことがきっかけで覚醒したのでしょう。歴代でも覚醒できた精霊は数少ない。その中で、彼女の可能性を、引き出したんだ。陽、あなたは大した人です。」

リオンは説明し、セレーナを誇らしげに見つめた。


「覚醒した精霊の羽は他のものとは違う輝きを放ちます。また、火・水・風・光の四属性すべての精霊魔法が使えるようになり、治癒魔法の効力も格段に高まります。」

リオンの言葉に、陽は再びセレーナの羽に目をやり、率直に言った。


「すっげー…綺麗ですね!」

陽の言葉に、セレーナは一瞬で顔を赤らめ、彼の目を見つめることができなくなった。


「あ、ありがとうございます…陽こそ、ヘリオスの力の解放、おめでとうございます。」

セレーナが恥ずかしそうに答えると、陽は笑いながら返した。


「セレーナさんの加護のおかげですよ!やっぱり精霊の加護ってすげーな!エネルギーがどんどん湧いてきて、これなら何でもできる!って気持ちになりましたよ。今は力を使い切ってからっからですけどね!ハハハ。」

陽が無邪気に笑うと、セレーナはその陽の笑顔が急に愛しく思えてしまった。


「なんで私、こんなに陽のことを意識してしまってるの…?この胸の高鳴りは…何?」

セレーナは自問自答しながらも、陽のことが気になって仕方ない。


そのとき、リオンが冷静に声をかけた。「ヴァレンティーナ王国に戻りましょう。転移魔法を使います。」


「え、精霊族の人って転移魔法とか使えるんですか!?」

驚いた陽が尋ねると、リオンは頷いた。


「ああ、全員が使えるわけではないが、今の状況を考えれば使うのが賢明だ。行きは光を辿ったほうが安全だったから使わなかったが、今はもう安心してもいいだろう。ヘリオスもいるしな。」


陽はその言葉でふと思い出し、ヘリオスに話しかけた。


(ヘリオス…聞こえるか?)


(ああ、聞こえる。聞きたいことがあるんだろうな。しかし、今日はエネルギーを使いすぎた。また休んでから話そう。)


そう告げると、ヘリオスは静かに沈黙した。


ヴァレンティーナ王国に戻ると、リオンの転移魔法で無事に帰還したことを迎えられ、国王や騎士たちが彼らを出迎えた。騎士たちは手当てを終え、皆が陽たちの帰還を喜んだ。


「陽、この度は何とお礼を言えばよいか…」


「そんな、俺だけの力じゃありません。リオンさんやレオンが戦ってくれて、セレーナさんの加護のおかげで俺も強くなれたんです。」


「精霊の加護か…。セレーナ、お前、加護を使えたのか?」

国王が娘に向けて問いかける。


「はい、お父様。加護の与え方についてはずっと考えていましたが、なんというか、自然に体が動いたのです…」


「そうか、綺麗な羽を持つことができたんだな。陽の心が綺麗な証拠だな。」

国王はにっこりと笑んだ。


その時、レオンのお腹が鳴った。「うおっ、すまねぇ、もう腹がぺこぺこだ…しかも睡魔が…」


陽も今までの疲労が一気に押し寄せ、ドッと疲れが襲ってきた。各自部屋に戻り、陽の部屋には軽食が置かれていたが、陽はそのままベッドに倒れ込み、深い眠りに落ちた。


陽は夢の中でヘリオスの声を聞いた。


「陽、私の声が聞こえるか?」


「聞こえる。やっと話せるんだな。」

陽は安堵した。


「私の力の半分は解放されたから、いつでも話せるさ。それで、聞きたいことは私の力と、精霊の加護についてだろう?」


「そうだ。リオンと戦った時は、少しヘリオスの力を使っただけで気を失った。でも、今は獣人化しても何ともなかったし、セレーナさんの加護で力を半分引き出せた。精霊の加護とヘリオスの力の解放にはどんな関係があるんだ?」


「順を追って説明しよう。まず、精霊の加護と私の力の関係だが、あのおとぎ話はセレーナから聞いたはずだ。実はあれは実話だ。」


陽は驚き、息をのんだ。


「私は光、風、水、火のエネルギーと魔法を使い、精霊族の住処、ヴァレンティーナを作り上げた。その自然の均衡を保つために、ラゼリアの大樹にエネルギーを込めた。精霊族はそのエネルギーを常に感じ取っているため、私の力に干渉しやすいのだ。」



「お前が使っている力は、私がそのエネルギーの一部をお前に与えているものだ。しかし、陽、お前には私のエネルギーを受け止められるだけの器がまだない。だから無闇に力を使えば、エネルギーが溢れて意識を失うことになる。」


「じゃあ、どうして獣人化した時は平気だったんだ?」


「それはセレーナから治癒魔法を受けただろう。その時、彼女のエネルギーが少しずつお前の中に流れ込んだ。精霊の加護を持つ者は、私のエネルギーに干渉しやすく、彼女のエネルギーがお前の器を広げたのだ。無理のない範囲で私が注ぎ込んだことで、器は大きくなり、エネルギーを制御できたのだ。」


「なるほど、だから俺は力を使いこなせたんだな。」


「その通りだ。さらにセレーナからの加護が与えられたことで、お前の器は大きくなり、私の力の半分を使えるようになったというわけだ。」


「理屈は理解した。じゃあ、残りの50%の力はどうすれば解放できる?」


「それには、まず力のコントロールを身につける必要がある。今のお前は獣人化できたとはいえ、まだ私の光の力を完全にコントロールしながら戦うのは難しいだろう。」


「確かに、俺もまだ右の拳に力を集中させるぐらいしかできない…」


「お前が力を引き出せるようになるためには、魔力のコントロールが鍵になる。それを学ぶには、セレーナに教わるのが最も適切だ。精霊族はただでさえ魔力に秀でている種族だ。ましてや、彼女は覚醒した。覚醒した精霊族の力は偉大だ。きっとお前にとって大きな助けになるだろう。」


「わかった。しばらくはまだヴァレンティーナに滞在して、セレーナさんから魔力のコントロールを学ぶことにするよ。」


「それがいいだろう。」

ヘリオスの声が消え、陽の意識も再び深い眠りへと戻った。


陽は夕方までぐっすりと眠り、夕日が差し込む部屋の中で目を覚ました。体を伸ばしながら、ヘリオスとの会話を思い返していた。再び寝返りを打とうとしたその瞬間、驚愕の光景が目の前に広がった。


セレーナが肌着姿で、陽の隣ですやすやと寝息を立てていたのだ。


「な、な、な、なんで!!??」


陽は心の中で叫び、混乱した。膝枕に続いて、今度は添い寝か!?どうにか意識を保とうとするが、目の前のセレーナの美しさに呆然とするしかなかった。長いまつ毛、柔らかそうな髪、潤んだ唇。全てが彼を引きつけていた。


そんな中、セレーナが寝言を呟いた。


「んん…陽…頑張りましたね…」


「えっ!?俺?」


陽は思わず声を出した。その声でセレーナが目を覚ます。陽と目があったセレーナは目を見開いた。しかし、陽はそれ以上に目を見開いた。


お互いの顔が一気に赤くなり

一瞬、時が止まったーーー。

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