第45話 作戦開始
夜の東京はいつもと変わらない静けさに包まれていたが、その地下深くでは、NDSラボのメンバーたちが最後の準備を進めていた。緊張感が張り詰めた作戦会議室では、田島玲奈が中央のモニターを見つめ、全員の視線を集めていた。
モニターには、世界中の主要都市がリアルタイムで映し出されており、各国での警戒態勢が強化されている様子が映っていた。その上には、「オルタナティブ」の拠点と予測される場所が赤い点で示されていた。
「皆さん、これが我々の最終作戦です。」田島は力強く言葉を発し、メンバーたちを見渡した。「世界各地で『オルタナティブ』が同時多発的に攻撃を仕掛けることは間違いありません。そして、我々がその攻撃を阻止するために動くのも、今この瞬間です。」
彼女の言葉に、メンバーたちは一斉に頷き、これまでの訓練と準備が無駄ではなかったことを確信していた。
「右京さん、状況をお願いします。」田島は神谷右京に視線を向けた。
右京は落ち着いた表情で前に出て、モニターを指し示した。「我々が掴んでいる情報によれば、『オルタナティブ』のリーダーは複数の攻撃計画を同時に進行させています。それぞれのターゲットは主要都市のインフラと政府機関。特に、東京、ニューヨーク、ロンドンが主要な標的となっています。」
モニターに映し出された赤い点が次々と拡大され、各都市の重要拠点が示された。右京はその一つ一つを指し示しながら続けた。「東京では、政府機関と公共交通機関がターゲットとなっています。我々はそのすべての拠点を守るために、迅速かつ効率的に動かなければなりません。」
「国際部門からの報告では、各国の捜査機関がすでに現地での対応を始めているそうです。」佐伯陸斗が付け加えた。「我々はその動きをサポートし、全体の指揮を取る役割を担います。」
田島は再び全員に視線を向け、決意を込めた声で言った。「この作戦の成功は、世界の未来を守るために必要不可欠です。全員が自分の役割を果たし、一丸となって行動してください。」
「加藤さん、研究開発部門はどうですか?」田島が加藤玲央に問いかけた。
「すでに最終チェックを終え、全ての防御システムが稼働しています。」加藤は即座に答えた。「外部からの攻撃に対しても、内部からの妨害に対しても、対応できる状態です。ただし、彼らの攻撃はこれまで以上に巧妙であることが予想されます。気を引き締めてください。」
「了解しました。」田島は満足げに頷いた。そして最後に、デジタルフォレンジック部門の高野美咲に目を向けた。「高野さん、敵の通信はどうですか?」
高野は素早くキーボードを操作しながら答えた。「敵の通信は依然として暗号化されていますが、解析は順調に進んでいます。おそらく、攻撃の瞬間に彼らの通信が活発化するはずです。その瞬間を逃さずに、彼らの動きを完全に把握する予定です。」
「素晴らしい。」田島は力強く頷き、全員に最後の指示を出した。「皆さん、これが私たちの戦いの最終局面です。全力を尽くし、世界を守りましょう!」
「了解!」全員が声を揃えて返事をし、それぞれの持ち場へと散っていった。
田島は静かに深呼吸をし、自分の決意を胸に刻みながら、作戦の指揮を執るためにオペレーションルームへと向かった。彼女の背中には、右京が静かに付き従い、これからの戦いに備えるために心を整えていた。
「田島さん、これからが本当の試練です。」右京が静かに言った。
「ええ、分かっています。」田島はその言葉に力強く頷き、前を見据えた。「でも、私たちなら必ずやり遂げられる。そう信じています。」
「その信念があれば、必ず勝てます。」右京もまた頷き、彼女と共に歩みを進めた。
NDSラボの全員が、それぞれの覚悟を胸に、世界の命運を懸けた戦いに挑む準備が整った。夜が更けるにつれ、戦いの火蓋が切られようとしていた。
オペレーションルームは、無数のモニターが青白い光を放ち、NDSラボのメンバーたちが忙しく作業を進める中で静かな緊張感が漂っていた。田島玲奈は中央に立ち、各地の状況を逐一把握しながら指示を出していた。
「東京の警戒区域は拡大されましたが、敵の動きに変化はありません。」神谷右京が冷静な口調で報告する。
「こちらも同様です。」加藤玲央もまた、研究開発部門の動向を確認しつつ、オペレーションを進めていた。
しかし、その時、モニターの一つが突然ノイズを発し、赤い警告灯が点滅した。高野美咲が即座に対応し、システムの解析を進めた。
「奇妙です…敵の通信に何かが混入している。」美咲が眉をひそめ、画面を凝視する。
「何が起きたんですか?」田島が緊張した表情で問いかける。
「不明です。しかし、解析中のデータに突然外部からの干渉があります。」美咲はキーボードを素早く叩き続けながら続けた。「この通信…まるで内部からのもののように感じます。」
「内部から?まさか…」田島はその言葉に思わず立ち止まった。
その瞬間、オペレーションルームのドアが開き、一人の人物が姿を現した。田島が振り返ると、そこにはかつて信頼を置いていた仲間、NDSラボの元メンバーである今井京介が立っていた。彼の顔は冷徹で、かつての優しい面影は消え去っていた。
「京介…どうしてここに?」田島の声には驚きと疑念が混じっていた。
「田島さん、久しぶりですね。」京介はゆっくりと前に進みながら、冷ややかな微笑を浮かべた。「こんな形で再会するのは心苦しいですが…残念ながら、僕が『オルタナティブ』の一員です。」
オペレーションルームの全員が一瞬で凍りついた。田島もその場に立ち尽くし、言葉を失った。
「京介、どうして…?あなたはNDSラボの一員だった。世界を守るために共に戦ってきたじゃない!」田島の声は揺れていた。
「その時の僕は確かにそう思っていました。」京介は冷たく言い放った。「でも、気づいたんです。世界はもう救えない。むしろ、破壊し、新しい秩序を築くことが必要だと。」
「あなたは…裏切ったのか。」神谷右京が低い声で問いかけた。
「裏切りとは言いません。」京介は軽く肩をすくめた。「ただ、より大きな目標のために、僕は別の道を選んだだけです。」
「その道が世界を破滅に導くと分かっているのか?」田島は拳を握りしめながら京介に詰め寄った。
「田島さん、これが僕たちの運命なんです。」京介は微笑みを崩さない。「NDSラボの活動は、所詮一時的な延命に過ぎない。僕たちはもっと根本的な変革が必要なんだ。」
田島は沈黙の中で、京介が抱えている絶望に満ちた信念を理解しつつも、その危険性を見逃すことはできなかった。
「私はあなたを止める。」田島は冷静さを取り戻し、毅然とした態度で言った。「たとえあなたがかつての仲間であっても、私は世界を守るために戦う。」
「そうですか。」京介は短く答え、静かに立ち去ろうとする。
その瞬間、右京が素早く動き、京介の腕を掴んだ。「お前をここで止めなければ、全てが終わる。」
京介は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、右京を振りほどいた。「僕を止めるには、もっと強い覚悟が必要ですよ、右京さん。」
オペレーションルームに再び静寂が訪れた。その中で、田島は心の中で決断を固めた。
「全員、作戦を続行してください。」田島は毅然とした声で命令を下し、京介の背中を見つめた。「この戦いは終わらせる。私たちの手で。」
京介はその言葉に応えるように一度だけ振り返り、冷たく微笑んだ。「楽しみにしていますよ、田島さん。」
オペレーションルームのドアが静かに閉じ、京介は姿を消した。NDSラボのメンバーたちはその背中を見送り、緊張感が一層高まっていった。田島は深く息を吸い込み、次なる戦いへの準備を整え始めた。
「裏切り者が出たとしても、私たちは止まらない。」田島の決意は固かった。彼女の胸には、世界を守るための強い信念が再び燃え上がっていた。
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