第21話 初めての仲間たち

翌日、柚月が「佐伯音楽学院」での初めての正式なレッスンを受ける朝がやってきた。まだ慣れない環境に少し緊張しながら、彼女は朝食を済ませ、ピアノ室に向かった。教室の扉を開けると、中には他の生徒たちがすでに集まっており、それぞれ自分の練習に集中している。


部屋の中は、ピアノの音や譜面をめくる音が響き、独特の緊張感が漂っていた。柚月は少し気後れしながらも、自分の席に向かう。


柚月(心の声)

「みんな、こんなに真剣に…。私、ちゃんとついていけるのかな。」


そのとき、一人の少女が柚月に気づき、近づいてきた。少し短めの髪と快活な表情が印象的な彼女は、軽い口調で話しかけてきた。


少女

「君、新しく入った子だよね?昨日佐伯先生と話してたの見たよ。」


柚月(戸惑いながら)

「あ、はい。宮本柚月です。よろしくお願いします。」


少女はにっこり笑い、手を差し出した。


少女

「私は中村明莉。みんなからはアキって呼ばれてる。よろしくね!」


柚月はその手を握り返し、少し緊張した表情で微笑んだ。


アキ

「まあ、最初は何も分からなくて当たり前だよ。でも、先生は優しいし、みんな親切だから大丈夫!私も分からないことがあったら教えるよ。」


柚月はその明るい言葉に少し気持ちが軽くなり、静かに頷いた。


柚月

「ありがとう、アキさん。」


アキ(肩をすくめて)

「アキでいいよ。さん付けなんていらないから!」


二人の会話を聞いていたもう一人の生徒が、少し離れた場所から近づいてきた。その少年は背が高く、落ち着いた雰囲気を漂わせている。彼は軽く手を挙げて挨拶をした。


少年

「新しく入った子?俺は三浦翔。こっちに来るの、勇気いったでしょ。」


柚月

「…はい。でも、田辺先生が背中を押してくれて…。それに、お母さんも応援してくれたから。」


翔は頷きながら、少し考えるような表情を浮かべた。


「親が応援してくれるっていいよな。俺も音楽やりたいって言ったとき、最初は大反対されたけど、今はなんとか理解してもらえた。」


柚月はその言葉に共感を覚え、小さく微笑んだ。


柚月

「そうなんですね。私もお母さんには反対されると思ったけど、最後には背中を押してくれました。」


翔は目を細めて笑い、アキがそれを横で聞きながら声を上げた。


アキ

「じゃあみんな親に説得された組だね!ここにいると、そういう話ばっかり聞くよ。音楽の道に進むって、大変なんだなって思う。」


そのとき、佐伯先生が部屋に入ってきた。彼女は生徒たちを見渡し、軽く拍手をして注意を引いた。


佐伯先生

「はい、みんな集まって。今日は新しい生徒、宮本柚月さんの初めてのグループ練習も兼ねて、少し特別なセッションをするわよ。」


生徒たちは一斉に集まり、柚月も慌ててアキと翔についていった。


佐伯先生は、部屋の中央に立ちながら説明を始めた。


佐伯先生

「音楽は一人で磨くものでもあるけど、仲間と一緒に作り上げることでさらに深まるものよ。今日はそれを感じてもらいたいと思っています。」


先生が用意したのは、4人で一緒に演奏するための簡単なアンサンブルの楽譜だった。それぞれが異なるパートを担当し、合わさったときにどんな音楽が生まれるかを体感するというものだった。


柚月は渡された楽譜を見つめながら、少しだけ戸惑った表情を浮かべた。


柚月(心の声)

「みんなと一緒に弾くの、初めて…。私、ちゃんとできるのかな。」


その不安を察したのか、隣にいたアキが軽く彼女の肩を叩いた。


アキ

「大丈夫だよ。失敗してもみんなでフォローするから!」


翔も横で頷き、優しく声をかけた。


「最初は楽しむことが一番だよ。自分の音を信じてみな。」


セッションが始まると、最初はぎこちなかった音が次第に調和し始めた。柚月のピアノの音が他の楽器の音と混ざり合い、一つの音楽を形作っていく。それはこれまで経験したことのない感覚だった。


演奏が終わると、佐伯先生が拍手をしながら言った。


佐伯先生

「素晴らしいわ!みんなの音がちゃんと重なり合って、一つの曲になっていた。柚月さん、どうだった?」


柚月は少し恥ずかしそうにしながらも、笑顔で答えた。


柚月

「とても楽しかったです。みんなと一緒に弾くと、自分の音が広がる感じがしました。」


アキが大きく頷きながら言った。


アキ

「そうそう、それがアンサンブルの面白いところだよね!」


翔も続けて言った。


「音楽って一人でやるものだと思ってたけど、こうやって仲間と一緒に作ると、全然違う感覚になるよな。」


その日の帰り道、柚月は教室を後にしながら、少しだけ胸を張って歩いていた。新しい仲間たちとの出会いが、彼女の心を温かくしていた。


柚月(心の声)

「音楽は一人で紡ぐものだと思ってた。でも、みんなと一緒に音を重ねると、もっと遠くに届けられるんだ。」


彼女はそう思いながら、手に持った楽譜をぎゅっと握りしめた。


カット:暮れゆく夕空の下、仲間と笑顔で別れる柚月の後ろ姿。新たな音楽の道が広がり始めている。


次回、柚月が教室でさらなる挑戦に直面し、自分の音楽に対する考えを深めていく姿が描かれる。

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