第26話 終焉の鐘
廃工場での激戦から数日が経過した。NDSラボはエゼキエルを取り逃がしたものの、彼の冷酷な言葉が田島玲奈とそのチームの心に深く刻まれていた。「再生のためのリセット」という彼の計画の真の意味を探るため、田島たちは急ピッチで情報収集を進めていた。しかし、時間は彼らに味方していなかった。
NDSラボのオフィスは、緊張感が支配する中、慌ただしく動いていた。田島はデスクに広げられた無数の書類とデジタルモニターに映し出された情報の山に囲まれていた。彼女の表情は険しく、目の下には深いクマが浮かんでいたが、彼女は決して疲れを表に出さなかった。
「玲奈さん、シャドウネットワークの暗号通信を解読しました。」前田奈緒美が焦燥感を隠せないまま、田島に報告した。「エゼキエルはすでに『リセット』の準備を完了させているようです。実行は今夜、深夜零時に行われる予定です。」
その言葉に、田島の心臓が跳ね上がった。「今夜……もう時間がないわ。」彼女は冷静さを保ちながらも、その内側では緊張が高まっていくのを感じた。「具体的に何を計画しているの?」
「それが、まだ全貌は掴めていません。ただ、これまでの情報を総合すると、彼らが発動させようとしているのは、世界各地に点在する複数の装置を使った同時多発的な攻撃のようです。」前田はモニターに映し出されたデータを指し示した。「この装置が作動すれば、各地のインフラが完全に麻痺し、社会が崩壊する可能性があります。」
「まさに世界をリセットするというわけね……」田島はその言葉の重みを感じながら、歯を食いしばった。「エゼキエルがこれまでの全てを賭けて、この瞬間を待っていたということか。」
「そうです。」石井遥斗がデータを確認しながら続けた。「彼らが使おうとしている装置は、すでに各地に配置されている可能性が高い。しかし、どこに設置されているかを特定するには時間が足りません。」
「時間がない……」田島は深く息を吐き、考えを巡らせた。「それでも、私たちは止めなければならない。彼らの計画が成功すれば、世界は本当に終わりを迎えてしまう。」
その時、オフィスの入り口から通信担当のメンバーが駆け込んできた。「田島班長! 新たな情報が入りました。エゼキエルが最終的な指揮を執っている場所が特定されました。南極の秘密基地です。」
「南極……」田島は驚きを隠せなかった。「彼らがそんな場所にまで拠点を持っていたとは。そこがリセットの起点ということね。」
前田が静かに頷いた。「エゼキエルはおそらくそこから全てを操作しているはずです。もし私たちがそこに到達できれば、計画を阻止するチャンスがあるかもしれません。」
「分かった。」田島は即座に決断した。「全員、今すぐ南極に向かう準備をして。私たちがこの世界を救う最後のチャンスよ。」
NDSラボのメンバーたちは迅速に動き出し、南極への特別な輸送手段を手配した。時間との戦いが始まった。零時までの残されたわずかな時間の中で、彼らは世界の運命を賭けた最後の戦いに挑もうとしていた。
南極へ向かう機内で、田島は窓の外に広がる白銀の世界を見つめていた。その景色は美しくも冷たく、無情な静けさが漂っていた。だが、その静寂の中には、すべてが終わりに向かうという重い現実が潜んでいた。
「玲奈さん……」前田が静かに声をかけた。
田島はその声に応え、彼女の方を向いた。「何か分かった?」
「いえ……ただ、私たちが今こうしている間にも、彼らの計画が進行していると思うと……どうしても不安が拭えなくて。」前田の声には、深い恐れが滲んでいた。
田島は彼女の手を握り、力強く言った。「奈緒美、私たちは必ずこの戦いに勝つ。世界を救うために、私たちがやらなければならないことは、最後まで諦めずに戦うことよ。」
「はい……」前田はその言葉に頷き、再び覚悟を決めた。
