第39話 裏切り者の正体
NDSラボの会議室。全員が集まり、緊張した空気が部屋を満たしていた。デジタルフォレンジック部門の高野美咲が、緊急調査の結果をスクリーンに映し出す。彼女の指示に従い、スクリーンにはラボ内での不正アクセスのログが表示されていた。
「ここに注目してください。」高野が冷静に言葉を発し、全員の視線をログの一部に誘導した。「この時間帯にアクセスが集中していたのは、研究開発部門のデータベースです。特に、新技術に関する機密情報が狙われています。」
スクリーンに表示されたデータは明らかだった。アクセスが集中していた時間帯は、他のメンバーが休憩や会議に出ている間の短い時間帯だった。そして、その時刻にログインしていたのは、たった一人。
「ここにいる誰かが……」田島玲奈が険しい表情で言葉を切り、全員を見渡した。「内部のスパイである可能性が高い。」
右京が一歩前に出て、冷静な表情でログを確認する。「アクセスログに残っているアカウントは……」彼はゆっくりと名前を読み上げた。「佐伯陸斗……。」
一瞬、部屋の空気が凍りついた。全員が佐伯陸斗を見つめる。その視線は驚愕と不信感で満たされていた。
「そんな……」佐伯は呆然とした表情で立ち尽くした。「私がスパイだなんて、そんなことはあり得ない!」
「だが、ログはそう示している。」右京は冷静に言葉を続けた。「もちろん、あなたの端末がハッキングされていた可能性もある。そのために、これから徹底的な調査を行います。しかし、このままでは状況が悪化する可能性が高い。」
「どうして……私がそんなことを……」佐伯は動揺を隠せず、混乱した様子でその場に立ち尽くしていた。
田島は深呼吸をし、冷静に状況を整理しようとした。「佐伯さん、私たちはあなたを疑いたくはありません。だが、これが事実であれば、ラボ全体の信頼が揺らぐことになる。」
「信じてください、田島さん!」佐伯は必死に訴えた。「私は何もしていません。これが何かの間違いであることを証明させてください!」
その時、高野が再びスクリーンに別のログを表示させた。「もう一つの可能性があります。実は、同じアカウントでログインが二重に行われていた痕跡があります。つまり、誰かが佐伯さんのアカウントを利用して不正アクセスを行った可能性が高い。」
右京は深く考え込むように一瞬黙り込み、やがて口を開いた。「この状況をもう一度整理する必要があります。佐伯さん、今のところあなたが疑われていますが、このままでは真相にたどり着けません。全員で協力し合い、真実を解明しましょう。」
田島は右京の言葉に同意し、全員に指示を出した。「まず、佐伯さんのアカウントに対する徹底的な調査を行います。同時に、他のアクセスログも洗い出し、誰がこの不正アクセスを行ったのかを特定します。」
「私も協力します。」佐伯は決意を固め、冷静さを取り戻し始めた。「私は無実を証明し、このスパイを見つけ出します。」
田島は頷き、右京と共に会議室を後にした。廊下を歩きながら、彼女は右京に小声で問いかけた。「本当に、佐伯さんが犯人じゃないと思いますか?」
右京はしばし黙り込み、静かに答えた。「真実は常に複雑です。今は何も決めつけるべきではありません。全ての証拠が揃うまでは、冷静に対処する必要があります。」
田島はその言葉を噛み締めながら、これからの捜査に全力を尽くす決意を固めた。NDSラボ内に潜む裏切り者の正体を暴き、ラボの信頼を守るために――。
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