聖女認定式と星空の告白 3
「ギーゼラ、今日はとびっきりいい朝ね」
すがすがしい気分で目覚めたわたしが、窓越しに朝の空を見上げながら言うと、わたしの着替えを出していたギーゼラは、はあ、とため息をついて言った。
「そうですね」
めっちゃ棒読みである。
だが、その失礼な応答も、わたしはまったく気にならない。
なぜなら、昨日の尊いライナルト殿下のことでわたしの頭の中がいっぱいだからである!
昨夜、星空をバックに、頬を赤く染めて「好きだ」と告白してくれたライナルト殿下は、それはそれはカッコ可愛かった‼
あのあとわたしも好きだと伝えて晴れて両想いになったわたしたちは、ギーゼラが「あの、そろそろ……」と声をかけるまで手を繋いで星空を眺めていた。
おやすみを言いあってライナルト殿下が部屋に戻った後も、わたしは殿下が告白してくれた時のことを何度も反芻してはニマニマと笑いながら眠りについた。
おかげでとっても熟睡できたしとってもいい夢まで見られたので、今日のわたしは素晴らしく目覚めがいい。
……うふふ、両想いですってよ奥さん! あんなカッコ可愛いうさ耳王子が、わたしの! 恋人! ビバ青春‼
今日はライナルト殿下はお城に行かない日だから、一日一緒に過ごしていちゃいちゃするんだ~と浮かれていたら、わたしに着替えを差し出したギーゼラが水を差してきた。
「楽しそうなところ申し訳ありませんが、お嬢様は聖女認定式の手順の確認でお城に行かなくてはならないのですから、早く着替えて支度しませんと」
そうだったー‼
浮かれすぎて、わたし自身の今日の予定を失念していた。
窓枠に両手をついてがっくりとうなだれたわたしに、ギーゼラが冷めた視線を送る。
「お嬢様のどぎつい見た目が少しでも聖女っぽく楚々とした雰囲気になるように頑張りますから、はい、着替えましょう。そしてさっさと朝ごはんを食べてきてください。いつもよりお化粧に時間がかかりますから」
ひどい言われようであるが、わたしが社交デビュー前から侍女をしてくれているギーゼラのわたしの扱いなんてこんなものである。
口は容赦ないが、これでわたしのためにいろいろしてくれているのはわかっているので、少しでも聖女らしい見た目を作ろうと頑張ろうとしてくれているギーゼラには逆らわない。
わたしは夜着からルームウェアに着替えると、ギーゼラに背中を押されながら部屋を出た。
朝食後また着替えてお化粧して、お城へ向かう予定である。
……はあ、せっかく両想いになったのに。今日は一日ライナルト殿下といちゃいちゃしたかったなー。
残念に思いながらダイニングに向かうと、すでに着席して食前のお茶を飲んでいたライナルト殿下が、わたしを見て照れたようにふんわりと微笑んだ。
それだけで、わたしの中のやる気ボルテージがぐーんと上がる。
……聖女認定式の確認をさっさと終わらせて、帰ってライナルト殿下と一緒に過ごすんだもんねー!
そしてあわよくば、あのうさ耳を! うさ耳を触らせてもらうのだ!
長年の付き合いであるギーゼラは、わたしの考えなど手に取るようにわかるのか、煩悩だらけのわたしにため息をついている。
「おはようございます、ライナルト殿下!」
わたしがライナルト殿下の隣に座ると、殿下もにこりと笑って「おはよう、ヴィル」と言ってくれる。
殿下が「ヴィル」と呼んだことに、対面でお茶を飲んでいたお父様が驚いたように顔を上げた。
お母様が口元に手を当てて含み笑いをしている。
お兄様? お兄様の姿はないから、どうせまた徹夜して寝ているのだろう。
お兄様の発明品(パクリ品ともいう)はあれからも増え続けていて、我が家の貴重な収入源になっていた。だからお兄様が日中だらだらと自堕落に寝て過ごそうが、わたしたち家族は何も言わない。昼夜逆転せずに日中作業しろよと言う言葉が喉元まで出かかっても、ぐっと飲み込んで何も言わない。せっかくやる気になっているんだから、水を差すなんて愚かなことはしないのだ。
わたしとライナルト殿下がちらちらとお互いを見ながら微笑みあって朝食を取りはじめると、お父様が何か言いたそうな顔でこれまたちらちらとこちらを見てくる。
そんなお父様を、お母様が肘でつついていた。
「ヴィル、今日だけど、俺も城に行くよ」
「そうなんですか?」
「うん。俺は式典には参列するだけだけど、一緒に覚えて置いたら、何かあった時にヴィルの手助けができるかもしれないだろう?」
「殿下……!」
ああっ、なんて優しいのかしら!
とうと――
「お嬢様、拝んでないで早く食べてください。支度の時間が無くなります」
「はい……」
ギーゼラのツッコミを受けて、わたしはしおしおと小さくなると、また怒られないうちにせっせと口を動かす。
そんなわたしに、ライナルト殿下が「一生懸命食べているヴィルは可愛いね」なんてまたキュン死にしそうな発言をして、うっかり拝みそうになったわたしは、ギーゼラにまた叱られた。
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