第32話 三人の再会

翌日、ピアノ室には三人の姿が揃っていた。前日の夜、柚月と翔が手にした新しい感覚をどうアキと共有するか、二人は少し緊張しながら待っていた。アキはいつものように明るい笑顔を見せていたが、その奥にはまだどこか焦りの色が残っていた。


アキ(少し冗談っぽく)

「さて、今日はどこからやる?昨日、私が帰った後に二人でこっそり練習してたとかじゃないよね?」


翔が苦笑しながら答えた。


「いや、ちょっとだけな。でも、それで少し見えたものがあるんだ。」


柚月は頷きながら続けた。


柚月

「アキ、私たち、もっと音楽を『会話』みたいに感じられるかもしれないって思ったの。」


アキは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷いて椅子に座り直した。


アキ

「会話か…。昨日先生もそんなこと言ってたよね。じゃあ、まずは音を出してみようか。」


三人はそれぞれ楽器を構え、「星の迷宮」の冒頭から演奏を始めた。ピアノが静かに問いかけるように音を紡ぎ出すと、チェロが深く優しい音で答え、バイオリンがその上に軽やかに乗っていく。


しかし、中盤に差し掛かると、アキのチェロが少し強く鳴り、音が浮いてしまった。アキはすぐに演奏を止め、弓を膝に置いた。


アキ(少し苛立ちながら)

「やっぱり私、ここがうまくいかない。音が浮いちゃって、みんなの音に馴染めてない気がする。」


柚月は一瞬戸惑ったが、すぐにアキに向き直った。


柚月

「アキ、私のピアノに合わせてみるんじゃなくて、自分の音をもっと自由に出してみて。それがきっと私たちを引っ張ってくれるはず。」


翔も頷きながら言った。


「そうだ。チェロの音がこの曲の核になるんだから、もっと自分の音に自信を持っていいと思う。」


アキは二人の言葉に少し驚きながらも、深く息を吐き、弓を持ち直した。


アキ

「分かった。もう一回やってみる。」


再び演奏が始まる。今度はチェロの音が強く自信を持って響き、ピアノとバイオリンがその音に寄り添うように絡み合っていく。三人の音は互いに引き立て合いながら、一つの物語を紡ぎ始めた。


曲が終わると、部屋にはしばしの静寂が訪れた。アキは弓を置き、深く息を吐きながら小さく笑った。


アキ

「なんだろう…さっきまでのモヤモヤが少し晴れた気がする。」


翔も満足げに頷いた。


「今のチェロ、すごくよかったよ。曲全体が締まった感じがした。」


柚月は二人を見渡しながら、心の中で湧き上がる達成感を噛みしめていた。


柚月(心の声)

「みんなの音が、少しずつ一つになっていく。この迷宮の出口が見えてきた気がする。」


そのとき、扉が開き、佐伯先生が入ってきた。彼女は三人の顔を見渡し、穏やかな笑みを浮かべた。


佐伯先生

「とてもいい音が聞こえていたわ。みんな、何かを掴んだようね。」


アキが微笑みながら答えた。


アキ

「先生の言ってた『会話』ってやつ、少しだけ分かってきた気がします。」


佐伯先生は満足そうに頷き、三人に向けて言った。


佐伯先生

「いいわ。ここからは、さらに深い部分に踏み込んでいきましょう。それぞれの音がもっと自由に動き、そして絡み合うようにね。」


柚月たちは互いに頷き合い、新たな挑戦への意気込みを胸に秘めた。


カット:ピアノ室の窓越しに差し込む陽光の中で、三人が楽譜を囲む姿が映る。その背中には、新しい音楽への決意がにじんでいた。


次回予告

三人が「星の迷宮」の最終章に挑む中、それぞれの音が一つに溶け合っていく。だが、新たな試練が彼らを待ち受けていた――。

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