第59話 黒の正体
カンジェロスは一同を見渡し、再び口を開いた。その声には国王としての威厳と、どこか重苦しいものが込められていた。
「では、アポロンの話が終わったところで、私から伝えるべきことを話そう。話は3つだ。」
広間全体に緊張感が走り、陽たちも身を乗り出して耳を傾ける。
「1つ目、君たちにアクエリアスへ向かってもらう理由。それは、水の都アクエリアスの蒼帝に会いアクエリアスとベオリアが抱える問題の解決に力を貸していただきたい。」
「抱える問題…?」陽が問い返す。
「そうだ。アクエリアスとの水路が、近年ベオリア周囲の砂漠化により絶たれつつある。その水路は我が国の命脈とも言える重要なものだ。しかし、その砂漠化の原因が、アクエリアス都市の深層に出現した一体の魔物と関係しているらしい。」
「魔物ですて…?」リーナが鋭い目を光らせる。
カンジェロスは頷き、続けた。
「その魔物の討伐、そして水路の再建について、アクエリアスの蒼帝と協議する必要がある。これが一つ目だ。」
陽は考え込むように眉を寄せた。
「深層に現れた魔物…それが水路を断つ原因とは?」
「詳細はまだわからぬ。しかし、その魔物が現れて以来、水路の水が徐々に干上がっている。奴の力が原因である可能性は高い。アクエリアスがベオリアへ水を供給する事により、ベオリアは見返りとして様々な技術などを提供し支えあってきた。この近郊が崩れる恐れがある。」
「なるほど…」陽は真剣な表情で頷いた。
カンジェロスは少し間を置き、再び口を開いた。
「次に、2つ目。私が狙われた理由について話す。」
「アクエリアスの蒼帝が、その魔物を発見したのだが、奴はただの魔物ではなかった。言葉を少し話せるらしい。そして奴が言った言葉が『ウルニス迷宮』だった。」
「ウルニス迷宮だと…」陽は小さく繰り返した。
「私もその話を聞き、迷宮の調査に向かう決意をした。だが、調査の前夜、影の組織に襲撃されたのだ。」
「奴らは迷宮に眠る力を狙っていた。だが、ただ狙うだけではなく、その力を引き出すために私を利用しようとしたのだ。」
「利用…ですか?なぜ…?」陽が慎重に問いかける。
「迷宮はその管理者――つまり、私が王としての『民からの信頼』や『想い』の大きさによって、その力を大きくする性質がある。私は影の組織にとって、迷宮の力を引き出すための最適なトリガーだったのだろう。そして、奴らは重力を操る能力者を使い、私を封じ込めた。身動きが取れないまま、迷宮に囚われたのだ。」
カンジェロスは深く息を吐き、さらに続けた。
「そして最後に3つ目だ。」
その言葉に、一同の視線が再びカンジェロスに集中する。
「君の意識を乗っ取った正体について話そう。」
その言葉に、広間の空気が一変した。重々しい沈黙が場を包み、陽は思わず息を呑んだ。
「意識を乗っ取った正体…」
カンジェロスは陽を見つめ、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「それは――ヘリオスの闇の部分だろう。」
その瞬間、広間にいた全員が言葉を失った。目を見開く者、息を呑む者。陽自身も驚きのあまり言葉を発せなかった。
カンジェロスは続けた。
「貴方たちは、すでに予想していたのではないか?アポロン。そして――陽の中に宿る、元・太陽神ヘリオスよ。」
アポロンの表情が曇り、軽い雰囲気は消え去っていた。代わりに彼の目には、迷いと苦悩が垣間見えた。
陽はその視線を感じながら、混乱の中で問いかけた。
「どういうことだよ…アポロン。」
アポロンは答えをすぐに返さなかった。
その代わり、深く息を吐き、静かに言葉を選び始めた――その時。
「その話、私から説明しよう。」
その言葉の後、突然広間に光が差し込むような輝きが広がり、その光は徐々に広がっていった。
やがて、その光の中から現れたのは――ヘリオスそのものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます