第18話 シャドウネットワークの影

トリニティ壊滅から数週間が経ち、NDSラボのオフィスには一時的な平穏が訪れていた。だが、その静けさの裏には、誰もが口に出さない不安が漂っていた。トリニティを倒すことができたものの、田島玲奈はその勝利がどこか空虚なものに感じていた。まるで、表面の問題を取り除いただけで、深層にはまだ何か得体の知れない闇が潜んでいるような感覚だった。


オフィスの一角に設けられた解析室では、トリニティから押収した資料やデータの解析が続けられていた。膨大な量の資料が積み上げられ、モニターには次々と新たな情報が映し出されていた。前田奈緒美は、その画面を食い入るように見つめながら、手元のメモに何かを書き留めていた。


田島は前田の隣に立ち、画面に映るデータをじっと見つめた。「どう? 何か掴めそう?」


前田は少し疲れた表情で田島を見上げた。「ええ、確実に何かが見えてきています。ただ、思っていたよりもずっと大きな影が背後にあるようです。」


田島はその言葉に眉をひそめた。「どういうこと?」


前田はモニターに映し出されたデータを指差しながら説明を始めた。「このデータは、トリニティの主要な資金源や協力者を示すものです。私たちがこれまでに知っていた情報とはまるで違う大きな組織が関与していたことが分かりました。トリニティは単なる表向きの組織に過ぎず、その背後には『シャドウネットワーク』と呼ばれる国際的な犯罪組織が存在している可能性があります。」


「シャドウネットワーク……?」田島はその名前を口にしながら、頭の中でそれを反芻した。「聞いたことがないけど、それほど大きな組織なの?」


前田は頷き、さらに詳細なデータを画面に映し出した。「この組織は、世界各地で非合法な活動を展開しているようです。人身売買、薬物取引、武器密輸、さらには国際テロ組織との繋がりまで……。トリニティの実験も、このシャドウネットワークが資金を提供し、技術を支援していたと考えられます。」


田島は画面に映る膨大な情報を見つめながら、その恐るべき規模に圧倒されそうになるのを感じた。「つまり、私たちが倒したのは氷山の一角に過ぎなかったということね……。」


「その可能性が高いです。」前田は同意しながらも、その声には冷静さがあった。「シャドウネットワークがどれほどの規模で活動しているか、まだ全容を掴むには至っていませんが、確実にトリニティ以上の脅威であることは間違いありません。」


田島は深く息を吐き、心の中で自分を奮い立たせた。「これからが本当の戦いということか……。でも、私たちがこれまでやってきたことを無駄にはできない。シャドウネットワークを追い詰めて、彼らの全貌を暴くために、全力を尽くしましょう。」


前田はその言葉に力強く頷いた。「ええ、私たちにはその力があるはずです。まずは、彼らがどこでどのように活動しているかを突き止めることが最優先です。そして、トリニティの残した資料の中から、シャドウネットワークとの繋がりを探し出しましょう。」


「そうね。全員にこの情報を共有して、すぐに動けるようにしておいて。」田島は決意を固めた表情で指示を出した。「私たちはこれまで以上に綿密な調査と準備が必要になるでしょう。シャドウネットワークがどれだけ強大であろうと、私たちは必ず彼らを追い詰める。」


その言葉に促されるように、前田はすぐにオフィス全体に指示を飛ばし始めた。NDSラボのメンバーたちは、これから始まる新たな戦いに向けて、それぞれの役割を果たすために動き出した。


田島はオフィスの窓から外を見つめ、暗雲が立ち込める空を眺めた。トリニティを倒したことで、全てが終わると思っていたが、まだ戦いは続いている。いや、むしろこれからが本番だ。シャドウネットワークという新たな敵に立ち向かう覚悟を固め、田島は静かに拳を握りしめた。


「どれほどの力が相手でも、私たちは必ず真実を明らかにする。そして、全ての罪を暴いてみせる。」


その決意が、オフィスにいる全員に伝わり、NDSラボは再び立ち上がる準備を整えていった。シャドウネットワークとの戦いが始まりつつあることを、誰もが感じ取っていた。そして、その戦いがどれほど過酷なものになるかを、心のどこかで理解していた。


だが、彼らにはそれを乗り越える力があった。田島はその信念を胸に抱き、仲間たちと共に新たな戦いの幕を開ける準備を進めていった。

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