機体が南極の基地に接近する中、田島は心の中で、エゼキエルとの決戦に備えていた。これまでの全ての戦いが、この一瞬のためにあったのだと。
南極の白い荒野に降り立った田島たちは、猛吹雪の中を進みながら、エゼキエルの潜む基地へと向かっていった。彼らの体は冷え切り、吹き付ける風が顔に痛みを感じさせたが、誰一人として立ち止まることはなかった。
やがて、彼らの目の前に巨大な基地が姿を現した。その異様な構造は、自然の中に不釣り合いなほど人工的で、まるで別の世界から切り取られたかのようだった。
「ここが、エゼキエルの最後の拠点……」田島はその光景に言葉を失いながらも、心の中で決意を新たにした。「これで全てを終わらせる。」
基地の内部に潜入した田島たちは、慎重に進みながらエゼキエルの居場所を探した。しかし、その内部は無人のように静まり返っていた。まるで彼らを待ち受けているかのようだった。
「何かが違う……」田島は胸の奥で警鐘が鳴るのを感じた。彼女は慎重に周囲を見回しながら、エゼキエルの策を警戒していた。
突然、彼らの前に巨大なモニターが点灯し、再びエゼキエルの姿が映し出された。彼の顔には、冷酷な笑みが浮かんでいた。
「NDSラボの諸君、よくここまで辿り着いたな。しかし、君たちの努力は無駄だ。リセットは既に始まっている。世界は再生の時を迎えるのだ。」
田島はその言葉に強い怒りを感じた。「エゼキエル、まだ間に合う。リセットを止めるんだ! 君たちのやり方では、ただ世界を破壊するだけだ。」
エゼキエルは冷静な声で答えた。「破壊なくして創造はない。私たちの目的は、この腐敗した世界を浄化し、新たな秩序を築くことだ。そのためには、全てをリセットする必要がある。」
「そんなことをしても、何も生まれはしない!」田島は叫んだ。「人々は破壊を望んでいない。彼らが望むのは、平和と未来だ!」
「平和? 未来? それは弱者の幻想だ。」エゼキエルは冷酷に言い放った。「君たちのような存在が消えることで、真の平和が訪れるのだ。」
その瞬間、基地全体が震え始めた。エゼキエルが装置を作動させたのだ。基地の中心にある巨大なタービンが動き出し、エネルギーが次々とチャージされていく音が響いた。
「玲奈さん、これがリセットの装置です!」石井が緊急に報告した。「装置を止めなければ、全世界が破壊されてしまいます!」
田島はすぐに行動を開始した。「全員、装置の停止に向かって! エゼキエルを止めるわ!」
基地内での最後の戦いが始まった。NDSラボのメンバーたちは、装置を停止させるために必死で動き回り、エゼキエルの罠をかわしながら、基地の中心部へと向かっていった。
しかし、エゼキエルはその動きを察知しており、次々と罠を仕掛けて彼らの進行を妨害してきた。田島はその全てを乗り越えながら、ついにエゼキエルと対峙する場面にたどり着いた。
「これで終わりだ、エゼキエル!」田島は決意を込めて叫んだ。「君たちのリセット計画はここで止める!」
エゼキエルは静かに微笑み、「ならば、私を倒してみせろ。だが、私が消える時、世界も共に消えることになるだろう。」と冷たく言い放った。
田島はその言葉に怯むことなく、全てを懸けた最後の一撃を放った。その瞬間、装置が止まり、エゼキエルは倒れた。しかし、その代償は大きかった。基地全体が崩壊し始め、田島たちは脱出を余儀なくされた。
彼女たちが外に逃れた瞬間、基地は完全に崩壊し、轟音と共に消滅した。エゼキエルのリセット計画は、田島たちの手によって阻止されたが、世界にはまだ多くの傷跡が残された。
田島は、燃え盛る基地の残骸を見つめながら、深く息を吐いた。「これで……終わったのね。」
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