聖女の実力 2
ロヴァルタ国の王城に来るのは実際はそれほど久しぶりではないんだけど、すごく久しぶりな感じがするのはなんでなんだろう。
城の玄関前で馬車を降りると、わたしたちはすっごく注目を集めた。
まあ、わたしの隣には超絶カッコ可愛いライナルト殿下がいらっしゃいますからね!
みんなが見ちゃうのは仕方がないことだよね!
わたしだってできることならずーっとライナルト殿下を見つめてすごしたいもんね!
……うふ、うふふ、この、外見も中身も何もかもパーフェクトなカッコ可愛い素敵な王子様がわたしの恋人なんですよ皆さん‼ 自慢していいですか‼ 自慢したいです‼
パーティーにわたしのお友達も大勢来ているはずだから、ライナルト殿下を連れて「素敵でしょ?」「カッコイイでしょ?」と言って回りたい‼
今日がそんな能天気なパーティーでないのは重々承知してるけど、幸せオーラ出しまくってみんなに生暖かい目で見られたい‼
そんなことをすれば絶対にうざい女まっしぐらなのでできませんけどね!
「ふふ、ヴィルが可愛いからみんな見てるね」
みーなーさーん!
どうしたらいいですかライナルト殿下が素敵すぎてもうこの場で大声で叫びたいです!
甘い顔と甘い声であまーいことを言われたら、わたし、ぷるぷる震えちゃいますよ!
友達全員にのろけ話をして回りたいという煩悩を必死に抑え込みながら、ライナルト殿下にエスコートされてお父様たちとともに大広間へ向かう。
マリウス殿下と婚約していたときは、殿下とともに王族席に向かっていたから、こうして大広間の正面入り口から部屋に入るのは新鮮な感じがした。
当然のことだが、大広間には城の玄関以上に大勢の人がいて、みんながわたしたちを見てくる。
少し離れたところにいたお友達が、あんぐりと口をあけてこっちを見ているのに気が付いたわたしは、ちょっとドヤ顔をしてみた。
途端に、友人たちの顔があきれ顔にかわる。
……え? なんであきれるの? 祝福してよ。
何といっても、前世を含めて生まれてはじめての恋人である(マリウス殿下はノーカウント)。
わたしがちょっとくらい浮かれるのは仕方がないことなのだ。
だって、生まれてはじめての恋人がこんなに素敵なんだもん!
正面入り口から入ったが、わたしたち……というよりライナルト殿下が、パーティーの開始直後に国王陛下から紹介される手はずになっているので、わたしたちは王族席に近いところへ向かう。
注目を集めながらも、さすがに他国の王族に気安く話しかけるなんてできないから、誰も近寄ってくる気配はない。
遠巻きに見られていると、動物園のパンダになった気分ね。
やがて、王族席にロヴァルタ国王と王妃様が姿を現した。
そのあとから、マリウス殿下と、殿下の新たな婚約者になったラウラ・グラッツェルが、レースとフリルがふんだんに使われてちょっと動きにくそうなピンク色のドレスで現れる。
にこにこと無邪気に微笑んで、まるで王女様のように手を振りながら歩いているラウラは、わたしに目を止めると「ふふん」と嘲るような笑みを浮かべた。
あの笑みを、どう解釈すべきか。
順当に考えるなら、わたしからマリウス殿下を奪って優越感に浸っていると考えるべきでしょうね。
ラウラは相変わらずラウラだった。
王太子の婚約者になったのだから、もう少し、敵を作らないように気を配るべきだと思うけれど、あの様子だと相変わらずあちこちに(特に女性の)敵を作って回っているのだろう。
……ラウラを見たら冷静になれたわ。いくらライナルト殿下が素敵だからって、自慢して回ったら不快な気持ちになる人もいるわよね。自重しよう。我慢だ、わたし。
国王陛下がライナルト殿下を紹介し、わたしと殿下が婚約するという内容のことを発表した。
発表したと言うことは、婚約を認めてくれると考えていいだろう。
わたしにとっては一番大きな問題がどうやらスムーズに運びそうだとわかって、ホッと胸をなでおろした、そのときだった。
国王陛下が下がったあとで、マリウス殿下が立ち上がり、そして、わたしを見てにやりと笑った。
わたしの胸に嫌な予感が広がった、その直後――
「ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、どうやらシュティリエ国の聖女として認められたらしい! 素晴らしいじゃないか! シュティリエ国の王子妃として嫁ぐ前に、皆も、その聖女の力を見て見たいだろう? よって、私はここに、ちょっとした余興を用意した! ヴィルヘルミーネはぜひ、聖女の力をこの場の皆にみせてやってほしい‼」
マリウス殿下の話が終わるのを見計らって、白い布がかぶせられた小さめの檻が運び込まれてくる。
マリウス殿下が皆の前で檻にかけられた布を取った瞬間、わたしはひゅっと息を呑んだ。
――檻の中に、真っ黒い兎が閉じ込められていたからだ。
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