第一王子ライナルトの秘密 4
あっという間に籠の中に寝床が作られて、後ろ足の怪我が手当てされた。
この怪我は逃亡する際に誤って怪我をしてしまったのだが、全身の痛みの方が強かったのでそれほど痛みを感じなかった。
けれども全身の痛みが消えたせいか、無性にじくじくと痛みを訴えてきていたので、手当されたことにホッとした。
包帯を巻かれたからなのか、それとも傷薬のおかげなのか、痛みが少し落ち着いたように感じられたからだ。
「くーちゃん、ご飯だよー」
どうやら自分はくーちゃんと名付けられたらしい。
なんとも間抜けな名前だと思ったが、口が利けないのだから文句も言えない。
執事らしい男が、彼女のことを「ヴィルヘルミーネ」と呼んでいたから、彼女は間違いなく自分の従妹だろう。従兄弟が二人いて、兄の方がカールハインツ、妹の方がヴィルヘルミーネという名前であることは、叔母から父宛に届けられる手紙で知っていた。
叔母は白魔術が得意で、それもあって父の魔王討伐に力を貸していた。
けれども、彼のこの全身の痛みを癒すことは、白魔術ではどうしようもないことを父は知っていた。
これを癒すことができるのは、聖女と呼ばれる存在ただ一人だけだ。
けれども聖女はもう何十年も現れていないという。
(聖女の浄化の力でないと、この体の呪いは解けないらしいからな)
白魔術師団長が言っていた。どんなに優れた白魔術の使い手でも、この呪いは解けないのだと。
父は、白魔術に長けた叔母の娘ならば、もしかしたら聖女の力を持って生まれるのではないかと淡い期待を抱いたようだったが、残念ながら叔母からの手紙ではヴィルヘルミーネが聖女の力を顕現させたという報告はなかったそうだ。
ご飯だよ、と差し出された皿の見てふむ、と唸る。
ニンジンとキャベツとリンゴが乗っている。
彼は迷わずリンゴを選択した。
この体になってからというもの、生の野菜や果物ばかり提供されるようになったのだが、はっきり言ってニンジンとかキャベツは美味しくない。差し出される中でリンゴが一番まともだった。だから選択肢にリンゴがあれば迷わずリンゴ一択だ。
空腹だったのもあり、一心不乱にもしゃもしゃと食べていると、ヴィルヘルミーネがにこにこしながらこちらを見つめてくる。
顔立ちはキツいが、笑っていると目じりが少し下がってとても可愛らしい。
(外見で損をするタイプだな)
ふと、そう思った。
顔立ちは非常に整っている。ものすごく美人だ。だからこそ、顔立ちのキツさが余計に目立ってしまうのだ。目鼻立ちがはっきりしているのも、本来は美点だろうが、彼女の場合は逆に損をしていると思う。
少し吊り上がり気味の大きな目は、目力がありすぎる。
くるんくるんとネジのようにしっかりと巻かれている派手な金髪もあって、全体的に女王然として見えるのだ。
「くーちゃん」
にこにこ笑いながらヴィルヘルミーネが呼びかける。
断じて「くーちゃん」という呼び名を認めたわけではないが、笑顔がまぶしくてつい見上げてしまった。
(……可愛い)
確かヴィルヘルミーネは、ロヴァルタ国のマリウス王太子と婚約していたんだったなと思い出して、なんだか無性に面白くなくなった彼は、リンゴを全部食べ終わるともそもそと籠の中に戻って眠ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます