第44話 覚悟の夜
NDSラボ本部の夜は、普段の静けさを超えて、異様なほどの緊張感に包まれていた。時計の針が深夜を指し示す中、ラボ内の明かりは消されることなく灯り続け、各部署では最終決戦に向けた準備が進められていた。
田島玲奈は、自分のオフィスで一人、これからの戦いのシナリオを頭の中で繰り返し描いていた。デスクには無数の資料と作戦計画書が広げられ、彼女の目はそれを一つ一つ確認していたが、その表情には疲労の色が見え隠れしていた。だが、それ以上に彼女の瞳には強い意志が宿っていた。
彼女の思考を遮るように、静かにドアがノックされる音が響いた。田島が「どうぞ」と声をかけると、神谷右京が姿を現した。彼はいつものように冷静な表情を保ちながらも、その背中には戦いへの覚悟がにじみ出ていた。
「お疲れ様です、田島さん。」右京は静かに言葉をかけながら、デスクの前に立った。
「右京さんも休んでいないんですね。」田島は少し微笑んで応えたが、その笑みはすぐに消え、真剣な表情に戻った。「今夜は、全員がそれぞれの場所で準備をしている。誰もが、これが最後の戦いになるかもしれないという覚悟を持っています。」
右京は軽く頷き、窓の外に広がる夜景に視線を移した。「覚悟は必要です。これまで我々が築いてきた全てが、今夜のためにあったと言っても過言ではありません。」
田島も右京の視線を追い、夜空に瞬く東京の灯りを見つめた。「あの光が消えないように、私たちは戦うのですね。」
「その通りです。」右京は静かに答えた。「だが、私たちが一丸となれば、どんな困難も乗り越えられる。今夜はその結束が試される時です。」
田島は深く息をつき、デスクに置かれた資料を一つ手に取った。「高野さんからの報告では、『オルタナティブ』の通信が依然として活発です。彼らは確実に攻撃の準備を進めている。今夜がその日だと考えて間違いないでしょう。」
「我々も準備は整っています。」右京は確信を持って言った。「全てのメンバーが自分の持ち場で待機し、いつでも行動を開始できる状態です。私たちが一歩でも遅れれば、全てが崩れてしまう可能性があります。」
田島は再び深呼吸し、決意を新たにした。「全員に最後の確認をしましょう。それぞれの部署に連絡を取って、最終チェックをお願いします。」
右京は「了解しました」と言い残し、静かに部屋を出ていった。田島はその背中を見送り、再び資料に目を落とした。
一方、別の部屋では、加藤玲央が研究開発部門のスタッフたちと共に、最終的なセキュリティチェックを行っていた。彼の目には疲労が色濃く浮かんでいたが、その手は決して休むことなく、端末を操作していた。
「これで最後のセキュリティ強化が完了しました。」加藤が端末を確認しながら言った。「これで外部からのアクセスは完全に遮断され、内部ネットワークも強化されています。『オルタナティブ』がこれ以上侵入することは不可能です。」
スタッフたちは安堵の表情を見せたが、加藤は気を緩めることなく続けた。「しかし、油断は禁物です。彼らがどんな手段を使ってくるかは分かりません。私たちは常に最悪の事態を想定して動かなければなりません。」
スタッフたちはその言葉に緊張を取り戻し、再び端末に向かって作業を再開した。加藤は彼らを見守りながら、ふと遠くを見つめた。「これで守れるだろうか……。」
一方、デジタルフォレンジック部門では、高野美咲がモニターに映し出された無数のコードと通信ログを睨んでいた。彼女の手はキーボードの上を素早く動き、敵の通信を監視し続けていた。
「何か動きがあれば、すぐに知らせてください。」高野は隣で作業しているスタッフに指示を出した。「今夜は絶対に見逃せない。」
スタッフたちは緊張した面持ちで頷き、それぞれのモニターに視線を固定した。高野は一瞬手を止め、指先を軽く揉みながら自分に言い聞かせた。「見逃さない……絶対に。」
その頃、田島はオフィスで最後の確認を終えた。彼女は全ての準備が整ったことを確認し、デスクの引き出しから小さな写真を取り出した。それは、彼女がNDSラボに参加する前に撮ったもので、まだ学生だった頃の仲間たちと写っている一枚だった。
「この戦いが終わったら……」田島は写真を見つめながら呟いた。「また、皆で笑える日が来るだろうか……。」
その時、通信機が鳴り、彼女の考えを遮った。田島は写真を引き出しに戻し、通信機を手に取った。「こちら田島です。」
「高野です。」通信機の向こうから高野の緊張した声が聞こえてきた。「敵の通信に動きがありました。彼らは今夜、攻撃を開始する準備が整ったようです。」
「了解しました。」田島は即座に応答し、冷静さを取り戻した。「全員に通達します。これが本番です。」
彼女は通信機を切り、深く息をついてから立ち上がった。これから始まる戦いの厳しさを思い、田島は再び強い意志を胸に抱き、会議室へと向かった。
NDSラボのメンバーたちは、それぞれが最後の準備を整え、覚悟を決めていた。夜の闇が一層深まる中、彼らは自分たちの役割を果たすために、それぞれの場所で待機していた。
田島が会議室に到着すると、右京がすでに待っていた。彼は田島に向かって静かに頷き、彼女もまたそれに応えるように頷いた。
「これが、私たちの決戦の時です。」田島は静かに言った。「全員で勝ち抜きましょう。」
「全員で、です。」右京もまた力強く答えた。
NDSラボのメンバーたちは、その言葉に応じるように、全員がそれぞれの持ち場に散っていった。これが、彼らの覚悟の夜だった。夜が明けるまでに、彼らの運命が決まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます