第40話 研究開発部門の危機

NDSラボの研究開発棟。白く無機質な壁に囲まれた広々としたラボは、普段の静けさを保っていたが、その裏には緊迫した空気が漂っていた。田島玲奈は神谷右京と共に、研究開発部門の中心に向かって急ぎ足で歩いていた。


「加藤さんからの報告では、プロジェクトデータの一部が既に『オルタナティブ』に渡っている可能性があるそうです。」田島は焦りを隠せずに右京に言った。


「その場合、彼らがそのデータをどのように利用するかが問題です。」右京は冷静に答えながら、眼鏡のブリッジを指で軽く押さえた。「新技術が悪用されれば、世界に多大な影響を及ぼすでしょう。」


二人が研究開発室に到着すると、既に部屋は警戒態勢に入っていた。加藤玲央がラボの中央で部下たちに指示を出し、緊急対応に追われていた。彼の表情には焦燥感が浮かんでおり、データ保護のためのシステムを再構築する作業が進められていた。


「加藤さん、状況はどうですか?」田島が真っ先に問いかけた。


「状況は深刻です。」加藤は険しい表情で答えた。「今朝、我々が開発していた新技術に関する機密データが、第三者に不正アクセスされた形跡が見つかりました。データの一部が既に外部に送信された可能性があります。」


田島はその言葉に息を呑んだ。「どの技術ですか? それは、もしや……」


「そうです。」加藤は頷いた。「バイオテロ対策用の新薬のプロトタイプです。もしこの技術が『オルタナティブ』の手に渡れば、彼らがどのように利用するかは想像もつきません。」


右京は加藤に近づき、端末のスクリーンを確認した。「既にセキュリティを強化していますが、データが盗まれた以上、彼らが次に何をするかを予測する必要があります。新薬のプロトタイプが悪用されれば、世界的な危機に発展する可能性があります。」


「直ちに緊急対策を講じましょう。」田島は冷静さを保とうとしながらも、内心の焦りを抑えきれなかった。「まずは、どのデータが流出したのかを完全に把握する必要があります。そして、それを基に最悪の事態を想定しなければなりません。」


加藤は素早く操作を行いながら、「今、全ての通信ログを精査し、どの部分が流出したかを特定しています。ですが、完全に特定するには時間がかかります。今は早急に外部との通信を遮断し、これ以上のデータ漏洩を防ぐことが先決です。」と答えた。


右京は頷き、考えを巡らせていた。「もし『オルタナティブ』がこのデータを手に入れていれば、彼らが次に狙うのは、この新技術を大規模に拡散させる手段です。我々は彼らがどう動くかを先読みし、その動きを封じる必要があります。」


その時、通信機が鳴り、デジタルフォレンジック部門の高野美咲からの緊急連絡が入った。「田島さん、右京さん、大変です。『オルタナティブ』が今夜にも動き出す可能性があります。通信記録から、彼らが国外で何かを計画している形跡が確認されました。」


「国外?」田島は驚いた表情で右京に視線を向けた。「これは一刻を争う状況ね。」


右京は瞬時に決断した。「高野さん、国際部門と連携して、彼らの動きを追跡してください。佐伯さんにも連絡を取り、国際捜査網をフルに活用して、この計画を阻止しましょう。」


「了解しました。」高野は力強く答え、通信が切れた。


田島は再び加藤に向き直り、「加藤さん、私たちが動いている間、こちらのデータ保護を最優先で進めてください。ここが崩されるわけにはいかないわ。」と指示を出した。


「もちろんです。」加藤は真剣な表情で頷き、チームに再び指示を出し始めた。「全ての技術を駆使して、データを守り抜きます。」


田島と右京は、加藤の背中を見つめながらラボを後にした。廊下を急ぎ足で進みながら、田島は右京に問うた。「これ以上の漏洩を防ぐには、私たちも彼らの次の一手を先回りするしかないわ。」


右京は落ち着いた声で応じた。「その通りです。だが、彼らも必ずこちらの動きを見ている。油断は禁物です。私たちはすぐに次のステップに進みます。」


二人はNDSラボ全体を取りまとめ、最悪の事態に備えるための準備を進める決意を新たにした。研究開発部門の危機は、NDSラボ全体の命運を左右する重要な局面となっていた。

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