偽物ならそれで構いません 2
ちょっとパーティーを抜け出して、ちゃんと終わるまでには戻る予定だったのに、塔の屋上でキスをすることに夢中になっていたわたしたちは、すっかり時間を忘れていて、戻ったころにはパーティーは終わっていて、それどころかいなくなったわたしたちの捜索まではじまっていた。
けれども、手を繋いで戻ったわたしたちが、伯父様たちからお説教されることはなかった。
ライナルト殿下のうさ耳が完全に消えていることに驚愕した伯父様や伯母様が泣き出してそれどころではなかったからだ。
都合よく、わたしが一生懸命ライナルト殿下の呪いの残滓を解いていたと好意的に解釈されて、今度から黙っていなくならないようにと注意を受けただけで終わったのは万々歳だったが、なんとなく、お母様には殿下といちゃいちゃして時間を忘れていたことに気づかれている気がする。
何も言われなかったけど、じっとりとした視線が痛かった。
呪いが解けたので、ライナルト殿下は伯父様たちに城に戻って来るように言われていたけれど、ものすごく嫌そうな顔をして「まだ完全に解けたかどうかわからないからもうしばらくヴィルのそばにいる!」と強引にわたしたちにくっついてフェルゼンシュタイン家に帰って来た。
去り際の伯父様たちのしょんぼりした表情が可哀想だったのだが、ライナルト殿下と離れるのは寂しかったので、いつかはお城の殿下の部屋での生活に戻るにしても、もう少し側にいてほしい。
眠る時間までおしゃべりしたいと、わたしの部屋のバルコニーで、塔の上での余韻を楽しむようにいろいろな話をする。
にこにこと微笑むライナルト殿下は、うさ耳がなくなろうと変わらず、たまらなく可愛かった。
……でも、塔の上のライナルト殿下は、可愛いよりカッコイイの方が強くて、うん、思い出すだけでドッキンドッキンするわ。
ギーゼラに「そろそろ時間です」と言われて、名残惜しそうな顔でライナルト殿下が部屋から去っていく。
……はあ、今日は、きっととっても素敵な夢が見られそうだわ!
ベッドにもぐりこみ、ファーストキスを思い出しながらニマニマしてしまう。
できることなら、あのまま永遠に時間が止まってほしかった!
自分の唇に指先で触れて、ポーッとなる。
……ライナルト殿下の唇、柔らかくて、あったかくて、もう、ずっとくっついていたかった‼
最近のわたし、煩悩の塊なんじゃないかと思うくらいに、もう、頭の中がピンク色に染まっていたが、今日ほど頭の中がピンク色に染まったことはない。ピンクを通り越して、ショッキングピンクくらいピンクピンクしている。
……ああもう、さっさと婚約をすませて結婚まで突き進んで毎日いちゃいちゃしながらライナルト殿下と過ごしたい‼
――その夜、興奮しすぎのわたしは、いい夢が見られるどころか頭の中を占める煩悩のせいで一睡もできなくて、目を真っ赤に充血させて朝を迎えることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます