第4話 波音と孤独

翌朝、港町はいつものように活気に包まれていた。漁師たちの掛け声と、朝日に照らされる海がきらきらと輝いている。柚月は学校へ向かう道を一人で歩いていた。波の音が遠くから聞こえてくるが、彼女の心はどこか沈んでいる。


学校の門をくぐり、教室に入るとすぐに冷たい視線を感じた。クラスメイトたちは彼女を見ると、ひそひそと話し始める。


クラスメイトA(小声で)

「また昨日も公民館行ってたんだって。」


クラスメイトB

「家のことも手伝わないでピアノばっかりって、ほんと変わってるよね。」


柚月はその声を聞こえないふりをしながら自分の席に向かう。机に座り、ノートを広げてメロディーを書き込もうとするが、鉛筆を握る手がわずかに震えている。


昼休み、柚月は教室を出て一人で中庭に向かう。風が吹き抜け、木々の葉がさわさわと音を立てていた。彼女はお気に入りの場所である古いベンチに座り、膝を抱え込む。


柚月(心の声)

「どうしてみんな、こんなに冷たいんだろう。私がピアノを弾いてるだけなのに…。でも、お母さんも少し認めてくれたし、先生も応援してくれてる。私がやめたら、それこそ何も変わらない…。」


彼女はそっと深呼吸をして、ポケットから昨日書いた音符のメモを取り出す。風が吹き抜け、そのメモが彼女の手から飛ばされそうになる。


その瞬間、クラスメイトの美咲が偶然通りかかり、飛ばされそうになったメモを拾い上げた。


美咲

「これ、柚月の?」


柚月は少し驚きながらも、小さくうなずく。


柚月

「…うん、ありがとう。」


美咲はメモを渡しながら、音符が描かれているのを見て首をかしげる。


美咲

「なんでそこまでしてピアノやってるの?そんなに大事なことなの?」


柚月は少し戸惑いながらも、言葉を選ぶようにして答える。


柚月

「分からない。でも、ピアノを弾いてると、自分が何かになれる気がするの。」


美咲はしばらく黙っていたが、何も言わずに去っていく。柚月はその背中を見送りながら、自分の気持ちを再び確かめるようにメモをぎゅっと握りしめる。


カット:風が強まり、葉が舞う中庭。柚月は立ち上がり、波音が心に響くように風に向かって歩き出す。彼女の心には、まだ小さいながらも確かな決意が芽生え始めていた。


次のシーンでは、公民館での練習中に田辺先生から新しい提案が持ち上がり、柚月が次のステップに進むきっかけが描かれる。

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