第32話 ベオリアの王


翌日、陽たちは王宮に向かい、二日目の稽古が始まった。前日の疲労は完全には取れていなかったが、三日しかない稽古の中で一つでも多く身につけようと、陽は気を引き締める。


午前中は獣人化と魔法の併用に取り組み、昼食を挟んで午後は覇気の出し方を練習する。相変わらずのスパルタ稽古だったが、陽は少しずつ感覚を掴み始めていた。


「短期間でここまで扱えるとはな。なかなか見込みがあるぞ、陽。」ライサが感心した様子で微笑む。


「三日しかないですからね、そりゃあ必死ですよ。できるだけ吸収したいんです。」


「いい心意気だな。そしたら次は…」ライサが次の課題に移ろうとした瞬間、ベオリア全体に映像が映し出された。


「…なんだこれは?」


ライサが陽に説明する。

「見たことないのか?これは王宮魔導士が魔法を使い、ベオリアの国民に映像流しているんだよ。国の重要事項などを知らせる時に使うのさ。魔力の波長をお互いに合わせれば会話もできる」


陽は目を見張り、(テレビやスマホの代わりにこんなことができるんだな…)と心の中で驚いた。


「光属性の魔法だ。今の陽なら習得できるかもしれないな。」


「え?本当ですか!俺もやってみたいです!」


ライサは少し笑って「私は火属性だから無理だが、バジルに聞けばいい。セレーナもできるかもしれないな」と言う。


(これがあれば、離れていても連絡手段に困らないし習得するしかないな!なんか元気出てきた…)


「よし。陽、国王が話す。一旦稽古は中断だ。」


その時、映像にベオリアの国王が映し出された。画面には、強靭な肉体と鋭い眼差しを持つ虎の獣人族の姿が現れ、その圧倒的な威圧感が画面越しに伝わってくる。


「ベオリア国民の諸君!我、カンジェロス・アルヴィオンは先程、水の都アクエリアスにて国王会談を行った。明日正午に重要な発表がある。王宮の騎士団と関係者は、今すぐ王宮に集まれ。以上だ。」国王の宣言と共に映像が消えた。


ライサは眉をひそめ、「何か嫌な予感がするな…」と呟いた。


「陽、すまない。国王から召集がかかった以上、行かなければならない。明日の稽古も中止だ。落ち着いたらカイルを宿に行かせて日程を伝える。それまで休んでいてくれ。」


「わかりました。…ライサさん、どうか気をつけてください。」


「心配するな。また後で話そう。」そう言って、ライサとカイル、バジルは王宮へと向かい、稽古は一時的に中断となった。


宿に戻った陽は、レオンとセレーナを部屋に呼び寄せ、皆で国王の映像について話し合った。


「今日の国王の映像、二人も見たか?」陽が問いかけると、セレーナが少し不安そうに頷く。「ええ、見たわ。何か胸騒ぎがして…」


「ああ、俺もだ。」


陽は少し眉をひそめて言った。

「実は、映像が流れた時にヘリオスの力で国王を見たんだが、一瞬、古代精霊と戦った時のオーラに似ていたんだ。」


レオンも同調する。

「国王が言葉を濁す時ってのは、良い知らせじゃないことが多いからな。三人とも感じたなら、間違いないだろうよ。」


「それで、二人にお願いがあるんだ。」

陽は続けた。

「リーナさんとアレクを呼んで、万が一に備えて五人で動ける体勢を整えておきたい。俺の考えすぎかもしれないけど、あのオーラからして、国王が影の組織と繋がっているか、何かに巻き込まれている可能性はゼロじゃない。もしそうなら、仲間は多いほうがいい。」


セレーナとレオンは少し驚きながらも、すぐに頷いた。


「確かに一理あるわ。私は賛成よ。」セレーナが応じ、レオンも続いた。「ああ、陽がこれから仲間にしたいやつなら俺も一度顔を合わせておきたいしな。良い機会だ。」


「で、どうやって連絡するんだ?」

レオンが尋ねると、陽は光属性の魔法を使った映像を思い浮かべて言った。

「光属性の魔法で連絡を取る方法があるらしいんだ。セレーナも光属性の魔法が使えるから、できるんじゃないかと思って…」


セレーナは目を丸くして「え?私が…?陽がやるんじゃなくて?」と驚く。


「俺はまだできないからな!まだ!…だから、セレーナ、俺に教えてくれ!…もしできるなら。」


「陽…あなた、私が出来なかったらどうするつもりなの?」


「それは…今からバジルさんのところに行って教わりにいこうかなて…ははは…」


セレーナは少し呆れながらも

「実はさっきバジルから詠唱を教わったの。できるかどうかはわからないけど、やってみるわ。」と言って、静かに詠唱を始めた。


「光の狭間に眠る真実よ、我が意に応えよ。我が声に従い真実を映し出せ。幻影よ、今ここに…光の幻影ルクス・ミラージュ


詠唱が終わると、セレーナの手元から光が湧き出し、陽の前に映像が映し出された。


「そのまま映像に触れて魔力を流してみて。これで会話ができるはずよ。」


陽はセレーナの指示に従い、映像に触れて自分の魔力を流し込んだ。すると、陽の姿が映し出され、声が響いた。


「すごい…!会話ができるぞ!さすがだ、セレーナ様!!!」


「私を誰だと思ってるの?」セレーナは少し得意げに微笑む。


「相手がこの仕組みを知っていれば会話ができるのだけど、大丈夫かしら。」


「恐らく何かあれば神様が教えてくれると思うんだ。」


「それなら大丈夫ね…それでは陽、届けたい相手に向かって今の詠唱してみて、あ…あなたは詠唱いらない人か…恐らく念じれば出来ると思うわ。」


「よしっ!やってみるか。イメージ…イメージ…」


陽はリーナとアレクの顔を思い浮かべ、集中して魔力を送り込むと、映像に二人の姿が映った。


「アレク、リーナさん、俺の声…聞こえますか?」


リーナの姿が映像に現れ、「ええ、聞こえるわ。どうしたの?」と応え、アレクも驚いた顔で「おお!映像魔法ってこんな感じなんだね!便利だ!」と笑った。


陽は今日の出来事を伝え、国王の件に備えて明日合流するように頼んだ。リーナとアレクも賛成し、翌日に王宮外で再会する約束をした。


通信が切れた後、陽は一息つき、

「よし、これで準備は整った。ありがとう、二人とも。明日に備えて、今日はしっかり休もう」と告げ、三人は各自の部屋に戻った。


その夜、セレーナは自室でリーナのことを思い出し、少し心が揺れた。


(リーナさん…陽が本当に頼りにしてるのが伝わったわね。ううん、そんなこと考えてる場合じゃない!明日に備えて寝るのよ、セレーナ!)


翌日、陽たちは王宮外でリーナとアレクと合流し、国王の発表を待ち構えていた。


そして正午、国王が王宮の玉座に現れ、王宮魔導士の魔法により、ベオリア中に映像が流れ始める。


「あれが…ベオリアの王か…」


さらに玉座の周囲には、ライサやカイル、そして騎士団長の姿が映し出される。陽はその場の緊張感を肌で感じながら、騎士団長の威厳ある姿に気圧されていた。


「ライサさん…カイル…そしてあの人が騎士団長…」


陽は息を呑み、全身に緊張が走った。

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