第5話 田島班と前田班の連携開始
NDSラボのオフィスはいつもと変わらぬ静寂に包まれていたが、その裏には今、特別な緊張感が漂っていた。田島玲奈は、三浦達也の死が単なる自殺ではないという確信を胸に、前田奈緒美と再び顔を合わせていた。彼女たちの間には、これから行われる捜査に対する意気込みと、それぞれのアプローチに対する微妙な警戒心が入り混じっていた。
「現場の状況からして、かなり巧妙に仕組まれた殺人である可能性が高いです。」田島は、部屋の中央に設置されたホワイトボードに三浦の写真を貼り付けながら言った。その写真には、遺体の横たわる姿が映し出されていたが、その整然とした部屋の様子が逆に異様さを際立たせていた。「特に気になるのは、彼のスマートフォンに残されていた断片的なデータです。斉藤というビジネスパートナーとのメールには、明らかに何か企んでいる様子が見て取れます。」
「そのデータは確かに重要ですね。」前田は、田島の説明を真剣に聞きながらも、自分の視点を加えるように続けた。「ただ、それだけでは犯人を確定するには不十分です。私たちは、現場でさらに法医学的な証拠を収集する必要があります。死因の特定と、遺体に残された微細な痕跡が事件の真相を明らかにする手がかりになるはずです。」
田島は前田の言葉に耳を傾け、彼女の冷静で論理的なアプローチに一瞬納得する自分を感じたが、それと同時に、現場での自分たちの直感をも信じたかった。「もちろん、法医学的な証拠も重要です。でも、現場に残された痕跡を見逃さないためには、私たちが直接その場に赴くことが必要です。現場で何か見落としがあるかもしれないし、デジタルフォレンジックだけでは掴めない手がかりもあるはず。」
その瞬間、オフィスの扉が開き、石井遥斗が静かに入ってきた。彼は手にタブレットを持ち、最新の調査報告を提示しようとしていた。「田島班長、前田さん。斉藤に関する追加の情報が入りました。彼の過去のビジネスパートナーとのトラブルや、最近行われた大規模な取引の詳細です。」
「ありがとう、石井。」田島は石井からタブレットを受け取り、画面を見つめた。そこには、斉藤が過去に何度かビジネス上のトラブルを起こしていたこと、特に不正取引に関与していた可能性があることが記されていた。「これで斉藤が単なるビジネスパートナー以上の存在であることが明確になったわね。彼の過去を洗い出すことで、さらに多くの手がかりを得られるかもしれない。」
「それに加えて、彼の行動パターンを分析することも重要です。」前田は、すかさず補足した。「デジタルフォレンジックの結果と合わせて、彼の行動の裏にある動機を探る必要があります。特に、今回の事件が単なるビジネストラブルではなく、もっと大きな陰謀に関わっている可能性も考慮すべきです。」
田島は再び頷き、前田が持ち込んだ冷静な視点に対する感謝の意を込めて、軽く笑みを浮かべた。「そうね。そのためには、私たちのチームが協力して動く必要があるわ。」
「高野さんの解析が鍵を握ることになりそうです。」前田もまた、田島に向けて少し笑みを返した。「彼女がどれだけデータを復元できるかによって、私たちが次に進むべき方向が決まります。」
そのとき、高野美咲がドアをノックして入ってきた。彼女の表情にはいつもの冷静さと緊張が混在しており、手には彼女が復元したデータの一部が映し出されたタブレットを持っていた。「田島班長、前田さん、今のところは断片的な情報しか手に入っていませんが、いくつかの重要なデータを復元できました。特に、斉藤が三浦との最後のやり取りで使った暗号化されたメッセージです。」
「暗号化されたメッセージ?」前田がすぐに反応した。「それは、彼らが何か重要な取引をしていた可能性が高いですね。」
「ええ。」高野は頷きながら、タブレットの画面を見せた。「この暗号が解読できれば、私たちは彼らの計画の全貌を掴むことができるかもしれません。」
「よし、高野、引き続き解析を進めて。」田島は、彼女の確実な作業に信頼を寄せながら指示を出した。「この暗号が解ければ、私たちは一歩前進できる。」
「了解です、すぐに取り掛かります。」高野は頷き、再び作業に戻るために部屋を出て行った。
田島と前田はその後、現場に赴く準備を整えた。二人は互いに視線を交わし、少しの緊張感を共有しつつも、それを乗り越えて協力する覚悟を感じていた。
「それでは、現場に向かいましょう。」田島が静かに言い、前田も軽く頷いた。
「そうしましょう。私たちの仕事はまだ始まったばかりです。」前田の声には、これから行う捜査に対する決意と、田島との協力に対する期待が込められていた。
二人は部屋を出て、それぞれのメンバーたちに指示を与えながら、現場に向かう準備を進めた。田島班と前田班が共に動き出す瞬間が、ここに始まろうとしていた。
田島は再び前田に一瞥を送り、その先にある新たな手がかりに期待を寄せた。そして、彼女たちが現場に向かうその足取りは、これから明らかになる真実を求めて確実に進んでいた。
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