第17話 最終対決

NDSラボのオフィスは、緊張が張り詰めていた。吉田がスパイであったことが明らかになり、その裏切りがラボ全体に動揺を与えた。しかし、田島玲奈と前田奈緒美はすぐに状況を把握し、吉田を問い詰めるために彼が隔離されている部屋へと向かった。


田島と前田が部屋に入ると、吉田は椅子に座り、目を伏せていた。その姿は、かつての仲間としての面影を残しつつも、今や全く違う人物のように見えた。田島は冷静さを保ちながら、吉田に近づいた。


「吉田さん、なぜこんなことをしたの?」田島の声には、抑えた怒りと深い悲しみが入り混じっていた。


吉田はゆっくりと顔を上げ、田島と前田を見つめた。その目には、後悔と恐れが混在していたが、どこか諦めの色も見て取れた。「玲奈さん、俺にはもう選択肢がなかった。トリニティは、俺の家族を人質に取っていたんだ……」


その言葉に、田島は一瞬息を飲んだ。「家族を……?」


「そうだ。」吉田は苦しそうに語り続けた。「彼らは、俺が情報を流さなければ、家族の命を奪うと言ってきた。俺はそれを防ぐために、仕方なく従ったんだ。だが、そんなことをしても、結局家族は……」


言葉を失った吉田は、顔を伏せたまま涙を流し始めた。田島はその姿を見つめながら、彼がどれほどの苦しみと恐怖の中で行動していたのかを感じ取った。しかし、家族を守りたいという思いが、結果的に多くの人々を危険にさらしたという事実は変わらない。


前田が静かに言った。「吉田さん、私たちが追っているのは、ただの犯罪者集団ではなく、人々を支配しようとする巨大な組織です。あなたがどれだけ苦しんだかは理解します。でも、そのために無実の人々が犠牲になっていることを忘れてはいけません。」


吉田は再び顔を上げ、前田を見つめた。「わかっています。でも、もう遅すぎるんです。俺がしたことは取り返しがつかない……」


田島は深く息を吸い込み、決然とした声で言った。「確かに、過去は変えられないかもしれない。でも、これからのことは変えられる。トリニティを倒して、あなたが背負った罪を償うためにも、私たちと共に戦ってください。」


吉田はその言葉に一瞬戸惑いながらも、田島の目を見つめ直した。彼女の目には、信念と決意が宿っていた。「俺に、まだそんな資格があるのか……?」


「あるわ。」田島は力強く頷いた。「あなたが最後に選ぶ道が、これまでの罪を帳消しにするわけではない。でも、あなたが私たちと共に戦うことで、失われた命や未来を少しでも取り戻すことができる。」


吉田はしばらく黙った後、深く息を吐いた。「わかった……玲奈さん、俺はあなたと共に戦う。トリニティの正体を暴き、彼らを倒すために。」


その時、オフィス内に警報が鳴り響いた。石井遥斗が慌てて駆け込んできた。「田島班長、トリニティが大規模なデジタル攻撃を仕掛けてきました! ラボ全体がターゲットにされています!」


田島はすぐに反応した。「全員、緊急対応を! セキュリティを強化して、システムを守り抜いて!」


オフィスは一瞬にして戦場と化し、メンバーたちはそれぞれの持ち場で全力を尽くしてデジタル攻撃に対処し始めた。モニターには、トリニティからの猛攻が次々と映し出され、システムが次第に耐えきれなくなる様子が示されていた。


「彼らは全力で私たちを潰しに来ているわ。」田島は冷静に状況を見守りながら言った。「でも、私たちは絶対に負けない。これまでの戦いを無駄にはしないわ。」


前田がすぐにデータのバックアップ作業を開始し、石井はサイバー攻撃に対する防御を指示していた。田島もまた、自らの手でシステムを操作し、トリニティの攻撃をかわそうとしていた。


激しい攻防が続く中、吉田は部屋の隅で自分のしたことを振り返りながら、田島たちの戦いを見守っていた。彼は自分の行動がもたらした結果を深く後悔し、何か少しでも償いができることを願っていた。


数時間にわたる戦いの末、トリニティの攻撃が徐々に収束していくのが感じられた。最後の攻撃を防ぎきった瞬間、オフィス内に安堵の空気が広がった。


「何とか持ちこたえました。」石井が息をつきながら報告した。「全てのデータは無事です。これで、証拠を公開できます。」


田島は深く息を吐き、全員に向けて言った。「みんな、本当にお疲れさま。これで、私たちはトリニティを倒すための最終的な一手を打つ準備ができたわ。」


前田が田島の隣に立ち、静かに言った。「私たちはやり遂げました。これで、全てを終わらせることができます。」


田島はその言葉に深く頷き、最後の準備に取り掛かった。これまでの戦いが、今まさに結実しようとしている。トリニティを壊滅させるための最終的な一手が、今まさに打たれようとしていた。

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