第30話 ペアリング
陽が目を覚ますと、隣でセレーナが静かに眠っていた。朝の柔らかな光が彼女の顔を照らし、その寝顔はまるで夢のように穏やかだった。陽は思わず微笑んでしまい、そっとため息をついた。
(こんなに可愛い人が隣にいて、何もしなかった俺、褒めてやりたいな…)
陽がそんなことを考えていると、セレーナがゆっくりと目を開けた。陽の顔に気づき、彼女は一瞬で眠気を吹き飛ばして慌てふためいた。
「陽…おはようござ…ハッ!私…そのまま寝ちゃって…!ごめんなさい!」
陽は驚いた彼女をなだめるように微笑んで、「大丈夫ですよ。それより、昨日はありがとう。」と穏やかに言った。
セレーナは少し照れたように視線を外し、そっと微笑みながら口を開いた。「…ただ、陽が少しでも一人じゃないって思ってくれてたなら、それでいいんです。」
陽はその言葉に胸が温かくなるのを感じた。そして小さく頷くと、彼女にお礼を伝えるため、軽く身を乗り出した。「このベオリアの件が落ち着いたら、何かお礼をさせてください。」
セレーナは目を輝かせながら、「それは楽しみにしてますね」と笑顔を浮かべたが、ふとした顔で陽を見上げた。「それより、陽?敬語に戻っちゃってますよ?」
「いや、やっぱり姫様相手だとつい…それに、セレーナだっていつも敬語じゃないか?」
「私はただ、品を保ってるだけです!」
陽は少し笑って、「お互い対等なんだろ?セレーナも俺に敬語は使わなくていいよ。そしたら俺も自然に話せると思うし。」
セレーナは一瞬驚いたように見つめた後、微笑んで頷いた。「わかったわ、自然にね。こんな喋り方、お父様が聞いたらびっくりするかも。」とくすくすと笑った。
陽も笑って、「俺も後で怒られるかもな。」と言うと、セレーナも柔らかく笑ってから立ち上がった
「私、ずっと一人で本読んでただけだったから、こういう関係に憧れてた!じゃあ、支度してくるね。陽!また後で。」
セレーナはすっかりご機嫌で、陽の部屋を後にした。
しばらくして、陽の部屋にノックの音が響いた。
「陽~、いるか~。開けるぞ~。」
「おう、入ってくれ。」
陽が答えると、レオンが部屋に入ってきた。
「なあなあ、昨日の夜、大丈夫だったか?姫さんからすごい負のオーラが漂っててよ、俺、てっきりお前はボコボコにされてるんだろうなと思ったんだけど…」
陽は苦笑した。
「ははは、確かにちょっと緊張したよ。まさか第一声が『浮気者』で刺されるとは思わなかったな。」
「ま、姫さんの気持ちもわかるけどな。俺も正直、何してたのか気になってたし。けど、まあ用が済んだら帰ってくると思って、俺は先に寝たけどな。姫さん、ああ見えてずっと心配してたんだぜ?」
「…ああ。そのことは俺も反省してる。レオンもごめんな、気を遣わせて。」
「俺は気にしねーよ!ま、俺らは仲間なんだから、頼る時はちゃんと頼れよな。」
「そのつもりさ。」陽は真剣に頷いた。
レオンは満足そうに頷くと、
「そうそう、さっき姫さんから昨日のこと聞いたんだけど、稽古始まるんだろ?俺も獣人族と手合わせしてみたいと思ってたから、ちょうどよかったぜ。さっさと朝飯食って、向かおうや!」と言いながら陽の肩を叩いた。
二人が朝食に向かう途中、レオンが陽に問いかけた。
「ところで、今朝の姫さん、すっごく上機嫌だったけど…陽、なんかあったんだろ?」
「特にやましいことはないが、まあ…セレーナの優しさにちょっと甘えさせてもらったって感じだな。」
「くぅぅっ!そりゃあ姫さんが機嫌いいわけだ!俺にもすっごく優しかったんだぜ?陽、ぜひこの調子で頼む。」
「何言ってんだよ、お前は本当、調子がいいやつだな。」
ニカッと笑うレオン、陽とレオンはセレーナと合流して、朝食を済ませた後、ライサが待つ王宮へと向かった。
ベオリアの王宮は威厳に満ち、正門前にはライサとカイルが待っていた。王宮の荘厳な造りが陽たちを圧倒し、これから始まる稽古に向けて気持ちが引き締まる。
「ようこそ、ベオリア最強の狼騎士団へ!君たちを歓迎するよ!」
カイルが元気よく声をかけ、陽たちは頭を下げた。
「ライサさん、三日間、よろしくお願いします!」
陽が真剣に礼を言うと、ライサも頷いて答えた。
「ああ、よろしく頼む。それでは、早速だが稽古のペアについて伝えるぞ。まず、レオン、君はカイルと組んでくれ。カイルはまだ15歳だが、父の後を継ぐ騎士だ。良い相手になるだろう。」
カイルは満面の笑みで手を差し出し、「よろしくな、レオン!」と声をかけた。
「…ああ、よろしく頼むっ!うわぁっ!!。」
レオンが手を握り返した瞬間、カイルはレオンの手を掴んだまま勢いよく投げ倒そうとした。
しかし、レオンもギリギリのところで踏ん張り、体勢を立て直して耐えた。
「ふんぬぅっ!」
「ほぉ!やるじゃないか、レオン!」カイルは驚きながらも楽しそうに笑った。
「おい、カイル!てめぇ、何してやがる!」
カイルは無邪気に笑って、
「冗談だって!ただの挨拶だよ。まさか最後の最後で踏ん張るとは思わなかったけどな!さすがアレイオスの剣士だ!」と言い、得意げに笑っていると、後ろからライサがカイルの頭を容赦なく一撃し、カイルの顔はそのまま地面に埋もれた。
「すまない、レオン。後できっちり叱っておく。」
ライサは渋い顔で言った。
レオンは苦笑しながら、
「い、いえ、もう大丈夫です…」
と引き攣った顔で答えた。
陽に近づき、レオンは小声で呟いた。
「おい、陽…マジで生きて帰ってこいよ。」
「…ああ、祈ってくれ。」陽は少し青ざめながらも、頷いた。
次に、ライサはセレーナに目を向けて言った。
「次は精霊族の姫様…」
「セレーナでいいわ。私もライサと呼ぶから。」
ライサは軽く頷き、
「では、セレーナ。君は王宮魔導士のバジルと組んでくれ。彼もヴァレンティーナ出身だ。」
バジルは礼儀正しく頭を下げ、
「初めまして、セレーナ様。私はバジル・フォルテンドと申します。お会いできて光栄です。どうぞお手柔らかに。」
と丁寧に挨拶した。
セレーナは彼の名前に聞き覚えがあることを思い出し、「バジル・フォルテンド…どこかで聞いたことがあるわ。ねえ、バジルさん、私のお祖父様、アドリア・グランディスって知っているかしら?」と尋ねた。
バジルは懐かしそうに頷き、「もちろん存じ上げております、姫様。アドリア様は私のお師匠様ですから。」
ライサも少し驚いたように、「バジルの師匠の孫とは、世間は狭いな。バジル、よろしく頼むぞ。」と微笑んだ。
最後に、ライサは真剣な眼差しを陽に向け、「そして、陽。お前は私とだ。気合を入れて臨めよ。」と告げた。
陽はその言葉を受け止め、深く息をついてから力強く頷いた。「はい、何度倒されても食らいついていきます。よろしくお願いします、ライサさん。」
「その意気だ。さあ、始めようか。」
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