聖女認定式と星空の告白 4
ギーゼラ渾身の「聖女っぽく見えるメイク」を施しても、元がきつい顔立ちのわたしの顔が聖女っぽくなることはなかった。
だがまあ、いつもより二割くらいはキツさが抑えられた気がするので、満足である。
というより、たぶんこれ以上は無理なのだろう。
せめてドリルみたいな巻き髪が目立たないようにアップにしてもらって、多少なりとも楚々とした雰囲気に見えるように、清純そうな水色のドレスを着てみる。
……わたしの顔だし、これが限界そうね。
鏡に映った自分を確認して、贅沢は言うまいと納得すると、わたしは玄関に向かった。
すると、玄関の前ではすでにライナルト殿下が待ってくれていて、わたしを見て眩しそうに目を細める。
「とっても可愛いよ、ヴィル。いつも可愛いけど、今日は少し雰囲気が違っていて天使みたいだ」
わたしよりあなたの方が何倍も天使ですけどね‼
後光がさして見えるようなキラキラとした微笑みを浮かべるライナルト殿下が眩しい。
だけど、ライナルト殿下が今日のわたしの格好を気に入ってくれたのならば、こんなに嬉しいことはない。ギーゼラありがとう!
嬉しくなってバッとギーゼラを振り返ると、小さく親指を立てて答えてくれた。
ライナルト殿下は、うさ耳がばれないように帽子をかぶっている。
パリッとした白いシャツに灰色のトラウザーズというラフな格好だが、元がとってもいいので恐ろしく似合っていた。イケメンは何を着てもイケメンだ。
邸の玄関前に停められていた城からのお迎えの馬車に、ライナルト殿下にエスコートされて乗り込む。
馬車が走り出すと、ライナルト殿下がわたしと指をからめるようにして手を繋いで、「そういえば」と口を開いた。
「俺とヴィルの婚約だけど、ヴィルはロヴァルタ国の貴族のままだから、一度ロヴァルタ国に行かないといけないね」
「あ……そう言えばそうですね」
貴族の結婚は、国王の承認がいる。
ロヴァルタ国からシュティリエ国へ移ったわたしたち家族だが、ロヴァルタ国の身分が剥奪されたわけではないので、お父様はまだフェルゼンシュタイン公爵だし、わたしはフェルゼンシュタイン公爵令嬢だ。
ライナルト殿下と婚約する場合、ロヴァルタ国の国王の承認が必要になる。
……うわー、面倒くさいなー。
ロヴァルタ国の国王陛下に会いに行けば、もれなくマリウス殿下にも会いそうな嫌な予感がする。というか会う確率は高いだろう。
もう二度とあの顔を見たくはなかったが、ライナルト殿下との幸せな未来のためには我慢するしかあるまい。
シュティリエ国の国王である伯父様の承認だけでさくっとすめばいいのにね。
わたしがフェルゼンシュタイン公爵令嬢でなければ、書類を送って承認を送るという方法も取れたのだけれど、わたしはいかんせん王家の血に連なる公爵令嬢だ。
しかも、両方の国の王家の血が入っているのだから、書類を送りつけて承認をもらうだけで済むはずがなく、きちんとロヴァルタ国王に挨拶をし、この婚姻が必要なものであることを理解してもらわなくてはならない。
ロヴァルタ国の準王族である公爵令嬢とシュティリエ国の王子の婚姻だからね、政治的な思惑もいろいろ絡んでくるはずだし、いろいろな取り決めもあるだろう。
面倒なことは全部お父様に丸投げしたいが、丸投げできても、わたしがロヴァルタ国王陛下に挨拶に行かないでいいわけではない。
「俺ももちろん一緒に行きたいけど……うーん、この耳次第になるのかな?」
さすがに国王に謁見する時に帽子をかぶったままではいられない。いくら王子でも、それは失礼にあたる。
だからうさ耳が消えないと、ライナルト殿下がわたしとともにロヴァルタ国へ向かうのは難しいだろう。
……できれば一緒に行きたいし、ということは頑張って訓練して、浄化の力をコントロールできるようにならなくちゃいけないわよね。でもそうなったらうさ耳、消えちゃうのか。うぅ。
できればもう少しライナルト殿下のうさ耳を堪能していたいが、けれどもうさ耳があるとライナルト殿下の生活に支障が出る。わたしの良心と煩悩が頭の中でめっちゃ喧嘩しているわ。うさ耳……。殿下の意思で生えたり消えたりしないものなのかしら。そうしたらいつでもうさ耳拝めるのに。
わたしが頭の中で不届きなことを考えているとは露とも知らず、ライナルト殿下が帽子の上から自分の頭を軽くつつく。
「早く消えるといいんだけどね。あ! ヴィルを急かしているわけでも責めているわけでもないからね!」
「はい、わかっていますよ」
わたしの煩悩が、もうしばらく消えないでほしいと思っているなんて口が裂けても言えない。
「急かしているわけではないし、仕方のないことなんだけど、ヴィルをロヴァルタ国に向かわせることになると思うとちょっとね。ほら、あの国には君の元婚約者もいるんだろうし、ヴィルが傷つけられないかどうか心配だ」
それを言うなら、あんなクズ王太子に近づいて、ライナルト殿下が汚されないかどうかの方がわたしは心配だ。
そう考えると、このままうさ耳が消えない方が、ライナルト殿下的には安全な気がしてきた。
ピュア王子をあんな性悪王太子に近づけてはならない。汚れる。
でも心配してくれるのは嬉しいので、「えへへ」と笑うと、ライナルト殿下もにっこりと笑ってくれる。
なんか馬車の中の空気が甘くなったところで、タイミング悪く、馬車が城に到着してしまった。
あと三十分くらいどこか適当に走ってくれればいいのにと、がっくりとうなだれながらわたしはライナルト殿下にエスコートされて馬車を降りたのだった。
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