第15話 証拠の公開と敵の反撃

NDSラボのオフィスには、普段よりも重苦しい空気が漂っていた。田島玲奈は、自分のデスクに置かれたモニターに映し出されたデータを見つめながら、深く考え込んでいた。トリニティが行ってきた非人道的な実験の証拠が全て揃い、その公開の準備が整っている。しかし、公開に踏み切る前に越えなければならない山があった。敵の反撃だ。


「これでようやく彼らを追い詰められる。」前田奈緒美が、田島の隣で冷静に言った。「私たちがここまで集めた証拠を公表すれば、彼らの行いは世間に暴かれることになるわ。」


田島は静かに頷いたが、その表情にはまだ不安の色が残っていた。「ええ、でもその前に彼らが何を仕掛けてくるか分からないわ。これまでの動きを考えると、トリニティの背後にいる組織が黙っているとは思えない。」


前田は田島の言葉に真剣な表情で同意した。「だからこそ、私たちも最大限の警戒をしなければならない。セキュリティシステムをさらに強化して、いつ何が起きても対応できるようにしておくべきです。」


「その通りね。」田島は深く息を吐き、デスクの上に並べられた証拠資料に目を移した。大量のデータと共に、彼女の記憶の中で過去の出来事が蘇る。かつて別班で直面した任務の記憶が、今の状況と重なり合っていく。


その時、田島の携帯電話が机の上で振動した。着信画面には「高倉」の名前が表示されている。田島はすぐに電話を取り、耳に当てた。「高倉、何かあったの?」


「玲奈、気をつけろ。」高倉の声はいつも以上に緊張感を帯びていた。「奴らが動き出した。お前たちが証拠を公表しようとしていることに気づいたらしい。ラボの周辺でも不審な動きが報告されている。」


田島の心臓が一瞬だけ跳ね上がった。やはり、敵は黙っていない。冷静を装いながらも、その不安を押し込めて返答した。「ありがとう、高倉。私たちも準備を整えておくわ。もう彼らの思い通りにはさせない。」


電話を切ると、田島はすぐに前田に向き直った。「高倉からの情報よ。トリニティが動き出した。私たちが証拠を公表しようとしていることに気づいたみたい。」


前田の顔に緊張が走る。「となると、敵が直接動いてくる可能性が高いですね。全員に警戒を呼びかけ、セキュリティをさらに強化しましょう。私たちの動きを止めようとする連中に対して、どんな手段を使ってでも対抗する準備が必要です。」


田島は頷き、前田に指示を託した。「全員、緊急対応を徹底するように。私たちは一瞬たりとも油断してはならないわ。敵が何を仕掛けてくるかは分からないけど、私たちがこれまで築き上げてきたものを守るために、全力を尽くしましょう。」


前田はその言葉を受けて、すぐに行動を開始した。メンバーたちは一斉に動き出し、ラボ内のセキュリティシステムを再確認し、必要な強化措置を講じた。全員が最大限の警戒を維持しつつ、ラボは緊張感に包まれたまま、静かに動き続けていた。


田島はデスクに戻り、再びモニターに目をやった。彼女の目には、トリニティが行ってきた残虐な行為が映し出されていた。これ以上、犠牲者を出すわけにはいかない。彼女は決意を新たにし、次の行動に移るための準備を進めた。


その時、田島の胸に湧き上がる感情が一つだけあった。恐怖ではない、怒りでもない。それは、正義を成し遂げるための強い意志だった。過去に自分たちが果たせなかったことを、今度こそ成し遂げるために。


「これで終わらせる。」田島は静かに呟き、自分自身に言い聞かせるようにそう言った。「トリニティを、完全に壊滅させるために。」


その言葉が彼女の中で響き渡り、田島は冷静さを保ちながら、次なる戦いに向けて動き出した。敵がどんな手を使ってこようとも、彼女たちにはもう後戻りする余地はなかった。正義を手にするために、NDSラボの全員がその一歩を踏み出そうとしていた。

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