第31話 さらなる試練
東京・深夜のNDSラボ本部。外の世界は静寂に包まれ、ビルの窓から見える夜景がまばらな光を放っている。しかし、その静寂とは対照的に、NDSラボの内部では緊張感が高まっていた。オフィスの中で田島玲奈は、端末に映し出されたデータを食い入るように見つめていた。目の下に浮かんだクマが、ここ数日間の彼女の不眠を物語っている。
「これは……」田島の声は、ほとんど聞こえないほど小さかったが、その響きには明らかな恐怖が込められていた。彼女が見ているのは、先ほど新たに解析されたデータの一部だった。データの内容は、NDSラボがこれまでに捜査してきた事件の全てが、ひとつの巨大な陰謀に繋がっていることを示唆していた。
神谷右京は、田島の背後から静かに画面を覗き込み、その内容を確認した。彼の目に一瞬、いつもの冷静さとは異なる鋭い光が宿ったが、それを悟られないよう、あえて穏やかな声で話しかけた。「田島さん、どうやら私たちが追ってきた敵は、思っていた以上に手強いようですね。」
田島は深く息をつき、右京に振り向いた。「そうですね、右京さん。このデータが示していることが本当なら……私たちはこれまでの全てを無駄にしたことになるかもしれません。」
右京はゆっくりと首を振り、「無駄ということはありません。真実に近づくたびに、新たな困難が現れるものです。大切なのは、それにどう立ち向かうかです。」と言いながら、再び画面に目を戻した。
データには、これまでの捜査で得られた情報が複雑に絡み合っており、それが一つの巨大な組織によって操作されていることが示されていた。NDSラボが追っていたシャドウネットワークの残党だけでなく、さらなる影の組織がその背後に控えていることが明らかになったのだ。
「この組織……我々の想像を遥かに超えている。」右京は静かに呟いた。「これまでの我々の捜査は、ただの表面に過ぎなかったのかもしれません。彼らの真の目的を突き止めることができなければ、我々は全てを失うことになるでしょう。」
その言葉に、田島は強張った表情を見せた。「もし本当にそうなら……私たちはこれからどうすればいいのでしょうか?」
右京は一瞬考え込んだ後、穏やかな微笑みを浮かべた。「田島さん、試練とは、乗り越えるためにあるものです。我々が今直面しているのは、まさにその試練です。恐れる必要はありません。重要なのは、冷静さを保ち、確実な一歩を踏み出すことです。」
田島はその言葉に、僅かに希望を見出したように頷いた。「そうですね……今こそ、私たちの力を試される時です。」
その時、会議室のドアが勢いよく開かれ、三浦蒼太が駆け込んできた。彼の顔には焦りが見え、何か重大な事態が起こったことを伝えていた。「田島さん、右京さん!急いでニュースを見てください。さっき報道されたばかりですが、あの組織が動き出したようです!」
右京と田島は、三浦に促されるままにニュースを確認した。画面には、緊急速報として、大規模なハッキング事件が報じられていた。被害を受けたのは、政府の機密情報を管理するシステムであり、その背後にいるのは例の組織だと報じられていた。
「ついに、動き出したか……」右京は静かに呟き、すぐに指示を出した。「三浦さん、すぐに関係各所に連絡を取って、被害状況を確認してください。そして、我々も速やかに対策を講じる必要があります。」
田島は冷静に頷き、「了解です、右京さん。私たちが動かなければ、この状況はさらに悪化するでしょう。」と、再び気を引き締めた。
三浦はすぐに動き出し、田島もまた次の行動に移った。しかし、右京は一瞬立ち止まり、窓の外の夜景を見つめた。その眼差しは遠くを見据え、これから訪れるさらなる試練に備えていた。
「彼らの狙いは一体何なのか……そして、その代償として、我々は何を失うことになるのか。」右京は心の中で自問自答しながら、再び冷静な表情を取り戻し、チームのもとへと歩み寄った。
NDSラボは、これまでにない最大の危機に直面していた。彼らが真実を追い求め続ける限り、試練は終わらない。しかし、彼らは決して諦めることなく、次なる一歩を踏み出す準備を整えていた。
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