第46話 裏切りと覚悟

東京の夜は、静寂の中に潜む脅威を感じさせた。NDSラボのオペレーションルームでは、緊張が限界に達しようとしていた。京介の裏切りという衝撃の中、田島玲奈は指揮を執り続ける。しかし、その心には、かつて信頼していた仲間への疑念と苛立ちが渦巻いていた。


田島はモニターを睨みつけ、各都市での攻撃の動きを確認していた。「東京の被害は?」彼女は佐伯陸斗に問いかけた。


「今のところ、攻撃をギリギリで防いでいますが、都庁ビルの周辺が危険です。これ以上の拠点への攻撃があれば防ぎきれません。」佐伯は素早く返答する。


田島は頷き、各国での対応を指示し続ける。だが、頭の片隅には京介の姿がちらついていた。彼が敵に回った理由、それがいまだに理解できなかった。田島は京介が語った「新しい秩序」の意味を考えながらも、彼の行動を許すことはできないと自分に言い聞かせる。


田島は強い意志を込めてモニターを見つめる。だが、その時、突如として京介の声が通信機を通して響いた。


「田島さん、まだ時間はあります。」彼の声は落ち着いていたが、冷酷さを感じさせた。「世界を変えるために、あなたもその一部になれる。」


「京介…」田島の手が一瞬止まる。「なぜこんなことをしている?私たちは共に戦う仲間だったはずだ。」


「戦いはまだ終わっていません。」京介は続けた。「ただ、僕たちは違う道を選んだ。それだけです。」


「違う道?」田島は歯を食いしばり、心の中で怒りが沸き上がった。「あなたがやろうとしているのは、破壊だ。そんなことが正しいとでも思っているのか?」


「正しいかどうかなんて、今は問題じゃないんだ。」京介の声は淡々としていた。「旧世界はもう崩れ去るべきだ。新しい秩序こそが必要なんだよ。」


「そんなことはさせない。」田島は冷たく言い放ち、通信を強制的に切った。


オペレーションルームの静寂が一瞬で戻る。田島は深呼吸をし、再び全員の視線を集めた。「京介はもう敵だ。我々は自分たちの役割を果たすしかない。」


田島は自身の感情を抑え込みながらも、京介がNDSラボで共に戦っていた頃を思い出していた。彼は常に冷静で、チームの誰よりも正義感が強かった。それが、どうしてここまで変わってしまったのか。田島にはその理由が理解できなかった。


「田島さん、時間がありません。」右京が冷静な声で彼女に呼びかけた。「敵の攻撃が本格化する前に、我々も動かなければならない。」


田島は頷き、モニターに映し出された各地の状況に目を移した。ニューヨーク、ロンドン、東京――世界中の都市が危機に瀕している。だが、その中でも、田島には京介の存在が気になって仕方がなかった。


「東京の政府機関が再び攻撃を受けています!」佐伯が緊張した声で叫ぶ。「都庁ビルの防御システムが突破されました。爆破まで時間がありません!」


「ニューヨークでも、地下鉄への爆破が始まりました!」美咲が続ける。「ロンドンでも同時に複数の施設が狙われています!」


「全ての拠点を同時に守るのは不可能です!」加藤が焦りを隠せずに報告する。


「できる限りのことをしろ!」田島は冷静さを保ちながらも、鋭い声で指示を出す。「人命救助を最優先に、攻撃を食い止める!」


オペレーションルーム全体が緊張感に包まれる中、メンバーたちは次々と指示を出し、対応を進めていった。だが、敵の動きは予想を超えて早く、そして緻密だった。


その時、田島の無線が再び鳴り響いた。彼女はため息をつきながら応答する。京介の声が再び響く。


「田島さん、まだ間に合います。あなたなら、この新しい世界の一員になれる。無意味な抵抗はやめるんだ。」


田島は強く無線を握りしめ、冷静に言い返した。「お前のやっていることは、ただの破壊だ。そんな未来は求めていない。私たちは守るべきものがある。それを壊すことが新しい秩序だというなら、私は絶対に受け入れない。」


「残念だ。」京介の声には、どこか寂しさが感じられた。「田島さん、あなたにはもっと遠くを見てほしかった。」


「私は、あなたを止める。それが私の使命だ。」田島は力強く答え、無線を切った。


田島は全員に向かって声を上げた。「京介は敵だ。そして、彼を止めるのは私たちしかいない。全力で彼の計画を阻止する!」


5. クライマックスへの導入と次回への期待感


オペレーションルームでは、田島を中心に全員が一丸となって敵の攻撃を食い止める作戦を進めていた。しかし、時間は刻一刻と迫り、京介率いる『オルタナティブ』の攻撃はさらに加速していた。


田島は最後に、再び静かに言葉を発した。「全てが終わった時、私たちが立っていられるかは分からない。だが、私は絶対に諦めない。」


彼女の目には、強い決意と覚悟が宿っていた。京介との最終対決は避けられない――その瞬間が近づいていた。


---


NDSラボのオペレーションルームは、緊張感がさらに高まっていた。京介の裏切りが発覚してから、田島玲奈たちは立て続けに各地で発生する攻撃を阻止するために奔走していた。モニターには、東京、ニューヨーク、ロンドンなど、世界中の都市で進行する敵の動きがリアルタイムで映し出されていた。赤い警告が点滅し続け、チーム全員がその警告を無視するわけにはいかなかった。


