うさ耳殿下と町デート 3
まあ双方の気持ちも大切だからなー、でも前向きに考えてほしいなー、と一国の王子の婚約者を決めるとは思えないほど軽ーいノリで伯父様が笑って、ひとまずライナルト殿下が人に戻ったことを喜ぶだけ喜んで解散した、次の日。
まだうさ耳が残っているし、このままヴィルヘルミーネのところにいたほうがライナルトもいいよなーって、伯父様が判断したため、ライナルト殿下は未だに我が家に滞在中なのだが、どうやら両家でわたしとライナルト殿下を婚約させる方向で前向きな検討をはじめた結果、何故かわたしは、ライナルト殿下とデートに行くことになった。
うさ耳をいい感じに帽子の中に隠して、王子殿下と町デートである。
いいのかなーと思ったけれど、これまでライナルト殿下はずっと表に出ていなかったから、殿下の顔を知るものは一部の人間しかいない。
ふらふらと王子が町に降りても、誰も王子と気づかないだろうし、わたしは魔術が使えるし、少し離れたところに護衛を配置しておけば、何ら問題ないのではないかと実に軽いノリで、当人たちの意思を無視してデートに送り出されてしまったのである。
わたし的にはうさ耳が帽子の中に押し込められていて大変残念ではあるが、うさ耳を差し引いてもライナルト殿下は超絶イケメンなので、見ているだけで眼福ものである。
お兄様は「俺もイケメンだろう?」と変に張り合ってきたけれど、残念ながらナルシストという時点でイケメン度合いは半減するので、お兄様を尊いなんて思えない。
シュティリエ国の王都は晩夏で、まだとても日差しが強いので、わたしも日傘をさして、ライナルト殿下と並んで仲良く王都の町を散歩中だ。
特にすることはないが、イケメンと並んで歩いているだけでものすごく満たされた気分になる。
「暑くないか?」
とか
「喉は乾かないか?」
とか、ライナルト殿下は何かにつけてわたしを気遣ってくれるので、もう、たまらなく幸せだ。
ライナルト殿下が優しいので、わたしなんかと婚約させられたらライナルト殿下が可哀想だと思う気持ちがどこかへ吹っ飛んで行って、自分の幸せだけを追い求めたい気持ちになって来る。
わたし、ライナルト殿下と結婚出来たらとっても幸せになれる気がする‼
ライナルト殿下はお姫様にするようにわたしの手を優しく握ってエスコートしてくれて、元婚約者にされていた扱いとの差に衝撃が走る思いだった。雲泥の差もいいところだ。そもそもマリウス殿下とデートなんてしたことがないが、どこへ行くにもあの王太子はエスコートなんてしてくれなかった。むしろ「さっさと来いのろま!」と自分とわたしの歩幅の差を考慮せず、すたすたと先に行ってしまうような男だった。
……思い出しても忌々しい。
少し歩いて疲れたので、わたしたちはちょうど見つけた可愛いカフェで休憩することにした。
電化製品はないが、魔術具があるので、この世界にも冷蔵庫や冷凍庫のようなものが存在する。
おかげで暑い夏に冷たい飲み物やデザートが楽しめるので、ありがたい限りである。
王子様と堂々とカフェデートができているなんてびっくりだが、言われた通り、誰もライナルト殿下がこの国の第一王子だとは気が付かない。
ただ、おっそろしくイケメンであることは間違いないので、道行く人々(特に女性!)が頬を染めて振り返っていくが、この程度の注目は想定の範囲内だ。
というか、中身はアレだが顔はイケメンのお兄様と出歩いても似たような現象が起きるので、この程度ならわたしは慣れっこなのである。
イケメンを見て、その隣にいるわたしを見て「あれ?」みたいな顔をされるのも、慣れている。
美人だけどなんか違う、みたいにぼそっと言われるのにも、まあ慣れている。
悪かったわね、イケメンの隣が見た目がどぎついわたしで!
楚々とした美少女が似合うとか、言われなくてもわかっているわよ!
「ヴィルヘルミーネ、ケーキがあるよ。それから、その……お、俺も、食べていいだろうか、ケーキ」
カフェに入る前にすれ違った女性二人組の言葉にちょっとだけイラついていたわたしは、ポッと頬を染めて照れたように言うライナルト殿下に一瞬で癒された。
ああ、尊い。
頬を染めて照れるイケメン、尊い!
兎生活が長かったライナルト殿下は、ようやくリンゴ地獄から解放されて、食事が楽しくて楽しくて仕方がないらしい。
イチゴのケーキと桃のケーキを比べて真剣にどっちを頼もうか悩んでいる殿下、超‼ 尊い‼
いっそ二つとも頼めばいいんじゃないかな~と思いながら、わたしはにまにまとライナルト殿下を見つめてしまう。二つ頼んだらどうかと提案してあげたいが、悩んでいるライナルト殿下が可愛くてもうしばらく見ていたいと思うわたし、性格が悪いかしら?
……ああ、きっと帽子の下ではうさ耳がぴくぴく動いているんだろうな。帽子邪魔だな。でも仕方ないもんな。ああ、本当にこの奇跡みたいな殿下、どうしてくれよう。
うーんと唸ったライナルト殿下は、覚悟を決めたみたいなきりっとした表情を作って顔を上げた。
「ヴィルヘルミーネ、その、恥を忍んで頼むんだが……、イチゴと桃のケーキ、両方頼むから、食べるの半分手伝ってくれないか……?」
ああ、悶え死ぬ‼
なんだこの可愛い生き物は‼
きりっとしているけど言っていることは鼻血が出るほど可愛い‼
こんな可愛いことを言われて、わたしにノーが言えようか! 言えるはずがない‼
「もちろんです! 半分こしましょう! なんならわたしが頼む予定のショコラケーキも、半分こしましょう!」
食い気味に答えると、ライナルト殿下はそれはそれは綺麗に微笑んだ。
「三つも食べれるのか! それは最高だな!」
最高なのは、あなたです‼
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