第8話 母の決断

翌朝、台所では直子が朝食の支度をしている。柚月は昨日のことが気になりつつも、直子の表情をうかがいながら静かに手伝っている。翔が眠そうな顔で起きてきて、食卓に座る。


「姉ちゃん、今日も公民館行くの?」


柚月は答えずに直子の顔をちらりと見た。直子は無言のまま味噌汁をよそい、柚月にそれを差し出す。


直子(少し低い声で)

「発表会、出たいんでしょ。」


突然の言葉に柚月は驚き、思わず箸を落とす。


柚月

「…お母さん、いいの?」


直子は柚月の顔をじっと見つめ、少し疲れたような微笑みを浮かべながら言う。


直子

「分からないわよ。音楽がこの家にどう役立つかなんて。でも、あんたがそんなにやりたいなら、やればいい。」


柚月の目が大きく見開かれ、涙がにじむ。


柚月(震えた声で)

「…ありがとう、お母さん。」


直子はため息をつきながら、こう付け加える。


直子

「ただし条件がある。家のことはちゃんと手伝うこと。それから、途中で投げ出すようなことは絶対にしないこと。」


柚月は力強くうなずき、涙を拭いながら答える。


柚月

「分かった。絶対に頑張る。」


直子は少し笑いながら、味噌汁の鍋を火から下ろす。


直子

「ほんとに大変になるのは、これからなんだからね。」


朝の支度を終え、柚月は学校へ向かう準備をしながら、台所にいる直子をもう一度振り返る。直子は何かを考え込むように台所の片付けをしているが、その背中はどこか優しさを感じさせる。


柚月(心の声)

「お母さん、ありがとう。私、ちゃんと頑張るから。」


柚月は深呼吸をして家を出る。道端では海風が吹き、彼女の髪を揺らしていた。


カット:港町の朝の風景。漁船が出港し、朝日に照らされた海がきらめく。柚月の背中が次の挑戦に向かう決意を映し出している。

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