第38話 スパイの疑惑
NDSラボ本部の新しい研究開発棟の一角に、緊張感が漂っていた。朝の光がガラス窓から差し込む中、田島玲奈はデスクの前で目を細め、手元の端末に映し出された報告書に視線を落としていた。報告書には、機密情報が外部に流出している可能性があると記されていた。
田島の表情は険しい。これまで拡充され、万全の体制を整えてきたはずのNDSラボ。しかし、内部からの情報漏洩という事態は、彼女にとって予想外だった。
「何かが、おかしい……。」
田島はその一言を自分に言い聞かせるように呟いた。その時、ドアが静かに開き、神谷右京が部屋に入ってきた。彼はいつものように落ち着いた表情で、田島の前に立った。
「田島さん、報告書を拝見しました。どうやら、我々の中に不審な動きがあるようですね。」右京は静かに言いながら、田島の手元の端末を見た。
「ええ。」田島は深い息をつき、右京に報告書を渡した。「内部からの情報漏洩の可能性があるわ。しかも、この件に関わっている人物がラボ内にいる可能性が高い。信じたくないけれど……」
右京は報告書に目を通しながら、眉をひそめた。「これは重大な問題です。『オルタナティブ』の手がここまで伸びているとは……。内部にスパイが潜んでいるということですね。」
田島は力強く頷いた。「このままでは、研究開発部門のプロジェクトが危険にさらされるかもしれない。新技術が敵の手に渡れば、我々のすべてが無に帰してしまう。」
「早急に対応する必要があります。」右京は静かに答えた。「内部調査を開始し、スパイを特定しましょう。誰であれ、我々の信頼を裏切る者は許されない。」
田島はその言葉に同意し、ラボ内のメンバーたちに向けて内部調査を開始するよう指示を出した。彼女は冷静を保ちながらも、その心の奥底には、メンバーの中に裏切り者がいるという事実が重くのしかかっていた。
「私たちの中にスパイがいるなんて、信じたくないけれど……。」田島は自分に言い聞かせるように呟き、右京に視線を向けた。「でも、ここで油断すれば、全てが台無しになるわ。」
右京はその言葉に静かに頷いた。「真実を追求するためには、時に厳しい決断が求められます。田島さん、私たちにできることはただ一つ、真実を明らかにし、ラボを守ることです。」
その時、部屋のドアが再び開き、研究開発部門のリーダーである加藤玲央が入ってきた。彼の表情には明らかな不安が浮かんでいた。「田島さん、右京さん、緊急事態です。開発中のプロジェクトの一部データが不正にアクセスされた形跡があります。」
「やはり……。」田島は眉をひそめながら、右京に視線を向けた。「内部のスパイが動き出している。早急に対策を取らなければ。」
「直ちに全員を集めましょう。」右京は冷静に言い、部屋を出る準備を整えた。「今は時間との戦いです。我々の持てる力を全て使って、この危機を乗り越えましょう。」
田島は深く息をつき、決意を新たにした。「ラボを守るために、全力を尽くします。」
右京は静かに微笑み、「それでこそ、NDSラボのリーダーです」と言い、二人は加藤と共にラボ全体に緊急対応の指示を出すために会議室へと向かった。
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