GOD Buddy ~ある日突然神から力を託されました~

@keeeyeah47

序章 雷神失踪編

第1話 雷鳴の止んだ日

ーーー天界オリンポスーーー

 オリンポスの山頂は、いつもとは異なる静寂に包まれていた。普段ならば、ゼウスの怒りを象徴するように、雷鳴が轟き、神々を震え上がらせるはずだった。しかし、今や雷は止み、ゼウスの玉座はひっそりと空席のままだった。


 オリンポスの神々は、雷神の消失に驚きと不安を隠せなかった。ゼウスの不在という異常事態が、すでに三日も続いていた。天空と雷の神、世界の秩序を保っていた彼がいなくなった今、オリンポスの神々には不安定な空気が漂っていた。


 ポセイドンは不機嫌そうに眉をひそめながら、玉座に近づいた。彼はゼウスの兄であり、海を司る神。ポセイドンは兄の失踪に憤りを感じながらも、これがオリンポス全体にどのような影響を及ぼすかを考えていた。「このままでは世界が崩れかねない……ゼウスが消えるなど、前代未聞だ。」


 ヘラは冷静さを装っていたが、その瞳には不安の色が浮かんでいた。彼女はゼウスの妻であり、結婚と家庭の女神としてオリンポスを守ってきた。夫の不在は、彼女の誇りを傷つけ、オリンポス全体に混乱をもたらすものであった。


「ゼウスは何かを残しているはず。」ヘラは神殿の中央にある石板に目をやった。その石板は光を放っており、ゼウスが残した遺言が刻まれていた。


ヘラがその言葉を静かに読み上げた。


『オリンポスの神々へ。私は去る。王座を守るのはもう私ではない。次なる王は、下界の民の信仰によって決まるだろう。自らの力を一人の人間に託し、見守りなさい。信仰を集めた者こそ、真の王に相応しい。』


 その言葉が神殿内に響くと、神々の間には静寂が広がった。ゼウスが姿を消し、さらに新しい王は


「信仰」


によって決まるというのだ。神々はその意図を理解し始めたが、それは同時に、神々自身の競争を意味していた。


彼らはそれぞれ選んだ人間に力を授け、下界で「信仰」を集めさせることになったのだ。 神々の間で不安と混乱が広がる中、アポロンはゆっくりと微笑を浮かべた。彼はゼウスの息子であり、太陽と音楽、予言の神として知られていた。アポロンは他の神々の顔を見渡しながら、冷静に言葉を放った。


「これは、面白い展開になりそうだ。人間たちが我々の力をどう使うか……そして、どの人間が頂点に立つか。我々も見守らなければならないな。」


 アテナは無言のまま、アポロンの言葉に頷いた。彼女は知恵と戦略の女神であり、ゼウスの娘として冷静な判断を下すことに長けていた。「力を使って信仰を集めるといっても、それは容易ではない。下界の民、さらには精霊や獣人、エルフ、竜族、魔物たちさえも対象になるでしょう。下界の人間が我ら神々の代わりとなり、信仰を集める、そして信仰を最も多く集めた者が新たな王座になると言うことですね。」


 アポロンはすでに決断していた。彼は、自らの力を託すにふさわしい人間を見定めていた。そして、その選ばれた者がどのように運命を変えるかを楽しみにしていた。




ーーー下界日本ーーー

 日向陽ひなた ようは27歳のサラリーマン。いつものように忙しい日常を送っていた。彼は最近、営業部の課長として昇進し、仕事に追われる毎日を過ごしていたが、その中でどこか物足りなさを感じていた。


「今日も忙しすぎる……」陽は自分の机に積まれた書類を見て、ため息をついた。日々の業務をこなすだけの日常に、どこか違和感を覚えながらも、それが何なのか自分でも分からなかった。


 昼食の時間が近づくと、彼はいつものようにコンビニに向かった。自動ドアが開き、冷たい空気が彼を迎え入れる。陽はいつものようにチキン南蛮弁当を手に取り、レジに向かった。


「弁当、温めてください。」陽は店員に声をかけた。


 その時、レジに立っていた男性店員がニヤリと笑いながら返事をした。「今日はアメリカンドッグは買わないのかい?いつも買ってるだろう?」


 陽は驚きつつも、軽く笑って答えた。「ああ、最近はちょっと控えてます。いつも買ってたのを覚えてるんですか?」


 店員は笑みを浮かべながら、弁当を温め始めた。「毎日来るからな、覚えちまうよ。」店員はそう言って、弁当を温めた。陽はそのまま受け取り、軽く会釈してコンビニを出た。


 その夜、仕事を終えた陽は少し遅くなった帰り道、公園を通り抜けることにした。オフィス街の片隅にあるこの小さな公園は、昼間は賑わっているが、夜になると人もまばらで、今はほとんど誰もいない。


