新たな運命編
第3話 アレイオスへの道
シャドウリーパーを討伐し、カルマの村を後にした陽は、信仰を集めるために次の目的地「アレイオス」へ向かっていた。アレイオスはエリュシアでも名高い戦士たちの都市であり、戦士たちが自らの力を証明し、信仰を集めるための神殿がある場所だ。アポロンから「アレイオスで信仰を集めることで、お前の力が試される」と告げられた陽は、その指示に従ってアレイオスを目指していた。
「アレイオスに着けば、何か道が開けるかもしれない……。」陽は期待と不安を胸に抱きながら進んでいた。
しかし、旅の途中、突然として陽は強力な魔物に襲われる。巨大な爪と鋭い牙を持つ魔物は、陽の身の丈をはるかに超える凶暴な姿をしており、圧倒的な力で陽を追い詰めていく。
「くそっ……!何なんだ、こいつは!」陽はアポロンの加護を使おうとするが、その力をまだ完全には制御できず、魔物の攻撃を防ぎきれないでいた。
「このままじゃ……!」
陽が魔物の猛攻に耐えられず、危機に直面したその瞬間、空から鋭い風を切る音が響き渡った。
バサッ―――クワァァァァ!!!
巨大な影が陽と魔物の間に割り込む。それは、美しくも力強いグリフォンだった。黄金色の羽を広げ、その鋭い目で魔物を睨みつける。
「何をしていらっしゃるんですか、こんなところで!」突然、女性の声が鋭く響いた。振り返ると、グリフォンの背に乗った茶色の髪をなびかせた女性が現れた。彼女は冷静な判断でグリフォンに指示を出し、その鋭い爪で魔物を一撃で地面に叩きつけた。強烈な風圧が周囲を揺るがす中、彼女は一切の動揺を見せず、周囲を警戒する。
陽は驚きと安堵の入り混じった表情で彼女を見つめた。彼女は迷いなく魔物を一掃し、余裕を持ってグリフォンの背から降り立った。
「……助けていただき、ありがとうございます。」陽は息を切らしながら感謝の言葉を述べたが、彼女は少し眉をひそめ、優しくも厳しい口調で返答した。
「危ないところでしたね。もっとご自分の力を理解して行動された方がいいと思います。こんなところで命を落とすつもりですか?」その言葉は一見冷たく聞こえるが、心配している様子が窺えた。
「本当に助かりました……でも、まだ力をうまく使いこなせなくて……」陽は敬意を持って返答したが、彼女はそれ以上の追及を避けるように軽くため息をついた。
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」陽が尋ねると、彼女は無言で立ち去ろうとした。その瞬間、陽がグリフォンの雄大な姿を見て再び問いかける。
「もしかして……あなたも神の召喚者ですか?」
その言葉に反応した彼女は、少し笑みを浮かべた表情に戻り、短く答えた。「私の名前はリーナ・ハートフォード。アテナの召喚者です。あなたは?」
「僕は日向陽と申します。アポロンに召喚されましたが、まだ力を完全には使いこなせていなくて……。」陽は恥ずかしそうに答えた。
リーナは少し困った表情を浮かべながらも、丁寧に尋ねた。「その状態で、どうやって信仰を集めようと考えているのですか?」
「これから何とかしていこうと思っています。」陽は少し戸惑いながら返事をしたが、リーナは冷静に続けた。
「それなら、もっとご自身を鍛えられた方がいいですね。自分の力を信じられなければ、他人の信仰を得ることなどできませんよ。」
リーナの言葉は冷たく聞こえたが、彼女なりに陽を心配していることが伝わってきた。
お互いに自己紹介を済ませたところで、陽は尋ねた。「リーナさんは、どこに向かっているのですか?」
「アテナの指示で、私はアレイオスに向かっています。」リーナはあっさりと答えた。
「アレイオスに……」同じ目的地だったのか……と陽は少し驚いた。
「僕もアレイオスに向かっているんです。もしよければ、同行してもいいですか?俺、この世界に来たばかりで戦い方とか信仰を集めるとかよくわからなくて…」
