第14話 トリニティの全貌

NDSラボのオフィスは、いつもよりもさらに静まり返っていた。深夜に差し掛かる時間帯、メンバーたちはそれぞれのデスクに座り、先ほどまでの激しい戦闘の余韻を胸に、収集したデータの解析を進めていた。施設から持ち帰った膨大なデータの山は、ラボのモニターに次々と映し出され、静かな緊張感がオフィス内を支配していた。


田島玲奈は、机の上に広げたデータの一部をじっと見つめていた。彼女の目には、トリニティが行ってきた非人道的な行為の数々が次第に明らかになるにつれて、怒りと無力感が交錯していた。


「これが……トリニティの正体……」田島は小さく呟いた。


高野美咲がデスクの反対側から顔を上げ、田島に静かに言った。「玲奈さん、ここに記録されているデータを見る限り、トリニティはただの福祉団体を装った表向きの顔とはまるで違います。彼らは『人道的援助』という名目で、長年にわたって違法な人体実験を行ってきたようです。」


田島は、その言葉を聞きながら、モニターに映し出された資料に目を移した。そこには、数十人もの被験者の名前がリストアップされており、それぞれの名前の横には、彼らに施された実験内容が詳細に記録されていた。実験内容はどれも、倫理的には到底許されるものではなかった。


「生体データの解析、薬物耐性試験、さらには精神操作……彼らは人間をまるで実験動物のように扱っていた。」田島はデータを読み進めながら、その非人道的な行為に対する怒りを抑えられなかった。「これが全て証拠として残っているということは、トリニティが自分たちの行為を隠そうとしていなかった証拠ね。むしろ、彼らはこれを誇りにしていたのかもしれない。」


高野は頷きながら、さらに詳細な報告を続けた。「しかも、これらの実験は国内だけでなく、海外でも行われていたようです。トリニティは国際的なネットワークを持っていて、複数の国で同様の活動を展開していました。各国の政府機関や企業とも密接に繋がりを持ち、その裏で暗躍していたようです。」


「つまり、これは単なる福祉団体ではなく、国際的な犯罪組織だったということか。」前田奈緒美が冷静な声で言いながら、手元の資料に目を通していた。「私たちが追っていたのは、国内の一部ではなく、もっと大きな組織全体に絡んだ犯罪だったのね。」


田島はその事実を受け入れながら、過去に自分たちが追いきれなかった真実が今ようやく全貌を現したことに深い感慨を覚えた。「彼らの目的は一体何だったのか。これだけの実験をして何を得ようとしていたのか……」


「データによれば、彼らの最終的な目的は、『人類の進化』という名のもとに、新たな生物兵器を開発することにあったようです。」高野はモニターに映し出されたファイルを指差しながら説明した。「彼らは人体の限界を超えるために、様々な薬物や技術を用いて人間を強化し、コントロールすることを試みていました。そして、それを達成するために、彼らは倫理を完全に無視し、人間の命を道具として利用していたのです。」


田島はその言葉に息を飲み、モニターに映る映像の一つをクリックした。そこには、トリニティが行っていた実験の一部が記録されており、被験者たちが苦痛に耐えながら実験に参加させられている様子が映し出されていた。


「これが、彼らが追い求めた『進化』の真実……」田島はその映像を目を背けることなく見続けた。「人間の尊厳を完全に無視した行為が、こうして記録として残されているなんて……」


前田が静かに田島の肩に手を置き、彼女に寄り添った。「玲奈さん、これは私たちが暴き出した真実です。彼らの行為を明らかにすることで、これ以上の犠牲者が出ることを防ぐことができる。私たちは、これを正義のために使うべきです。」


田島はその言葉に頷き、前田に感謝の意を込めて微笑んだ。「そうね、前田さん。私たちが集めたこの証拠を公にし、トリニティの全貌を世に知らしめることで、彼らが行ってきた罪を裁くことができる。過去の犠牲者たちのためにも、私たちはこの戦いを最後までやり遂げる必要があるわ。」


「ただし、それには慎重に計画を立てる必要があります。」前田は続けた。「トリニティの背後には、国際的な犯罪組織が関わっているということが分かった今、私たちはその反撃にも備えなければなりません。彼らは自分たちの行為が暴かれることを決して許さないでしょう。」


「ええ、その通りです。」田島は強く頷き、チーム全員に向けて声をかけた。「これから私たちがやるべきことは、トリニティの全貌を公にし、彼らの罪を世に知らせること。そして、彼らの反撃に備え、私たち自身を守る準備を整えることです。」


その言葉に全員が深く頷き、それぞれの役割を再確認するように準備を始めた。NDSラボのメンバーたちは、これから迎えるであろう新たな戦いに備えながら、自分たちの使命を再認識していた。


田島は自分のデスクに戻り、再び手元の資料を見つめた。過去の事件が現在の事件と繋がり、その全貌が明らかになった今、彼女は自分自身が抱えてきた過去の苦しみとようやく決着をつける時が来たことを感じていた。


「これで、過去に囚われることはない……」田島は静かにそう呟き、前を見据えた。「次は、彼らの反撃に備え、私たちの正義を貫くための準備をする番だ。」


深夜のオフィスの中で、NDSラボのメンバーたちはそれぞれが決意を新たにし、次なる戦いに向けて動き出していた。田島はその様子を見守りながら、自分たちの力を信じ、これからの困難に立ち向かう準備を整えていくのだった。

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