第4話 アレイオスの英雄
リーナがタリアに跨り、アレイオスへと向かって姿を消した後、陽はその背中を見送る。しばらくして、陽もアレイオスの門へと向かい、前へ踏み出そうとした。
しかし、その瞬間――。
トントン――軽く肩を叩かれた陽が反射的に振り返ると、そこには一人の男が笑顔で立っていた。
「やぁ!いや~今回は大変だったねえ、ご苦労さん!」
「ああ、あなたは……!アポロンさん!?」
驚いた陽は思わず叫んだ。アポロンは陽のリアクションに少し笑いながら、肩をすくめた。
「そうそう!君が無事にここまでたどり着けて本当に良かったよ。シャドーファングも無事に倒せたし、なかなか頑張ったじゃないか。」
陽は少し困惑しながらも、アポロンに尋ねた。
「そういえば、リーナさんが言っていたんですが、彼女はアテナから鍛錬を受けているそうです。アポロンさん、どうして俺には直接の指導がないんですか?力だけを与えられても、どうやってそれを使いこなせばいいのか……わからないままじゃ…」
アポロンはその質問に少し眉を寄せ、考え込むような表情を見せた。しばらくしてから、彼は陽の肩に手を置いて言った。
「その答えはもう少し先だよ、陽。君は今、自分で強くなることが必要なんだ。アレイオスに来て信仰を集めることで、君の力は試されることになるだろう。」
その説明に納得のいかない表情を浮かべる陽に対し、アポロンは苦笑いを浮かべながら言葉を続けた。
「まあ、一つ助言をしておこう。この都市で最も力があると言われている男――カイオスに弟子入りしてみな。彼は君が必要としている答えを知っているかもしれないよ。」
「カイオス……?」
「彼はこの都市の英雄だ。かつて、アレイオスを守ったことで知られている戦士だ。彼に弟子入りすれば、君もヘリオスの力をより理解できるようになるだろう。じゃ、僕はここで失礼するよ。頑張ってね!」
そう言うと、アポロンは手を軽く振りながら陽の前から消えた。陽はアポロンの言葉を胸に、アレイオスの門を通り抜ける。
「またすぐ消える…なんて人だ。あ、神か…一応神様だからさん付けしているが、あのてきとーさ。段々神様に思えなくなってきた。次からアポロンって呼んでやるからな。」
アポロンからの助言を受けた陽は少しイライラしつつも、アレイオスの広場へと向かった。そこには多くの戦士たちが日々鍛錬に励んでおり、様々な戦闘スタイルを磨く光景が広がっていた。
その中でもひときわ目立つ存在――それがカイオスだった。鍛え抜かれた体躯と鋭い眼差しを持ち、戦士たちに指導を行っている彼は、まさに都市の英雄にふさわしい威厳を持っていた。
陽はその姿を見てアポロンの言葉を思い出す。
「カイオス……この人か。」
陽は意を決してカイオスに近づき、丁寧に声をかけた。
「カイオスさん、鍛錬中にすみません。俺はアポロンに召喚された日向陽です。はじめまして。早速ぶっこんで申し訳ないんですけど、力を授かっているというか、まだその力をうまく使いこなせていませんて、単刀直入に…どうか、稽古をつけてもらえないでしょうか?」
カイオスは陽を一瞥し、冷静な眼差しで彼を見定める。
「アポロンの召喚者か……ということはヘリオス…険しい道になるぞ、覚悟は決めてきたのか?」
その言葉に一瞬戸惑いを見せる陽だったが、力強く答えた。
「今のままじゃダメだってことは分かっています。この世界で俺のやるべきことを全うするには、もっと強くならなきゃいけない。信仰を集めるためにも、誰かを守るための力が必要なんです。どうか、稽古をつけてください!」
陽の真剣な決意を受け、カイオスはしばらく考え込み、やがて微かに微笑んだ。
「よかろう。だが、俺の稽古は甘くないぞ。お前がどこまでついてこれるか、見させてもらう。」
カイオスはさらに続けた。「3週間後に戦士の大会がある。それまでが修行期間だ。そこでお前がどれほど成長したか、試してやろう。」
陽はその言葉に驚きながらも、心の中で覚悟を固めた。
(うわ~、勢いで言っちまったけど……俺、生きて帰れるか?)