リーナは少し考え込んだが、やがて丁寧に頷いた。「途中までなら一緒に行きましょう。ただし、あまり私に頼りすぎないでくださいね。ご自身の力をもっと信じることが大切です。」
「ありがとうございます。でも、一緒に行けるなら助かります。」陽は感謝の気持ちを伝えたが、リーナはどこか心配そうな表情を浮かべていた。
「感謝はいいですから、しっかりご自分を鍛えてください。」リーナは優しさを隠すように、少しだけ厳しい言葉で忠告した。
道中、陽とリーナは森の中を進んでいた。静かな森を歩く中、陽はふとリーナに質問を投げかけた。
「リーナさんは、どうしてそんなに強いんですか?」
リーナは一瞬足を止め、考えるように目を伏せた。そして、静かに口を開いた。
「私の強さは、アテナの知恵と鍛錬のおかげです。でも、何より大切なのは、自分の目的を見失わないことですよ。私には、守りたいものがあります。それを守るために、どれだけ辛い道でも進む覚悟があるんです。」
「守りたいもの……ですか?」陽はその言葉に驚き、リーナの本心を知りたいと思った。
リーナは少し微笑み、「ええ。自分の世界とエリシュアの民を守ること、それが私の使命です。そして、信じるもののために戦い続けることが私の強さの源です。」まだまだ胸に秘めていることはありそうだが、そう答えた。
「恐らくリーナさんは俺よりも若いはずなのにしっかりしているな。なのに俺ときたら、まだこの世界になじめていない。まだエリシュアにきて3日だから仕方ないかもしれないが、リーナさんはいつここに召喚されたんだ?てか、神から鍛錬って受けられるのか?アポロンはそんなこと一言も……」
陽が頭の中でアポロンやリーナの強さのことを考えていると、森の中から突然、子供の悲鳴が響き渡った。二人はすぐに声の方へ駆け寄ると、一匹の魔獣が小さなドワーフの子供を追いかけている光景を目にした。魔獣は鋭い爪と圧倒的なスピードを持つ邪悪なライオンのような姿をしていた。その名は「シャドーファング」。凶暴な魔獣だ。
「助けてください!」ドワーフの子供は必死で逃げていたが、シャドーファングがすぐ近くまで迫っていた。
「なんでここにシャドーファングが―――」
リーナは疑問に思ったがすぐに行動に移った。「タリア!」とグリフォンの名前を叫ぶと、黄金色の羽を持つグリフォンが再び姿を現した。リーナはタリアに指示を出し、シャドーファングに向かって一気に突進させた。
「タリア、風の攻撃!」
タリアは素早く空を舞い、シャドーファングに攻撃を加える。
タリアの鋭い攻撃がシャドーファングを捉えたが、シャドーファングはすぐに体勢を整え、鋭い爪で反撃してきた。タリアもすぐに回避し、空中でバランスを保ちながら再度シャドーファングに挑んでいたが、その動きの速さに完全には圧倒できていない。
「さすがに手強いですね……。」リーナは冷静に状況を分析しながら、さらに強力な一手を考えていた。
シャドーファングは再び立ち上がり、タリアに飛びかかろうとした。その瞬間、リーナが静かに詠唱を始めた。
「風よ、知恵の力を持ちて我が刃に宿り、敵を討つ刃となれ――『ウィンド・クレスト』!」
リーナの詠唱が終わると同時に、彼女の手に握られた剣が光を帯び、風の刃をまとった。強力な風が彼女の周りを渦巻き、その剣に集まっていく。剣はただの武器ではなく、リーナの魔力とアテナの恩恵が注がれた象徴だった。
リーナはその輝く剣を持ち、躊躇なくシャドーファングに向かって突進した。シャドーファングが再び襲いかかろうとした瞬間、リーナはその首元に一気に剣を振り下ろした。
「これで終わりです―――!」
シャドーファングの首は一瞬にして切り裂かれ、その巨大な体は地面に崩れ落ちた。首は灰となって消え、残されたのは魔獣の核となる「魔晶石」だけだった。
リーナは静かに剣を納め、魔晶石を見下ろした。陽もその場に駆け寄り、ドワーフの子供を守りながらリーナの勝利を見届けた。
「リーナさん……本当にすごい。俺はただ見ているしかできなかった……。」陽は悔しさを感じつつも、リーナの強さに感嘆していた。
「いえ、守るべきものがある時、人は自然に強くなれるものです。」リーナはそう言いながら、魔晶石を拾い上げ、少し考え込んだ。「この魔晶石、ただの石ではありません。魔物が持つ強力な力の源ですが……今は不要です。」
そう言って、リーナは魔晶石を陽に差し出した。「あなたが持っていてください。いずれ役立つ時が来るでしょう。」
陽は驚きつつも、リーナの申し出に従い、魔晶石を受け取った。「ありがとうございます。でも、こんな貴重なものを俺が持っていていいんですか?」
「はい。あなたが力を鍛えるためには、こうしたものも必要です。いずれ自分の役に立つでしょう。」リーナは静かに微笑んでいたが、その目はまだ厳しく陽を見据えていた。
その後、リーナと陽は無事にシャドーファングを倒したことを確認し、ドワーフの子供に駆け寄った。
「ありがとうございます……本当に助かりました……!」ドワーフの子供は涙を流しながら、リーナの方へ走り寄った。
「もう大丈夫ですよ。怖い思いをしましたね。」リーナは優しく声をかけ、子供の肩を抱いて安心させた。
「でも、お父さんとお母さんとはぐれてしまって……」子供は泣きながら話した。
リーナと陽はその話を聞き、すぐに助けを決意した。「一緒に探そう。お父さん、お母さんもきっと心配しているよ。」陽が優しく声をかけると、子供は頷き、三人は森の中を進み始めた。
しばらくして、森の奥で焦って子供を探しているドワーフの夫婦を見つけた。リーナと陽は声をかけ、無事に親子を再会させた。
「助けてくださって、本当にありがとうございます!」ドワーフの夫婦は涙を流しながら深々とお辞儀をした。
「当然のことをしたまでです。ご無事で何よりです。」リーナは微笑みながら言った。
「あなた方がいなければ、この子はどうなっていたか……本当に感謝しています。」
その瞬間、ドワーフの夫婦が深々とお辞儀をしたとき、リーナの胸元がほのかに光を帯びた。陽は一瞬その光に気づき、目を凝らして見た。信仰を集めた証であるかのように、リーナの胸元が淡い輝きを放っていた。
「これは……信仰の力?」陽は心の中で問いかけた。リーナはそのまま笑顔を保ちながらドワーフたちに対応しているが、その輝きはほんの一瞬だった。それが消え去ると、陽は思わず彼女に問いかけたくなったが、言葉を飲み込んだ。
「今の光……もしかして、魔物からの信仰も集まっているのか……?」
リーナは何も気にする素振りを見せず、ただ礼儀正しくドワーフたちの感謝を受け止めて、彼女は平然とした態度を保っていた。
「リーナさん……」陽は声に出すのをためらったが、そのままドワーフ親子とのやり取りを見守ることにした。
その感謝の言葉を受け、陽とリーナは再びアレイオスへ向けて歩き始めた。
そしてついに。陽とリーナは、アレイオスの近くまでたどり着いた。遠くには都市の城壁が見え始め、アレイオスの壮大さが陽の目に映る。
「ここまでですね。」リーナが歩みを止めて告げた。
「ここまでご一緒してくださり、本当にありがとうございました。」陽は改めて感謝を述べたが、リーナは軽く頷くだけだった。
「アレイオスは戦士の都市です。ご自身の力を信じて進むことが大切ですよ。」
「分かりました。もっと強くなってみせます。」陽は決意を込めて答えた。
リーナはそれ以上何も言わず、少しだけ陽を期待するような笑みを浮かべ、再びタリアに跨り、先にアレイオスに向かった。
「よしっ。」
陽もアレイオスの門へ一歩踏みだそうとした
その瞬間ーーートントン。誰かに肩を叩かれた
陽が反射で振返った途端、ある男がいきなり現れた。
「やぁ!いや〜今回は大変だったねえ、ご苦労さん!」
「あああ、あなたは!アポロンさん!?!?」
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