第5話 仮面の男
観客席にいたレオンが突然立ち上がり、怒りに燃えた目で謎の男を睨みつけた。
「おまえーーーーーーーー!!!」
レオンは叫びながら剣を抜き、まるで命をかけたかのように仮面の男に突進した。彼の剣は復讐の刃そのものだった。
だが、仮面の男は冷静だった。レオンの攻撃を軽々とかわし、逆に彼を突き放すような一撃を食らわせた。レオンは地面に叩きつけられ、動けなくなってしまった。
邪魔者を排除する様に仮面の男はレオンに襲い掛かる。
誰もが最悪の事態を覚悟したその瞬間、カイオスが咄嗟にレオンをかばうように間に入った。しかし、仮面の男の剣先がカイオスの右目を切り裂いた。
「ぐっ――!!」
痛みに耐えながらも、カイオスは倒れることなく立ち続けたが、目からは血が流れ続けていた。おそらく、彼の右目はもう二度と視力を取り戻すことはないだろう。
「何で……止めるんだ!!」
レオンは涙を流しながら、カイオスに必死に抗い叫んだ。
「力を……復讐に使うな……!」
カイオスの声には深い悲しみがこもっていた。レオンはそれでもなお抵抗し、カイオスの腕から逃れようとしたが、カイオスは彼をしっかりと抑え込んだ。
「だって……だってよぉ、カイオス……あの顔……あの顔は俺の親父おやじの顔なんだよ……!離せよぉぉぉーーーーーー!!!」
レオンは泣きながら必死にカイオスに抗ったが、カイオスの力にはまだ勝てない。
この光景を見ていた仮面の男は、薄笑いを浮かべながら声を上げた。
「ハハハハハハハハハ――!愉快だ……実に愉快だな!人が苦しみ、憎しむ顔というのは、こうも愉快でゾクゾクするものなのか!」
彼の声には冷酷さと歪んだ快楽が混じっていた。
「お前らに教えてやろう。これは、仮面だ。殺した相手の顔に変形する、非常に貴重なマジックアイテムだ。私はこれでアレイオスの国民に成りすまし、この大会に参加した。」
男は仮面の機能について冷淡に説明し始めた。
観客はその言葉にさらに驚きの表情を浮かべた。
本来アレイオスの戦士のみが参加できる大会になぜ外の国の者が参加できるのだと…
アレイオスの国民は、生まれた時から虹彩の情報が魔術によって保管されており、大会のエントリー時にもその虹彩の情報で本人確認が行われる。オリンポスから離れているとはいえ、アレイオスは戦士の力も魔術の技術も非常に進んだ国だった。
しかし、仮面だけではその虹彩情報を完全にコピーできるはずがない……。その事実に気づいたカイオスは、目を見開き、男に向かって言った。
「お前……目を奪ったな。」
「その通りだ。カイオスよ。我が名はガリウス。かつてアレイオスと敵対した国『スカイラ』の戦士だ。そして、今は『あのお方』にお仕えしている者だ。お前たちにこの顔を見せたのは、ただの序章に過ぎん。青年よ、覚えておけ。これからお前は俺を恨み続けるがいい。憎しみに溺れるがいい!」
カイオスは、暴れるレオンを必死に抑えながら、鋭い目でガリウスを見据えた。
「お前は何しに来た……!」
ガリウスは冷ややかに笑いながら答えた。
「何しに来た??もちろん、偵察に来たのですよ。エリシュアでも屈指の戦闘力を誇ると言われているアレイオスの戦士たちの力を、この目で確かめたくてね。カイオス、あなたはあの戦いで、私が尊敬していた上官を討たれました。正直、驚きましたよ。我が国で最強とされていたあのお方が敗れるなど、想像もしていませんでした。しかし、戦いに犠牲はつきもの。戦士としての私はその事実を受け入れました。だからこそ、あなたが率いるアレイオスの戦士たちの実力を楽しみにしていたのですが……残念ながら、期待外れでしたね。あなた方は私の目に留まるほどの価値もありません。」
仮面の男の正体は、かつてアレイオスと敵対していた国の戦士、ガリウスだった。『あのお方』の命令により、その目を魔法で自らに移植していたのだ。彼の両目は、アレイオス国民にしか現れないブルーサファイアの瞳と黄色い瞳を併せ持つ、特徴的なオッドアイとなっていた。
ガリウスの目を見て、レオンは苦しみながら叫んだ。
「なんで……なんで俺の父親おやじの目を奪ったんだ!!!」
ガリウスは冷淡に答えた。
「そうですね、どこから話しましょうか……。あぁ、あそこからがいいですね。当時、アレイオスとスカイラの戦いで俺は瀕死の状態にあった。上官も仲間も死に、俺も生きる希望を失っていた。だが、そんな時に『あのお方』が現れたのだ。」
ガリウスの目が遠くを見つめ、記憶の中へと沈んでいく。
「お前を私の理想郷に導いてやる―――」
ガリウスの前に立っていたのは、圧倒的な力を放つ存在。彼の威圧感は、上官を遥かに凌駕していた。ガリウスはその強大なオーラに圧倒され、全身が震えた。
「はい、マスター……」
その瞬間、ガリウスは無条件に服従し、彼の命令を受け入れることを決意した。そして、その男から次の命令が下された。
「手始めにお前にやってもらうことがある―――」
ガリウスは回想から戻り、冷たい笑みを浮かべながら続けた。
「そうさ、私は、お前の父親ちちおやを殺し、その目を奪ったのだよ。あの時の私は、『あのお方』の命令に従うだけだったが。あぁ、あなた様はこのようになることを予想しておられたのですね。だから私に目を奪えと……」
ガリウスは微笑みながら余韻に浸る。
レオンは絶望の中で言葉を失い、声を絞り出すことができなかった。
「レオン、ここで待ってろ。俺がやつを止める。今のお前では、あいつには勝てん。」
片目を失いながらも、カイオスは剣を握り、ガリウスに向けた。
「カイオス……俺に力がないからか……。俺にもっと力があれば……!」
レオンは涙ながらに叫んだが、カイオスは静かに言い返した。
「勘違いするな、レオン。力を感情で振るうだけが強さではない。誰かを守るために、その力を使うんだ。それが真の戦士の強さだと、いつも言っていたはずだ。」
そして、カイオスはガリウスに剣を向け、最後の決戦の覚悟を決めた。
「さあ、ガリウス。ここで終わらせよう。」
ガリウスは興味深そうにカイオスを見つめ、言った。
「いいだろう、カイオス。だが、私は『あのお方』の命令がある限り、戦う理由はある。」
その瞬間――。
「ちょっと待ってくれ。カイオスさん―――」
陽の声に、カイオスとレイカスが同時に振り返った。
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