 夜風が木々を揺らし、微かな月光が公園を照らしていた。ふと、陽は足を止めた。周囲の街灯が一瞬チカチカと瞬き、暗くなったかと思うと、突然そこに一人の美しい男が立っていた。黄金の髪を持ち、まるで夜の空気に溶け込むようなその姿。彼の目はまっすぐに陽を見据えていた。


徐々に彼に近づき声をかけた。

「こんばんはっ!日向陽……。」


「うわぁぁ!はいっ!日向です!!!…ってあなたは誰ですか!?!?」


「ごめん、ごめん、驚かせてしまったね。僕の名前はアポロン!オリンポス十二神のアポロンさっ!」


「アポロン……オリンポス十二神って、あの神話の?」陽は驚いて声を上げたが、目の前の男が放つ強烈なオーラに言葉を飲み込まれた。


「そうだよ。」アポロンはニコリと頷いた。


「僕は君に、力を託すためにここに来たんだ。君は、異世界で僕の力を使い、様々な試練を乗り越えてもらうよ。そして、僕の代わりとなって民の信仰を集めてくれ。最も多くの信仰を集め、その者を召喚した神こそが、新たなオリンポスの王となるんだ。」


「信仰を集める?それと…試練とは一体なんだ?…言ってることがさっぱりですよ…そんな冗談は…」陽は戸惑い、アポロンに質問を投げかけた。


 アポロンは少し口元に笑みを浮かべながら答えた。「試練とは、君がこれから行く異世界で出会うすべての出来事だよ。戦いも、困難も、そして人々の信頼を得るための行動も。ただ力を振るうだけではなく、心で人々と繋がり、信仰を集めなければならない。時には、魔物たちでさえも信仰の対象にすることもある。」


「魔物……まさか、人間だけじゃなくて?」陽はさらに驚きを隠せなかった。


「そう!人間だけが信仰の対象ではない。その世界では、魔物や異なる種族たちも存在する。彼らが感じた敬意や信頼が、君の力の源となるのさ!」アポロンは笑を浮かべながら説明した。


「でも、なんで俺が選ばれたんだ?普通のサラリーマンだし、特別な力なんて……」


 アポロンは陽をじっと見つめながら答える。

「君を除いて他にも9名が召喚された。君が召喚されたその理由はそのうちわかるよ。僕もなぜ、君を召喚したのか、よくわからなくてね。ただ何かに惹かれたんだ。神々の直感ってやつかな。恐らく他の神々も同じだと思うよ。」


「さ!立ち話はここまで!とりあえず行こうか!」

 アポロンはそれを合図にするように手を掲げると、周囲の景色が急速に歪んだ。


「行くってどこにですか!?!?うわぁ!!」

陽の体は光に包まれ、目の前の公園は遠ざかり、視界がぼやけていく。彼は叫び声を上げる間もなく、完全に異世界へと引き込まれていった。





ーーー異世界「エリュシア」ーーー

 目を覚ました陽の前には、見たこともない広大な草原が広がっていた。遥か遠くの空の上にはオリンポスがそびえ立ち、その直下に広がる大地には、神話のような生物や建物が散在している。ここは「エリュシア」と呼ばれる異世界――オリンポスと直結する場所だ。


 アポロンの声が再び響いた。「日向陽ーー!!ここが、君の新たな運命の舞台、エリュシアだ。この世界で、君は信仰を集め、試練を乗り越えていく。人間の信頼、他種族、魔物の敬意……すべてが、君の力となるだろう。そして、頼む僕らの世界、君の世界を救ってくれ。」


「信仰が……力になる?」陽はまだ混乱していたが、その意味を徐々に理解し始めた。信仰を集めれば集めるほど、彼の力は強くなり、王座に近づくことができる。だが、それは単なる力の競争ではなく、人々の心を動かす行動が必要なのだとうことを。


「……って王座ってアポロンさん!!っちょ!!どこですか!!」


陽が空に向かって声を張り上げるも、アポロンの返事はなかった。


陽は不安と不安と不安の気持ちで、エリュシアの地に立ち、冒険の一歩を踏み出そうとしていたのであった。


「え、俺…身一つで召喚させられたけど…この先どうすればいいんだぁーーーー!!!!アポロンさーーーーん!!!」

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