第19話 新たな犠牲者

トリニティ壊滅の余韻がまだNDSラボのメンバーの間に残る中、田島玲奈は次第に心の中に芽生える不安を感じていた。シャドウネットワークという新たな敵の存在が明らかになり、その脅威の大きさを思うと、これからの戦いがどれほど厳しいものになるのかを考えずにはいられなかった。


その日も、田島はオフィスの窓から外を眺めていた。東京の街並みが広がる景色はいつもと変わらないが、その静けさの中に潜む危険を感じていた。突然、彼女の考えを遮るように、デスクの電話が鳴り響いた。前田奈緒美からの呼び出しだった。


「玲奈さん、すぐに解析室に来てください。新たな情報が入りました。」前田の声はいつもより緊迫していた。


田島はすぐに席を立ち、急いで解析室へと向かった。ドアを開けると、前田と石井遥斗がモニターに映し出されたデータを凝視していた。二人の表情には、何か深刻な問題が浮かび上がっていることが明らかだった。


「何があったの?」田島が尋ねると、前田は少し疲れた顔で彼女を見た。


「シャドウネットワークが関与していると思われる、新たな実験施設の存在が確認されました。」前田はモニターを指しながら説明を始めた。「この施設では、非合法な人体実験が行われており、数多くの犠牲者が出ているとの情報が入りました。私たちがトリニティを追っている間に、彼らはさらに別の場所で残虐な実験を続けていたようです。」


田島はモニターに映し出された情報を見つめた。そこには、施設の外観や内部のレイアウト、さらには実験に使われたと思われる薬品や器具の詳細が記録されていた。「どこにあるの?」


「中央アジアの山岳地帯に位置しています。非常にアクセスが難しい場所ですが、シャドウネットワークの指揮下にあることがほぼ確実です。」石井が補足した。「この施設で行われている実験の内容は、トリニティで行われていたものと似ていますが、規模が大きく、被験者の数もはるかに多いようです。」


田島の心臓が高鳴り、怒りが湧き上がるのを感じた。トリニティが行っていた残虐な行為を思い出すと、この新たな施設で行われている実験がどれほど恐ろしいものであるかを想像するのは難しくなかった。「私たちがトリニティを倒したと思っていた間に、彼らはさらに多くの犠牲者を……」


「そうです。」前田が静かに頷いた。「これまでの被害者リストも確認しましたが、行方不明者の中には、この施設に送られた可能性が高い人物が複数含まれています。」


田島は、被害者の名前がリストアップされた画面を見つめながら、彼らの顔を思い浮かべた。彼女たちが救い出そうとしている人々のことを考えると、胸が締め付けられるようだった。「これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかない。私たちが早急に動いて、この施設を突き止め、彼らを救い出すしかない。」


「その通りです。」前田は同意した。「しかし、施設は極めて厳重に守られており、直接の介入は非常に危険です。私たちには十分な情報がないまま突入するわけにはいきません。」


「分かっているわ。でも、時間がない。」田島は深く息を吐き、決意を固めた。「まずは、現地の状況をさらに詳しく調査する必要があります。できる限りの情報を集めて、最適なアプローチを考えましょう。」


「既に現地の連絡網を通じて、協力者を探し始めています。」石井が続けた。「しかし、シャドウネットワークは国際的な影響力を持っているため、どこまで協力が得られるかは不透明です。」


「それでも、やらなければならない。」田島はその言葉に力を込めた。「このまま見過ごすことはできないわ。私たちが動かなければ、彼らは誰も救われない。」


その時、オフィスの入り口から急ぎ足で入ってきた高野美咲が、手にしたタブレットを田島に差し出した。「田島班長、今すぐこれを見てください。別の情報筋から、新たな映像が送られてきました。」


田島はタブレットを受け取り、そこに映し出された映像を再生した。画面には、暗い部屋の中で怯えた表情を浮かべる若い女性の姿が映し出されていた。彼女は震える手でカメラに向かって何かを話している。


「助けて……私たちは、実験の被験者にされている……ここから出して……」彼女の声は途切れ途切れで、恐怖に満ちていた。


その映像を見て、田島の心はさらに引き締まった。これが現実だ。彼女たちは今この瞬間も恐怖の中で生きている。そして、その命を救うために、NDSラボが存在しているのだ。


「この映像は、シャドウネットワークの施設から密かに送られてきたものです。」高野は説明した。「この女性は、被害者の一人としてリストに載っていた人物です。彼女が生きていることが確認できたのは幸いですが、早急な対応が求められます。」


田島は映像を見つめながら、深く頷いた。「わかった。彼女たちを必ず救い出す。私たちが動かなければ、彼らはこのまま消されてしまう。」


前田が田島に寄り添い、静かに言った。「玲奈さん、私たち全員があなたと共に戦います。どれほど困難な状況でも、諦めるわけにはいきません。」


田島はその言葉に励まされ、再び決意を新たにした。「そうね。私たちの力を結集して、この戦いを勝ち抜きましょう。彼らを救うために、全力を尽くすわ。」


オフィス内の全員がその決意を感じ取り、各自の役割を果たすために動き出した。新たな犠牲者を出さないために、NDSラボはこれまで以上に強力なチームワークを発揮し、シャドウネットワークに立ち向かう準備を進めた。


田島は心の中で、彼女たちの命を救うためにどんな犠牲も厭わないという強い意志を抱き、視線をモニターに戻した。戦いはまだ始まったばかりだ。NDSラボのメンバーたちは、これから直面するであろう困難な状況に立ち向かう覚悟を決め、全力で動き出していた。

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