第34話 発表会への準備

「星の迷宮」を完成させた翌日、ピアノ室にはいつもとは違う緊張感が漂っていた。三人の次なる目標は、発表会でこの曲を披露することだった。佐伯先生が用意した舞台は、地域の音楽ホール。プロの演奏家たちも参加する中での挑戦となる。


柚月は楽譜を見つめながら、手元のペンで何かを書き込んでいた。アキがチェロケースを開けながら声をかける。


アキ

「柚月、また何かメモしてるの?最近、書き込みだらけじゃん。」


柚月は照れたように笑いながら答えた。


柚月

「うん。先生に言われたこととか、昨日の練習で気づいたことを書いてるの。発表会までにもっと良くしたいから。」


翔がバイオリンを調整しながら言った。


「柚月らしいな。でも、完璧を目指しすぎると疲れるぞ。発表会では今のままの音で十分だと思う。」


その言葉に柚月は一瞬考え込んだが、小さく頷いた。


柚月

「そうだね…。でも、少しでも聴いてくれる人に『私たちの音』を届けたいの。」


アキがチェロを抱えながら笑った。


アキ

「分かった。じゃあ、発表会まで全力でサポートするよ!私たち、もう迷わないんだから。」


翔も軽く弓を振りながら同意する。


「そうだ。迷宮の出口は見つけた。あとはその先をどう進むかだ。」


三人は楽器を構え、発表会に向けた練習を再び始めた。「星の迷宮」の最初の音が静かに響き、次第に三人の音が絡み合いながら部屋を満たしていく。


中盤に差し掛かると、柚月は一瞬手を止めて言った。


柚月

「ねえ、この部分、もっと静かに始めてみない?最初の音を小さくして、最後に向けて大きくしていく流れがいいかも。」


アキはその提案に頷きながら言った。


アキ

「それ、いいね。チェロも最初は軽く弓を当てるだけにしてみようかな。」


翔も続ける。


「俺も高音を少し抑えてみるよ。その分、最後で一気に出せるようにしたい。」


三人の間で新たなアイデアが生まれ、演奏が再び始まった。静かに始まる旋律が次第に膨らみ、最後には圧倒的な音の広がりを見せる。その音楽には、迷宮を抜けた彼ら自身の成長が滲み出ていた。


演奏が終わると、三人は互いに顔を見合わせて笑い合った。


アキ

「今のすごく良かった!この曲がこんなに面白くなるなんて思わなかった。」


翔も満足げに楽器を片付けながら言った。


「これなら発表会でも自信を持って演奏できる。聴いてくれる人たちに、俺たちの音を届けられる気がする。」


柚月は静かにピアノを閉じながら、心の中で決意を新たにしていた。


柚月(心の声)

「この曲には、私たちの全部が詰まっている。この音を届けるために、最後まで頑張ろう。」


そのとき、扉が開き、佐伯先生が現れた。先生は三人の様子を見て、微笑みながら言った。


佐伯先生

「みんな、本当に良い音が出るようになったわ。発表会の舞台でも、自分たちの音を信じて楽しんでね。」


三人は深く頷き、先生の言葉を胸に刻んだ。


カット:ピアノ室の窓から差し込む夕陽の中で、三人が楽器を片付けながら笑い合う姿が映る。その背中には、音楽を届けるという確かな決意が感じられる。


次回予告

発表会当日。三人が舞台に立ち、観客の前で「星の迷宮」を演奏する。その音楽がどのように響くのか――物語のクライマックスが描かれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る