第47話 未来への決断

東京の夜が深まる中、NDSラボのオペレーションルームは緊迫した空気に包まれていた。赤く点滅するモニター、鳴り響くアラーム音、そして何よりも、田島玲奈の胸には、京介との決戦が迫るという実感があった。


京介が敵の拠点にいると判明した瞬間、彼女は覚悟を決めた。今までの戦い、そして彼との過去が複雑に交錯する中、田島はすべてを終わらせるべく、最後の一歩を踏み出した。


「全員、最後の準備を整えろ。」田島は静かに言い放ち、オペレーションルームの全員が一斉に動き始めた。


右京がすぐに彼女の側に立ち、冷静に尋ねた。「敵の拠点が完全に特定されました。ですが、田島さん、これが最後の戦いになります。覚悟はいいですか?」


田島は無言で頷いた。彼女の心の中には、すでに一つの答えがあった。自分が選ぶべき道、そして京介との対話によって生まれた確信が、彼女を強く突き動かしていた。


「美咲、現地に侵入する準備は整った?」田島はデジタルフォレンジックのエキスパートである高野美咲に目を向けた。


「すべて準備完了です。敵のシステムは、私たちが乗っ取れる状態にあります。田島さん、あとはあなたの指示を待つだけです。」美咲の指先は、キーボードを叩き続けていた。


「全員、これが最後の戦いだ。」田島はメンバーたちを見渡し、力強く言葉を発した。「京介の計画を阻止し、世界を守るために、私たちの全力を尽くす時が来た。彼を止めるのは私たちしかいない。」


数時間後、田島は特別チームを率いて、敵の拠点に到達した。廃工場のような場所で、周囲はひっそりと静まり返っていた。しかし、その静けさは嵐の前のように不気味だった。


田島はゆっくりと進み、心の準備を整えていった。すると、彼女の前に京介が現れた。彼の目は冷静そのもので、かつての仲間だった面影は残っていたが、どこか遠い存在に感じられた。


「来たんですね、田島さん。」京介は微笑みながら言った。「あなたならここまで辿り着けると思っていました。」


「京介、これで終わりにしましょう。」田島は静かに言いながら、彼の目を真っ直ぐに見つめた。


「終わり?そうですね、確かに終わりが近いかもしれません。」京介は一瞬だけ目を伏せた。「でも、その終わりがどういう形になるか、それはあなた次第だと思います。」


「私次第?」田島はその言葉に眉をひそめた。「どういう意味?」


「僕は、あなたに最後の選択をしてほしい。」京介は静かに言った。「この世界を破壊して、新しい秩序を作る。それが僕の計画です。けれど、あなたがそれを止めると言うなら、僕はあえてあなたの手に委ねようと思います。」


田島は彼の言葉を一瞬理解できなかった。自らが提案した計画を、なぜ自ら止める選択肢を彼女に与えたのか。それは、田島がこれまでに見たどんな敵とも違う、複雑な心理を持つ京介らしい行動だった。


「京介、あなたは本当にそれでいいの?あなたが信じた理想を、自分の手で壊す覚悟があるの?」田島は真剣な眼差しで問いかけた。


京介は短く笑い、静かに言った。「田島さん、あなたが止められるなら、それは僕の負けだ。あなたが新しい未来を信じるなら、それを選んでくれ。」


田島は一瞬だけ目を閉じ、深呼吸をした。そして、静かに言った。「京介、私はあなたを止めます。あなたの未来は、壊すことではなく、守ることにあると信じているから。」


京介はその言葉に静かに頷いた。彼の顔には、かすかに笑みが浮かんでいたが、それは悲しみと共にあった。


「やっぱり、そうなんですね。」京介は呟いた。「あなたの信念は、僕の思っていた通りだ。だからこそ、僕はあなたに止めてほしかったのかもしれません。」


田島は一歩前に出て、京介に向かって手を差し伸べた。「京介、もうこれ以上、無駄な破壊はやめましょう。一緒に未来を作ることができるはずです。」


京介はその手を見つめたが、すぐには応じなかった。彼の中で何かが葛藤しているのが田島にも分かった。


しかし、次の瞬間、京介はゆっくりと手を伸ばし、田島の手を握った。その瞬間、田島は彼が本当に変わろうとしていることを感じた。


「ありがとう、田島さん。」京介は静かに言った。「僕は、もう一度信じてみます。あなたが信じる未来を。」


その後、NDSラボのメンバーたちは迅速に敵のシステムを停止し、世界中に仕掛けられていた爆破計画を完全に阻止した。京介の計画は、彼自身の手によって終わりを迎えた。


田島はオペレーションルームに戻り、最後の報告を受けると、深く息を吐いた。全てが終わった。しかし、彼女の胸には、新しい未来への希望が静かに燃えていた。


「田島さん、これで全てが終わりましたね。」右京が静かに言った。


「ええ、でもこれからが本当の始まりです。」田島は笑みを浮かべ、モニターに映る平和な街の風景を見つめた。「私たちが守った未来が、どうなるかはこれからの私たち次第です。」


オペレーションルームは静けさを取り戻し、田島は静かに外の夜空を見上げた。京介との戦いは終わったが、彼女たちが守った未来には、新しい課題が待っていることを知っていた。それでも、田島の胸には希望があった。


「これでいいんだ…」田島は小さく呟き、再び歩き始めた。


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【毎日17時投稿】NDSラボに新たなチームが加わるとき、組織に新たな波乱が訪れる。過去と未来が交錯し、科学と現場が交わる瞬間、彼らは真実の深淵に迫る。 湊 マチ @minatomachi

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