カイオスの訓練は厳しく、体力と技術の限界まで陽を追い込むものだった。陽はカイオスの指導を受けながら、ヘリオスの力をどう使うべきかを学んでいく中で、ある疑問を抱いた。
「カイオスさん、どうしてヘリオスの力について知っているのですか?それに、アポロンがあなたのことを英雄だって言ってましたが……。」
カイオスは一瞬黙り込み、重い口調で語り始めた。
「昔、俺も一度だけアポロンからヘリオスの力を授かったことがあるんだ。アレイオスが他国と戦争状態にあった時、その力を使ってこの都市を守った。だが、精神的にも肉体的にも鍛え抜かれていた俺だからこそ、その力を制御できたんだ。」
陽は驚き、同時にカイオスへの尊敬が一層深まった。
「それで、カイオスさんがこの都市の英雄と言われているんですね。」
「そうだ。しかし、英雄という名に意味はない。大事なのは、力をどう使うかだ。お前も、それを学ぶためにここで鍛錬を積むのだ。」
陽はその言葉に深く頷き、訓練を続ける覚悟を新たにした。
陽がカイオスのもとで訓練を重ねる中、もう一人の弟子、レオンとも顔を合わせる機会が増えていった。レオンは優れた戦士であったが、常にカイオスと衝突していた。
「カイオスのやり方じゃ、俺は強くなれない!もっと戦うべきなんだ!」
「レオン、お前はまだ感情に流されすぎだ。感情で戦えば、隙を作るだけだ。」
二人が言い争う様子を見ていた陽は、ある日、カイオスにレオンの過去について尋ねた。カイオスはしばらく考えた後、静かに語り始めた。
「レオンは幼い頃、アレイオスと敵対していた国『スカイラ』との戦争で両親を失ったんだ。スカイラの戦士によって両親を殺され、彼は深い憎しみに囚われていた。復讐心に駆られ、倒れた戦士の剣を拾い、戦場へ飛び出そうとしたが、それを俺が止めた。」
カイオスの目は当時を思い返すように遠くを見つめていた。
「彼の目には復讐しかなかった。それを見て、俺は彼が破滅する前に手を差し伸べるしかないと悟った。それで、俺は彼を保護し、弟子として育てることにしたんだ。」
陽はその話を聞き、レオンがなぜ力に執着しているのかを理解した。
そして、ついに3週間が過ぎ、戦士の大会の開催日がやってきた。アレイオスの誇り高き戦士たちが集い、力を競い合う大会は都市全体が熱気に包まれていた。
陽もカイオスの指導を受け、剣術を磨き上げた。レオンもまた、優勝を目指して大会に挑んでいた。大会が進む中、陽もレオンも順調に勝ち進んでいったが、突如として現れた謎の仮面をつけた男がその流れを変える。
レオンはこの仮面の男に敗北し、決勝に進んだのは陽とその謎の男だった。
「この男……何者なんだ?」
陽は相手の鋭い雰囲気に気圧されながらも、覚悟を決めて剣を構えた。戦士の大会は、剣のみで戦う厳粛なルールがあり、神々の力を使うことは禁じられていた。陽はアポロンから授かったヘリオスの力を封じ込め、純粋な剣技だけで戦う必要があった。
決勝戦が始まり、激しい剣戟が交わされる。陽は必死に応戦するが、謎の男の技術は圧倒的だった。攻撃を繰り出すたびに、陽の剣は弾かれ、次第に追い詰められていく。
「くそ……こいつ、強すぎる……!」
戦士たちが見守る中、陽は必死に防御を固めながら反撃の機会を探すが、謎の男は容赦なく攻め続ける。会場全体がその緊張感に包まれていた。
そして、その緊張が頂点に達した瞬間、謎の男は突如として剣を下ろし、動きを止めた。
「……?」
観客や参加者たちがざわつく中、謎の男はゆっくりと仮面に手をかけ、その形が徐々に変わり始めた。仮面はまるで生き物のように歪み、最終的には一人の男性の顔へと変化した。
「お前は……!!」
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