第16話 スパイの特定

NDSラボのオフィスは、普段とは違う緊張感に包まれていた。トリニティからの反撃が迫っていることを知り、田島玲奈は心の中で最悪の事態に備えていた。ラボ内部にスパイがいる可能性が高いことを察知した彼女は、その人物を特定するために全力を尽くしていた。


田島がデスクに座り、手元の資料に集中していると、石井遥斗が静かにオフィスに入ってきた。彼の表情には、何か重要な情報を持っていることが感じられた。


「田島班長、少しお時間をいただけますか?」石井は落ち着いた声で言った。


「どうしたの、石井?」田島は顔を上げ、彼の言葉に耳を傾けた。


石井は手に持っていたファイルを田島に差し出しながら説明を始めた。「内部のアクセスログを徹底的に調査しました。その結果、不審な動きをいくつか発見しました。このデータをご覧ください。」


田島はファイルを受け取り、素早くページをめくっていった。そこには、ある特定のデータに対して繰り返し不自然なアクセスが行われている記録が記されていた。「このアクセス元……何かおかしいわね。普段の業務ではあり得ない。」


「その通りです。」石井は頷いた。「このアクセスが行われた時間帯やデータの内容を考えると、内部の誰かが意図的に情報を引き出していたと考えるのが自然です。そして、その人物を特定しました。」


田島は一瞬、目を見開き、彼が続ける言葉を待った。石井は深呼吸をし、意を決して告げた。


「吉田です。彼のアクセスログが他のメンバーと明らかに異なっています。特に、トリニティに関する機密情報に対して異常に多くのアクセスが行われています。」


「吉田が……?」田島は驚きを隠せなかった。吉田はこれまでラボの中でも信頼されていたメンバーだった。だが、目の前の証拠が彼の裏切りを示している以上、見逃すわけにはいかなかった。


「前田さんにもこの情報を共有しましょう。」田島は冷静さを保ちながら言った。「私たちで確認して、吉田に対処する必要があります。」


田島と石井は、すぐに前田奈緒美を呼び出し、この情報を共有した。前田はファイルに目を通し、静かに頷いた。「やはり、吉田が……これを放置するわけにはいきませんね。」


「すぐに行動を起こしましょう。」田島は決然とした表情で言った。「吉田を問い詰めて、これまでに流された情報を全て洗い出す必要があります。そして、ラボ全体に再度セキュリティを徹底させましょう。」


「了解しました。」前田と石井は同時に答え、オフィス全体が緊張の中で動き始めた。メンバーたちはそれぞれの持ち場で作業を進め、内部のセキュリティを再確認し、吉田の行動を監視するための準備を整えた。


田島は、吉田との対決に備えて心を落ち着けようとしていた。彼がトリニティに情報を漏らしていた事実は、ラボ全体にとって大きな打撃だった。しかし、今は感情を抑え、冷静に対処することが最も重要だった。


吉田はすぐに隔離され、田島と前田は彼と対面するために部屋へと向かった。二人は心を落ち着け、最悪の事態に備えながらも、真実を明らかにするための決意を固めていた。


「これで、全てを終わらせる。」田島は自分に言い聞かせるように呟き、静かに歩みを進めた。全てが明らかになれば、NDSラボは再び正常に機能し、トリニティとの戦いに勝利するための最後の一手を打つことができるはずだった。

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