第32話 影の狙い
東京の夜は深まり、街の喧騒が徐々に静まり返る頃、NDSラボの本部では、一つの緊急会議が開かれていた。部屋の中央に設置された大画面モニターには、国際的なニュースがリアルタイムで流れている。画面には、複数の政府機関や重要インフラが同時にサイバー攻撃を受け、大混乱に陥っている様子が映し出されていた。
「これは……ただのハッキングではないですね。」田島玲奈がモニターを見つめながら、唇をかみしめた。「彼らはこの混乱を利用して、何か大きなことを企てているはずです。」
三浦蒼太は、画面に映る被害状況を見ながら、「でも、一体何が目的なんでしょうか?彼らはただ混乱を引き起こしているだけでは?」と疑問を投げかけた。
その時、神谷右京が静かに口を開いた。「混乱は目的ではなく、手段でしょう。彼らが狙っているのは、この混乱の裏で何かを成し遂げることです。」
右京の声は静かでありながらも、その一言一言がメンバーたちの心に重く響いた。彼はすでに、敵の本当の狙いに気付き始めていたのかもしれない。
「右京さん、その『何か』とは?」田島が問いかける。
右京はしばし考え込んだ後、モニターに映る混乱の中、ある一つの点に視線を集中させた。「彼らの目的は、単なる情報の盗難やシステムの破壊ではないと思います。この規模で同時に攻撃を仕掛けるには、膨大なリソースが必要です。彼らが狙っているのは、私たちが予測し得ない、もっと深いところにあるものです。」
田島はその言葉にピンときたように、「つまり、彼らはこの混乱の中で、何か重要な物を手に入れようとしている……ということですか?」と確認した。
右京は静かに頷き、「ええ。ですが、その『重要な物』が何であるかが問題です。彼らが何を求めているのか、それを掴むことができれば、我々は一歩彼らに近づくことができるでしょう。」
三浦は焦りを隠せない様子で、「でも、今の時点では手がかりが少なすぎます。どうすれば彼らの狙いを突き止めることができるんでしょうか?」と問い詰めた。
その時、部屋のドアが開き、NDSラボのデジタルフォレンジック専門家である高野美咲が駆け込んできた。彼女は手に持っていたタブレットを勢いよく机の上に置き、画面を皆に見せた。
「これを見てください。私が解析していたデータの一部です。」高野は焦る息を整えながら説明を始めた。「今回のサイバー攻撃の背後には、複数の異なるIPアドレスが使用されています。しかし、その中の一つが、特定のサーバーにアクセスしていたことが分かりました。」
田島は画面を覗き込み、「それは……?」と問いかけた。
「それは、政府が極秘に管理している『オメガファイル』と呼ばれるデータベースです。」高野はためらいがちに答えた。「オメガファイルには、国防や外交に関する最高機密が含まれており、その内容が外部に漏れれば、国家の安全保障が大きく揺らぐことになります。」
右京はその情報を聞いて、目を細めた。「なるほど……彼らの狙いは、このオメガファイルにあったのですね。」
三浦は驚愕の表情を浮かべ、「そんな……もし彼らがそのファイルを手に入れたら、一体どうなるんですか?」と叫んだ。
右京は冷静な声で答えた。「国家の安全保障が脅かされるだけでなく、国際的な秩序が崩壊する可能性があります。彼らはその力を使って、全く新しい秩序を創り出そうとしているのでしょう。」
田島はすぐに指示を出した。「高野さん、オメガファイルへのアクセスをブロックできる手段を急いでください。彼らが手に入れる前に、何としてでも阻止しなければなりません。」
高野は即座に頷き、作業に取りかかった。
「しかし、彼らがこれほどまでにオメガファイルに執着する理由は何なのでしょうか?」田島は疑念を抱きながら問いかけた。
右京はその問いに静かに答えた。「彼らが求めているのは、力です。情報という力を手に入れることで、世界を自分たちの意のままに操ることができると考えているのでしょう。しかし、そのためには、まず私たちの前に立ちはだかる障壁を取り除かなければなりません。」
「障壁……?」三浦が戸惑いながら尋ねた。
右京は静かに微笑み、「それが私たち、NDSラボです。」と答えた。「彼らは私たちが真実に辿り着く前に、全てを終わらせようとしているのです。」
その言葉に、田島は決意を固めたように頷いた。「ならば、私たちは全力で彼らを阻止しなければなりません。彼らの計画を暴き、世界を守るために。」
「そうですね、田島さん。」右京もまた微笑みを浮かべ、「我々が手を取り合えば、どんな影の組織も、決して真実を隠し通すことはできないでしょう。」と静かに答えた。
NDSラボのメンバーたちは、その言葉を胸に刻み、次なる行動へと動き出した。彼らが追い求める真実は、これまで以上に危険な領域へと踏み込もうとしていた。しかし、それでも彼らは恐れることなく、影の組織との対決に挑む決意を固めたのだった。
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