第13話 過去の仲間との共闘

夜の闇が深まり、静寂が周囲を包み込む中、NDSラボのメンバーたちは山中の施設に近づいていた。田島玲奈は、車の窓から外の景色を見つめながら、心の中でこれから起こる出来事に対する覚悟を固めていた。施設のある山中は、かつて彼女が別班時代に訪れた場所に似ている。過去と現在が交錯し、胸の中で得体の知れない不安が膨れ上がっていくのを感じた。


「玲奈、大丈夫ですか?」助手席に座る前田奈緒美が、田島の表情を伺いながら静かに問いかけた。その声には、仲間を心配する優しさと共に、彼女の決意を支える強さが感じられた。


田島は一瞬目を閉じてから、前田に微笑みかけた。「ありがとう、前田さん。心配ないわ。むしろ、これで終わりにできると思うと、心が落ち着いているの。」


「終わりにする、ですか?」前田はその言葉に一瞬戸惑ったが、すぐにその意味を理解した。田島が抱えていた過去の傷が、いよいよ癒される時が来たのだと。


田島は前田の視線を受け止めながら、続けた。「私にとって、これは過去との決着でもあるの。あの時できなかったことを、今度こそやり遂げるためにここにいる。でも、今回は一人じゃない。あなたたちがいるから、私はもう逃げるつもりはない。」


前田は頷き、田島の手にそっと触れた。「私たちは一緒です。どんなに厳しい状況でも、共に戦います。」


その時、車が静かに止まった。施設の入り口が見える位置に車を停め、メンバーたちは全員が外に出た。月明かりがかすかに照らす中、施設はひっそりと佇んでいたが、その静けさの裏には何か不気味なものが潜んでいるようだった。


「ここからは慎重に行動しましょう。」田島は全員に向けて静かに指示を出した。「私たちが何を見つけるかは分からないけど、どんな状況にも対応できるように準備を整えて。」


メンバーたちは頷き、それぞれの持ち場に散った。高野美咲はデジタルフォレンジック機器をセットし、施設内のセキュリティシステムをハッキングして内部の状況を把握しようとしていた。石井遥斗は、施設内に入るための最適なルートを確認しつつ、万が一の事態に備えていた。


田島は施設の入り口に向かいながら、ふと立ち止まった。その瞬間、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。「玲奈、久しぶりだな。」


田島は驚きながら振り返ると、そこにはかつての別班の仲間である高倉の姿があった。彼は数名の部下を連れており、その表情には昔と変わらない冷静さがあったが、どこか懐かしさも感じさせた。


「高倉……どうしてここに?」田島は思わず問いかけた。


高倉は静かに微笑み、彼女の前に立った。「お前が何をしようとしているのかは分かっている。それに、今回はお前一人で背負わせるつもりはない。俺たちも一緒に戦う。」


「でも、あなたたちは……」田島は言葉に詰まり、彼の意図を探ろうとした。


高倉は彼女の肩に手を置き、真剣な表情で続けた。「俺たちがあの時果たせなかった任務を、今度こそ終わらせるためにここに来たんだ。お前が抱えてきた苦しみはよく分かっている。だからこそ、今回は俺たちも協力する。トリニティを壊滅させるために。」


田島はその言葉に感謝の気持ちを込めて、深く頷いた。「ありがとう、高倉。あなたたちが一緒なら、必ず成功させることができる。」


「そうだ。」高倉は力強く頷き、田島と共に施設の入り口に向かって歩き出した。


メンバーたちは互いに合図を送り合い、施設内に静かに侵入していった。施設内は異様なほど静かで、空気が重苦しく張り詰めている。田島はその静寂の中で、過去の別班時代を思い出していた。かつての任務で経験した緊張感が、再び彼女の中に蘇り、過去の失敗が頭をよぎった。しかし、今は違う。今度こそ、全てを終わらせるためにここにいるのだ。


高野がハッキングしたセキュリティシステムの解析結果が、田島の耳に入る。「玲奈、施設の地下に大きな部屋があります。そこがトリニティの本拠地のようです。セキュリティが厳重ですが、突破することは可能です。」


田島はその報告を受け取り、深く息を吸い込んだ。「地下か……おそらくそこに、失踪者たちもいるのね。」


「おそらく。」高野は静かに答えた。「今のところ、警報が作動していないので、奇襲は成功するかもしれません。」


田島はその言葉に頷き、メンバーたちに静かに指示を出した。「全員、地下に向かう。私たちの目的は、失踪者たちを救出し、トリニティの全貌を暴くこと。どんな状況になっても、冷静に対処することを忘れないで。」


全員がその指示を受けて、慎重に地下へと向かい始めた。施設内の薄暗い廊下を進む中で、田島の心には不安と共に、決意が強く渦巻いていた。彼女は過去のトラウマと向き合い、そしてそれを乗り越えるためにここにいる。


地下に到着すると、大きな金属製の扉が彼らの前に立ちはだかった。扉の向こうには、トリニティの核心が隠されていることが確実だった。高倉が扉を開ける準備を整え、田島に静かに告げた。「この先に、全ての答えがある。」


田島は高倉に頷き返し、深く息を吸い込んだ。「行きましょう。これで全てを終わらせる。」


扉がゆっくりと開き、中に広がる光景が彼らの目に飛び込んできた。そこには、いくつものモニターとコンピュータが並び、無数のデータが流れていた。そして、その中央には、拘束されたままの失踪者たちの姿があった。


「ここが……トリニティの真の姿か。」田島はその光景に目を見張りながら呟いた。


高野がすぐにコンピュータにアクセスし、施設内の全てのデータを解析し始めた。「玲奈、このデータには、失踪者たちがここで行われていた実験に関与していた証拠があります。彼らは無理やり人体実験に利用されていたようです。」


「やはり、そうだったのね……」田島はその事実に怒りを覚えながらも、冷静に状況を分析した。「全員、失踪者たちを救出し、データを全てコピーする。ここで行われていた違法行為を暴き出すのよ。」


メンバーたちは迅速に行動し、拘束された失踪者たちを解放し、必要なデータを全て収集した。田島はその間、施設内の隅々まで目を光らせ、何か見落としがないかを確認していた。その時、ふと視線がある一角に止まった。


そこには、過去に見たことのある資料が無造作に置かれていた。それは、かつて別班時代に田島が追っていた事件に関連するものだった。田島はその資料を手に取り、目を通した。その瞬間、全てが繋がった。


「これは……」田島は資料を手に震えながら、過去の記憶と現在の事件が完全に繋がったことを実感した。「この資料が全てを説明している……トリニティは、あの事件と同じ組織だったんだ。」


高倉が田島のもとに駆け寄り、その資料を一緒に見た。「玲奈、お前が追っていたあの事件が、ここで繰り返されていたということか?」


田島は頷き、資料を握り締めた。「ええ、過去に果たせなかった任務が、今ここで繋がった。これで全てが明らかになるわ。」


その瞬間、施設内に警報が鳴り響いた。トリニティのメンバーたちが彼らの存在に気付き、反撃に出ようとしていた。田島はすぐに冷静さを取り戻し、指示を出した。「全員、脱出するわ! データは全て持ち帰ること。そして失踪者たちも安全に連れ出す!」


メンバーたちは迅速に行動し、トリニティの施設から脱出を開始した。田島は最後に残り、全ての証拠を持ち帰るために奮闘していた。高倉が彼女の肩を叩き、脱出を促した。「玲奈、時間がない。行こう!」


田島は資料を握り締めたまま、高倉と共に施設を後にした。施設の外では、NDSラボの車が待機しており、全員が無事に戻るのを待っていた。


全員が車に乗り込んだ瞬間、施設は遠隔操作で爆破され、全てが闇に包まれた。しかし、田島たちはその闇から全ての真実を持ち帰ることができた。


車の中で、田島は静かに目を閉じた。過去の重荷が、ようやく彼女の肩から解き放たれた瞬間だった。「これで……終わったのね。」


前田が田島の手を握り、静かに頷いた。「ええ、私たちはやり遂げました。これで全ての真実が明らかになります。」


田島はその言葉に安堵の息を吐き、車の窓から外を見つめた。夜空には、遠くに星が輝いていた。過去と現在が交錯し、そして新たな未来が開かれようとしていた。

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