聖女の実力 1
三日後、ライナルト殿下の歓迎パーティーが王城で開かれることとなった。
本来であれば王都に到着してすぐに国王陛下に挨拶に向かうべきだったのだろうが、おじい様の話を聞くと会いに行く気にもなれず、また、おじい様がうまく取り計らってくれたため、事前に謁見する必要なくわたしたちはこの日を迎えることができた。
……と言っても、今日が正念場なんだろうけどね。
おじい様の予測では、今日、何かが仕掛けられるだろうとのことだ。
わたしにはライナルト殿下もいるし、おじい様もお父様もお母様もいる。
不安は感じていないが、面倒この上ない。
……おじい様ってば、フェルゼンシュタイン家を敵に回すとどうなるか思い知らせてやるって息巻いているけど、大丈夫かしら? おじい様が余計にことを荒立てる気がしてならないんだけど。
お父様におじい様のストッパー役は務まらないだろうし、お母様はああ見えてかなり好戦的な性格なので、むしろおじい様と一緒になって喧嘩を買いに行くだろう。
……こりゃ、今日はひと悶着どころの騒ぎじゃないかも。
ただライナルト殿下との婚約を認めてもらいたかっただけなのに、なぜこうなった。
ロヴァルタ国としてはわたしを偽物聖女にして、王家の威信を守りたいだけなんだろうから、わたしが黙ってその思惑を受け入れてあげれば済む話だと思うのだけど、うちの家族もライナルト殿下もそれは絶対に嫌みたい。
……ロヴァルタ国で何と思われようと、わたしはどうだっていいのにね。
すでに王太子に婚約破棄された身なので、わたしの名前には大きな傷がついている。今更もう一個傷がついたところでどうということもないだろうに。
「ねえ、ギーゼラ、まだ~?」
「まだです! 今日は今まで以上に気合を入れて支度するように奥様もおっしゃっていたじゃないですか。あの不届きな王太子殿下を、これでもかと見返してやるんですよ!」
気合を入れたところで、わたしの顔が清楚系超絶美少女に変わるわけでもなかろうに。
かれこれ一時間以上ドレッサーの前に座らされているわたしはもう、疲れてきましたよ。座っているだけですけど、座っているだけでも疲れるんです。
アイラインをするときつい顔がさらにきつくなるから、ピンク系のアイシャドウのグラデーションでふんわり仕上げるのだとか、ちょっと垂れ目っぽく見えるために陰影をつけるだとか、よくわかんないけどそれでそんなに変わるものでもないでしょうよ。
……いつもの、キツさ二割減メイクでいいじゃん。
メイクが終わると、ギーゼラは今度はわたしの髪を丁寧に丁寧に編み込んでいく。
どぎつい縦ロールも、編み込むとわからなくなるからと言って、編み込んでひとまとめにするそうだ。ポイントは、耳の横のひと房だけを残してくるんとさせることらしい。顔回りにふんわりと髪の毛が残っていると、柔らかい印象になるのだとか言っているが、これもよくわからない。
聖女っぽく見えるためにドレスは白が基調のものにしようと言われたけど、これ、ちょっとしたウエディングドレスっぽく見えるよ。
ライナルト殿下の瞳の色と同じエメラルド色の糸でスカートの部分に刺繍が入っているけど、全体的に白いもん。
これでベールをかぶったら、まんまウエディングドレスだね。
ギーゼラの努力のおかげで、いつものキツさ二割減メイクが三割減メイクに進化し、ドレスのふんわりとした柔らかい雰囲気もあって、全体的にみるとキツさが半減しているように見える。
……すごいね。わたしのこのキツい雰囲気を、よくぞここまでって感じ。
「あら、可愛くなったじゃない」
支度を終えて階下に降りると、同じくパーティードレスに着替えて玄関前に降りていたお母様が華やいだ声を上げた。
「ヴィル、可愛いぞ」
「いつも可愛いが、今日は特別可愛いな」
お父様とおじい様も手放しで褒めてくれる。
ライナルト殿下も、そっと近づいて来て、囁くように「可愛い」と言ってくれた。
もう、それだけで長時間の支度を頑張ったかいがあるってものですよ!
まあ、頑張ったのは主にギーゼラなんだけどね。
今日のライナルト殿下は、シュティリエ国の王族であるとわかる盛装に身を包んでいる。
白地に金の肩章のある詰襟の軍服のような格好だが、シュティリエ国の王家の紋章の入った紺色のマントも着用していて、これがとってもとっても似合っていて超カッコイイ‼
……ライナルト殿下も白い服だし、本当に、結婚式みたい‼ 何ならこのまま教会に駆けこんで結婚式を挙げたい気分だわ‼
面倒くさいパーティーなどブッチして、カッコイイ殿下と愛を誓いあっていちゃいちゃしたい!
もちろん、自分の願望のままに突き進むことができないのは理解しているので、渋々馬車に乗り込みましたけどね。
さあ、パーティーという名の戦場に、いざ、出陣ですよ!
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