「このままでは、手が足りない…」右京は冷静な口調を保ちながらも、緊迫した表情で呟いた。


田島はその言葉に答えず、ただ静かに各モニターを見つめていた。状況は限界に達しつつあり、どれだけ努力しても、すべての攻撃を阻止できるとは思えなかった。しかし、諦めるわけにはいかない。田島の胸の中にある決意は、京介がかつての仲間であったからこそ、強く揺らいでいた。


「皆さん、次のステップに移ります。各地の防衛が限界に近づいていますが、我々は最後の一手を打つ必要がある。」田島は静かに全員に向かって声をかけた。「今は何としても、可能な限り被害を最小限に抑えつつ、敵の中枢を叩く。」


「でも、私たちにはまだ敵の具体的な拠点が掴めていません。」高野美咲が声を震わせながら言った。彼女の指先は、絶えずキーボードを叩き続けている。


「敵の通信の解読はもうすぐだ。」田島は高野に目を向け、確信を持って続けた。「美咲、君の手にかかっている。解読が完了すれば、こちらから攻め込むことができる。準備はできているか?」


「やるしかないわね。」高野は大きく息を吸い込み、再び集中を取り戻した。


田島の頭の中では、京介の言葉が何度も反芻されていた。彼の「新しい秩序」という言葉、世界をリセットするという考え――それは一見すると狂気じみたものに思えるが、彼が本気で信じていることが分かるからこそ、田島は彼を止めたいと強く願っていた。


「京介…なぜ、あなたがそんなことを?」田島は無言でつぶやき、視線を下に落とした。


彼がいつから変わったのか、その瞬間を思い出すことができなかった。ただ、彼がNDSラボにいた頃は、誰よりも正義感が強く、誰よりも世界を救いたいと願っていたことを知っている。だからこそ、田島には彼が今の自分と全く同じ目標を持っているように思えた。


「私が変わったのか、それとも京介が…」田島は心の中で自問した。


だが、すぐにその考えを振り払った。今は感傷に浸る時間はない。目の前にある現実に向き合わなければならない。


その時、突然モニターの一つが激しく点滅し、耳障りなアラームがオペレーションルーム中に鳴り響いた。


「ニューヨークの地下鉄が爆破されました!」美咲が叫んだ。


「東京でも再び攻撃が!」佐伯が緊張した声で報告する。「都庁ビル周辺で爆発が確認されました!」


田島は冷静に対応しつつも、各地での攻撃が次第に激化していることを実感していた。敵は確実にNDSラボの対応の限界を見越して動いている。田島の目の前に広がるのは、次々と被害が報告される都市の姿だった。


「状況はますます悪化していますが、こちらの防御システムがまだ機能しています。」加藤玲央が冷静に報告を続ける。「ただし、長くは持ちません。」


「持ちこたえてください。」田島は短く言い放った。「まだ解決策がある。」


田島は決して諦めることなく、冷静に状況を分析し、次なる一手を考え続けていた。だが、その一方で、胸の中に燻る疑念が消えることはなかった。


その時、田島の無線が再び鳴った。予感していた通り、通信相手は京介だった。


「田島さん、また話せるとは思わなかった。」京介の声はどこか悲しげで、冷たいものではなかった。「もう、これ以上無駄なことはやめにしませんか?」


「無駄?」田島はその言葉に食い下がった。「あなたのしていることが無駄だとは思わないのか?」


「そうは思いません。」京介は静かに言った。「これは世界を救うための唯一の方法だ。僕たちは、もはや破壊からしか新しい未来を作ることはできない。古い秩序は壊すしかないんだ。」


「壊して、何が残る?」田島は冷静さを保ちながらも、感情を抑えることが難しかった。「破壊した後に何も残らなければ、人々はどうやって生きていく?未来を作るのは人だ。その人を傷つけて、何が変わる?」


「あなたはそれを信じたいんでしょう。」京介は軽く笑った。「だけど、僕は違う。」


「信じる。」田島は強く言い返した。「人々は変わることができる。絶望からでも、未来を創り出すことができる。それを信じているからこそ、私はあなたを止めなければならないんだ。」


京介は短い沈黙の後、静かに言葉を続けた。「田島さん、あなたがそう信じるなら、戦うしかないね。」


「そうだ。」田島は覚悟を決めた。「戦うしかない。私はあなたを止める。」


「その決意、見届けさせてもらう。」京介は通信を切り、静寂が戻った。


田島は無言で立ち尽くし、胸の中で確固たる決意を固めた。京介との戦いは避けられない。そして、その戦いは、世界の未来を左右するものになる。彼女は深呼吸をし、静かに全員に向かって話し始めた。


「皆さん、ここからが正念場です。」田島は全員の視線を集め、強く言い放った。「私たちはこの戦いを終わらせるためにここにいる。京介の計画を阻止し、世界を守る。誰も犠牲にしてはならない。それが私たちの使命です。」


「全力を尽くします。」右京が短く答え、他のメンバーたちも次々と頷いた。


「時間は限られています。」田島は続けた。「各都市での防御を継続しつつ、敵の拠点を突き止める。これが最後の戦いになるかもしれませんが、必ず勝利を手に入れましょう。」


オペレーションルームの全員が静かに頷き、それぞれの持ち場に散っていった。田島は再び深呼吸をし、これまでのすべての努力が無駄ではなかったと信じるしかなかった。


「京介…」田島は呟き、モニターを見つめ続けた。「必ず、あなたを止める。」

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