第10話 精霊族の姫
陽とリオンの模擬戦は、ますます激化していた。アレイオスでの冒険を経て、陽は少しずつヘリオスの力を使えるようになっていた。しかし、リオンの精霊魔法と剣術のコンビネーションは凄まじく、陽はその戦闘力に圧倒されていた。
リオンが羽ばたくたびに精霊の魔力が空気中に満ち、剣を振り下ろす一撃一撃が陽を追い詰める。陽は必死に防戦し続けるものの、その強大な力の前に苦戦を強いられていた。
「やるじゃないか、だがこれで終わりだ!」とリオンが叫び、空中から強力な風の精霊魔法を詠唱し始めた。
「大気を纏い、旋風となりて、我が敵を飲み込め。風の精霊よ、嵐を起こせ!ーヴォルテクス・テンペスト!ー」
渦巻く風の魔力が陽に襲いかかり、一瞬にして彼を飲み込もうとする。
陽は剣を構えて何とか防ごうとしたが、リオンの精霊魔法は強大すぎて完全には防ぎきれなかった。
(どうすれば、この状況を打開できるんだ…?)
その時、陽はカイオスからの教えを思い出した。
「集中しろ。ヘリオスの光を全身で感じることさえできれば、お前の意志にヘリオスは応えてくれる。」
陽は苦しみながらも全身にヘリオスの光を集中させ、剣に纏わせた。剣はまばゆい光を放ち、その光がリオンの精霊魔法を切り裂くように強く輝き始めた。
「これが…ヘリオスの力か…!」
陽の剣はヘリオスの力を纏い、その光はリオンの風の魔法を一気に消し去った。リオンは目を見開き、驚いた表情を浮かべた。
リオンの攻撃が一瞬止まったその隙をついて、陽は渾身の力でリオンに突進した。
「行くぞ、ヘリオス!!ールクス・ペルクッシオー!」
剣に纏った光が閃光のように走り、リオンに向かって一直線に振り下ろされた。
「うぉぉぉぉ!!」
陽の剣がリオンの剣と交差し、光が広がった。リオンの防御は強固だったが、ヘリオスの力を纏った陽の剣には対抗できなかった。
リオンはその一撃をまともに受け、後退を余儀なくされた。彼の顔には驚きと感心が浮かび、静かに膝をついた。
「見事だ…ヘリオスの力をここまで引き出せるとは…。お前の勝ちだ、陽。」リオンは疲れた様子で微笑み、勝者を称えた。
模擬戦の終了を告げる静寂が広がる中、陽はリオンの言葉を聞き、勝利を確信した。
リオンは剣を収め、深呼吸をしながら一歩前に出た。
「お互いの健闘を称えよう。」リオンは手を差し伸べ、陽はその手をしっかりと握り返した。
その様子を見守っていた国王アルカディアもまた深く頷き、陽に温かい眼差しを向けた。
「見事だ、陽。ヘリオスの力、見届けたぞ。精霊族を代表して我、アルカディア・グランディスが、日向陽とレオン・アストライアのヴァレンティーナ王国滞在を許可する。」
陽はその言葉を聞いて少しホッとした。しかし、その瞬間、目の前が突然暗くなり、体が重くなっていく。
「くっ…!なんだ…これは…。」
陽はそのまま倒れ込み、意識を失った。
リオンとレオンが驚いて駆け寄り、陽の様子を確認する。リオンはすぐに状況を察し、陽が限界を超えてヘリオスの力を使いすぎたことを理解した。
「無理をしすぎたな…」とリオンはつぶやき、陽を抱きかかえ、アルカディア王の指示で客室に運ばれた。
数時間後、ソファに仰向けになった状態で、陽はゆっくりと目を覚ます。
「ん…?」
陽は自分の目を擦り、少し目を細めてピントを合わせると、そこには美しい女性がいた。明るいブロンドの長く柔らかい髪、透き通るような水色の瞳。胸元には大きな青い宝石が輝き、装飾的なネックレスやベルトが彼女の高貴さを強調していた。
「お目覚めですか?」
彼女は柔らかな笑顔を浮かべながら、陽を見つめていた。
「えっ…?」
状況を把握し、自分が膝枕をされていることに気づいた陽は慌てて大声を出そうとしたが、その瞬間、
「しーーーっ。」
彼女は優しく囁き、陽の唇に人差し指を当てた。その優しい声と指先に、陽の声は一瞬で詰まった。
「んんっ!」
慌てる陽に対し、彼女は穏やかに微笑み、手を彼の額に置いた。そして静かに精霊魔法を使い始めた。彼女の手から柔らかい光が放たれ、それが陽の体を包み込み、疲れた体を癒していく。
「なんだ…この力…?」
陽は驚きつつも、体が徐々に軽くなり、心が落ち着いていくのを感じた。
「安心して、大丈夫だから…力を抜いてください…。」
その優しい声に導かれるように、陽は少しずつリラックスし、深く息を吐いて小さな声で問いかけた。
「あなたは…誰ですか?」
「申し遅れました。私の名前はセレーナ・グランディス。精霊族の国王アルカディアの娘です。リオンとの試合後、倒れたあなたを父から見守るように言われ、ずっとここにいました。」彼女は静かに自己紹介を始めた。
「え、それって、まさか、精霊族の…お姫様ってことですか?」陽は驚きの表情を浮かべ、彼女は照れくさそうに頷いた。
(おいおいおい、どうなってるんだ!?異世界に飛ばされ、神様に力を託されて、仲間も増えて、ヘリオスの力を使えるようになって、気づけば精霊族の姫様の膝枕とか…!どんな状況だよ!!)
