第56話 育まれる絆
56話 育まれる絆
ー王宮ー
しばらくして、陽が目を覚ました時、そこは王宮内の部屋だった。柔らかな光がカーテン越しに差し込み、静かな空間が広がっている。陽はぼんやりと天井を見つめ、ゆっくりと身を起こそうとするが、体に力が入らない。
「うっ…俺は…」
声がかすれる中、すぐそばで聞き慣れた声が聞こえた。
「陽…?陽!!」
ベッドの横に座っていたセレーナが顔を近づけてくる。彼女の瞳には安堵の色が見えた。
「レオン!皆を呼んできて!」
「わかった!陽、無理すんなよ!」
レオンはハッキリとした応え、すぐに部屋を出ていった。
再び部屋には陽とセレーナの二人だけが残る。
「セレーナ…俺は…」
陽は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「3日間ずっと気を失っていたのよ。」
セレーナの言葉に、陽は目を見開いた。
「3日もか…。そうか、迷宮はどうなったんだ?」
「陽のおかげで無事に解決したわ。迷宮は元の姿に戻ったし、カンジェロス国王も助け出せた。でも…」
セレーナは視線を落とし、言葉を詰まらせる。
「でも…?」
「陽が私の加護を受けてアポロンの紋章が現れた後、その力を使い切って倒れ込んでしまったの。」
「そうか…。俺、セレーナから加護をもらった瞬間、目の前が真っ暗になって、それから記憶が全然ないんだ。でも…それで皆が助かったなら良かったよ。セレーナもレオンも、ずっと俺のことを心配してそばに居てくれたんだろ?ありがとな。」
陽が微笑みながら言った瞬間、セレーナは何も言わずに陽に飛びついた。
「えええええ!!!ちょっ!セレーナさん!?!?」
陽は驚き、慌てて手を宙に浮かせる。
セレーナの声が震え、陽の胸元に顔を埋めると、堪えていた涙がついに溢れた。
「ごめんなさい…陽…。私の加護の力が足りなかったの…。だから、力を引き出せたとしても、器からアポロンのエネルギーが溢れ出して体に負荷がかかったんだわ。それで、何かに体を支配されてしまったよ。私の力不足で…本当にごめんなさい。………。」
肩を震わせながら涙を溢すセレーナの姿に、陽は一瞬言葉を失った。普段、堂々として皆を導く彼女が、今はまるで壊れそうなほど脆く見えた。
陽は一瞬戸惑いながらも、やがてそっとセレーナの肩に手を置いた。
「セレーナ…」
陽はゆっくりと手を伸ばし、そっとセレーナの背中に触れた。その手は迷いながらも、優しく彼女を抱き寄せる。
「聞いてよ、セレーナ。俺がこうしてここにいられるのは、間違いなく君のおかげ。初めて魔法を教えてくれたのも、加護を与えてくれたのも君だった。俺に、人に頼ることの大切さを教えてくれたのも君だ。そして、それだけじゃない。セレーナの温かいこの純粋な気持ちは、いつだって俺の心を支えてくれたんだよ。」
陽の声は、次第に感情がこもり、どこか懐かしさと感謝が混じり合っていた。
「ヴァレンティーナの時も、迷宮での戦いの時も…君が俺に口付けをしてくれた時、その純粋な気持ちが、俺の器を大きくしてくれると同時に、俺の心も満たされて、不安が自然と消えていくんだ。だから、足りないなんて言わないでくれよ。俺にとってセレーナは…かけがえのない存在なんだからさ。」
セレーナの目から再び涙が溢れ、その言葉が胸に深く突き刺さるように響いた。
彼女は嗚咽を漏らしながら陽の胸元に顔を埋め、心の中に溜め込んでいた感情をすべて吐き出すように泣いた。
「陽…ありがとう…。本当に、ありがとう……。」
陽は彼女をそっと抱きしめながら、静かに言葉を紡いだ。
「セレーナが俺を支えてくれたように、これからは俺も君を支える。だから、一人で抱え込まなくていい。俺たち、仲間だろ?」
その言葉に、セレーナは小さく頷いた。
部屋の中には静寂が戻り、窓から差し込む柔らかな光が二人を包み込んでいた。その光の中で、互いの存在を再確認するように、二人はしばらく言葉を交わさず寄り添っていた。
しばらくして、陽がふと優しい声で口を開いた。
「セレーナ、色々心配してくれてありがとうな。こんな俺だけどこれからも宜しく頼むよ。」
セレーナは涙を拭い、目元を赤らめながら小さく笑った。
「仕方ないわね。陽はすぐ他の女性とイチャイチャするから、私が見張っておかないとだものね。」
陽はその言葉に驚き、慌てて手を振りながら否定する。
「ちょ、ちょっと待って!俺、そんな!!リーナさんのやつは、誤解だって!」
セレーナはクスリと笑いながら肩をすくめた。
「ふふ、冗談っ。」
陽は安堵の息を吐き、セレーナも微笑みを浮かべてその場の空気が少し和んだ。
その時――
ドンドンドン――ガチャ
「おーーい!陽、セレーナ!」
レオンが慌ただしく部屋に駆け込んできた。
「皆んなに伝えてきたぜ。そしたら、国王が話したいってさ。病み上がりすぐで悪いが陽もすぐに来てくれって!皆んな、王宮の間に集まってる!」
「わかった。国王のところへ行こう。」
すぐに頷き、立ち上がろうとした陽だったが、少し足元がふらついた。
「おい、大丈夫か?肩貸すぞ?」
とレオンが心配そうに手を差し出す。
陽は苦笑しながら手を軽く振った。
「ありがとな。でも、もう大丈夫。歩けるよ。」
「そうか?無理すんなよ?」
セレーナも陽の隣に立ち、心配そうに見守りながら歩き始める。
そう言って陽たちは、国王が待つ王宮の間へと向かって歩き出した。
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