第4話 三浦達也の不審死

都内の高級マンション「プレジデンシャル・タワー」の一室、1203号室。ここは、近隣住民からも一目置かれる存在で、住人たちのプライバシーは徹底的に守られている。その1203号室に住んでいたのが、国際的ビジネスマンの三浦達也だった。彼は、日本国内だけでなく、世界中にビジネスネットワークを築き、多くの人々から尊敬を集めていた。しかし、その成功者が、今では冷たい床の上に横たわっている。


彼の死が発見されたのは、ある平凡な朝のことだった。三浦の個人秘書が彼との連絡が取れず、不安を感じて警察に連絡した。警察が現場に到着したとき、部屋は異様なまでに整然としていた。まるで何も事件が起きていないかのように、家具や物品はきっちりと配置されていた。唯一の異変は、三浦の遺体がその整然とした部屋の中央に横たわっていたことだ。


警察は初見で自殺の可能性を考えた。三浦の手には、一枚のメモが握られており、そこには「もう限界だ」とだけ書かれていた。しかし、彼の死に不自然な点が多すぎた。例えば、遺体の周囲には、まるで何かを隠すように徹底的に清掃された形跡があった。そして、死因も特定が困難な状態で、医師たちは困惑していた。


現場に到着した田島玲奈は、その異様な静けさと緊張感をすぐに感じ取った。彼女は三浦の遺体に視線を送り、その手に握られたメモをじっと見つめた。メモには短い言葉しか書かれていなかったが、その背後にある真実を探り出そうとする彼女の瞳には、決意の光が宿っていた。


「これが、彼の最後の言葉……か。」田島は小さく呟いた。


石井遥斗がすぐに彼女に近づき、現場の状況を整理しようとする。「表向きは自殺のようですが、どうも腑に落ちません。彼のビジネスパートナーたちが全員多額の生命保険金を受け取ることが判明しました。それも、彼が死んだその日のうちに。」


「なるほど。何かが裏で動いている可能性が高いわね。」田島は石井に頷き、彼の冷静な分析を評価するように、少しだけ微笑んだ。「高野はどうしている?」


「今、彼のスマートフォンを解析中です。ですが、初期の調査では、ほとんどのデータが消去されていることがわかりました。しかも、それが遠隔操作で行われた可能性が高い。」


「遠隔操作……誰かが彼の死を仕組んだ可能性がますます強まったわね。」田島の表情が引き締まり、彼女の中で徐々に事件の輪郭が形作られていくのが感じられた。「高野にはデータの復元を急いでもらいましょう。ここには何か重要な手がかりが隠されているはずよ。」


石井が頷き、無言で現場の状況を再度確認し始める中、田島は再び遺体に目をやった。彼女の中で、かつて経験した数々の現場がフラッシュバックし、冷静さを保つように自分を戒めた。田島は現場での直感と経験を重んじるタイプだが、同時にその冷静な判断力は、彼女の最大の武器でもあった。


そのとき、後ろで小さな音がして、高野美咲が部屋に入ってきた。彼女は手に彼のスマートフォンを持ち、その眉間にわずかなシワを寄せていた。「田島班長、解析の結果が出ました。」


「どうだった?」田島がすぐに反応し、彼女の言葉を待った。


「予想通り、かなり巧妙にデータが消去されています。しかし、いくつかの断片的なデータが復元できそうです。特に、彼が最後に送ったメールの一部が見つかりました。」


「メール?」田島はその言葉に敏感に反応し、高野の手元を見つめた。


「はい。送り主は彼のビジネスパートナーである斉藤です。内容は、これが全て計画通りであることを示唆するものです。」高野の声には、確信と共に少しの緊張が含まれていた。


「斉藤……彼がこの事件の黒幕かもしれないわね。」田島は小さく息をつき、事件の核心に迫る手がかりを得たことに内心で安堵した。「高野、引き続き解析を進めて。他にも何か見つかるかもしれない。」


「承知しました。」高野は軽く頭を下げ、再び解析に戻ろうとしたが、ふと立ち止まって田島に向き直った。「田島班長……この事件、単なる自殺ではないことが確実ですね。」


「そうね、これは間違いなく何者かによって仕組まれたもの。」田島は静かに頷き、彼女の言葉を重く受け止めた。「私たちが解決すべき事件よ。」


その言葉を聞いて、高野は再び決意を新たにし、部屋を後にした。田島は、彼女の背中を見送りながら、事件の背後に潜む真実に対する熱意がますます強まっていくのを感じた。彼女の中で、かつての別班時代の経験が再び呼び覚まされ、これからの捜査に対する強い意志が生まれていた。


「行くわよ、石井。」田島は小さく呟きながら、遺体を見つめる最後の一瞥を送った。


石井は無言で頷き、彼女に続いた。二人は冷たい廊下を抜け、次なる手がかりを求めて、NDSラボへと戻っていく。その足取りには、すでに次の戦いへの準備が整っていることが感じられた。

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