しばらく内心で混乱しながらも、陽は冷静さを取り戻し、自ら起き上がってソファに腰掛けた。だが、どうしてもセレーナの視線が気になって仕方がない。
彼女は陽のすぐ隣に座り、じっと彼を見つめている。
「陽さん…」
セレーナは優しく陽の名前を呼んだ。
「え、えっと、はい!なんでしょうか、セレーナさん?」陽は焦りながらも答えた。彼女の声は柔らかく、それでいて強く引き込む力を持っていた。彼はますます緊張し、自分の鼓動が速くなる。
「どうして…あなたはヘリオスの力を使えるのですか?」セレーナは陽に少し身を寄せ、彼の目を見つめながら尋ねた。
「ヘリオスの力…それは、神々の力で、俺が…えっと、どういう経緯かっていうと…」陽は言葉を選びながら答えようとしたが、彼女が近づくことでさらに焦り、その美しさに息を呑んだ。動揺する彼の目の前で、セレーナは微笑みながらさらに質問を続けた。
「あなたのことも教えてください。」
「俺のことも…?」陽はさらに戸惑い、顔が真っ赤になった。彼女が近づくたびに、彼の心臓は速く鼓動を打った。
「ちょっと…近いです!セレーナさん!」陽は慌てて体を引こうとしたが、ソファの背もたれに当たり、それ以上さがることができなかった。
「行き止まり!?」
その時、セレーナはそっと手を伸ばし、彼の頬に軽く触れた。指先は柔らかく、風のような軽やかさがあった。
「ひぃっ…!」
陽は顔を真っ赤にして焦った声を上げた。
そのまま彼女は指先で彼の頬をなぞり、陽の耳元で唇を動かし何かを囁こうとした瞬間、部屋のドアをノックする音が響いた。
「ゴンゴンッ」
「陽ぉー、入るぞー、目覚めたかー?」陽のことを心配したレオンが、部屋に入ってきた。
「あら、レオンさん。来てくださったのですね。」
「あぁ、姫さん!こんな時間まで陽の世話してくれていたんですね!ありがとうございます。」
「レオン、セリーナさんと知り合いなのか?」
「そうだな、お前がヘリオスの力を使って倒れた時、俺とリオンが駆けつけたんだが、同時に、姫さんも駆けつけてくれて、治癒魔法をかけてくれたんだぜ?感謝しとけよ。」
「そうだったのか…。セリーナさん、俺に治癒魔法までかけてくださり、ありがとうございました。」
陽が感謝の気持ちを伝えると、セリーナは、満足そうに笑みを浮かべる。
「姫さん、陽の状態はどうっすか?」
「あぁ、レオン!おれは、げんっ」
陽の言葉に被せる陽にセレーナが口を開く。
「体力は回復しました。でも見ての通り少し熱があるみたいで…。あと1〜2時間も休めば元気になると思うから私が看病しますね。」
「えっ?」
(えええええええーーーーーー!!!この人何考えてるんだ!!いやいや、顔が火照っているのはあなたが原因だろ!)
「ちがっ」またまた陽に被せる様に次はレオンが言葉をかける。
「確かにまだ完全復帰って感じじゃあ、ないっすね。そしたら、俺はまだリオンと稽古しようと思うんでまた後で様子見に行きますわぁ!!姫さん陽のこと宜しくお願いしますっ」
深々と頭を下げて、レオンは部屋を出ていく。
陽とセレーナはまた2人きりになった。
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