第2話 新たな仲間

NDSラボのオフィスは、普段から静かな場所であるが、この日はいつもと違って一種の緊張感が漂っていた。ラボのリーダーである榊原明は、自身のデスクの前で腕を組み、田島玲奈が到着するのを待っていた。彼は何度も時計を見て、そのたびに微妙に眉をひそめた。新たにNDSラボに迎え入れられる田島班は、これまで別班として数々の危険な任務をこなしてきた精鋭部隊である。彼らの加入は、ラボにとって大きな戦力強化になると同時に、未知の緊張をもたらす可能性もあった。


ドアが静かに開き、田島玲奈が一歩足を踏み入れた。背筋をピンと伸ばし、その鋭い目つきは部屋にいる全員を無意識に警戒させた。彼女の後ろには、石井遥斗、高野美咲、黒木翔太、そして吉田七海が控えている。いずれも田島と同じく冷静で、状況を素早く把握しようと目を光らせていた。


「ようこそ、田島班の皆さん。」榊原は穏やかに微笑みかけたが、その目には鋭い観察の光が宿っていた。「あなた方がNDSラボに加わることを、我々は非常に心強く思っています。」


田島玲奈は軽く頷き、後ろの部下たちにも同じように挨拶を促した。「お招きありがとうございます。私たちも、ここでの新たな挑戦を楽しみにしています。」


そのやりとりの間、部屋の隅で前田奈緒美は静かにその様子を見守っていた。彼女は法医学のエキスパートであり、これまでNDSラボの中核を担ってきた人物だ。田島が発する独特の緊張感と冷徹さに、前田は何か鋭いものを感じ取っていた。田島は確かに優秀だが、その裏には何か重い過去が隠されているのではないかと直感的に感じた。


「奈緒美、彼らが田島班だ。」榊原が前田に話しかけると、彼女は一歩前に出た。榊原が続ける。「こちらは前田奈緒美。彼女が我々の法医学部門の責任者で、非常に優秀な法医学者です。」


田島は前田に向き直り、目を合わせた。「お会いできて光栄です、前田さん。法医学の分野であなたの名はよく耳にしています。」


前田もまた、田島の鋭い視線を受け止めた。「お会いできて嬉しいです、田島さん。これから一緒に多くの事件に取り組むことになるでしょう。」


その言葉には、田島の実力を評価しつつも、彼女が持ち込む可能性のある不協和音への警戒が込められていた。前田はこれまで多くの困難な事件を解決してきたが、田島が持ち込むであろう、より現場寄りのフィールドワークの手法にはまだ慣れていない。二人は互いの実力を認めつつも、まだ完全に打ち解けることはなかった。


榊原はその微妙な緊張感を感じ取り、会話を続けることでその場を和らげようとした。「さて、これからは我々が一つのチームとして動いていくことになります。それぞれの専門分野で力を発揮し、互いに補完し合っていくことが重要です。前田さん、田島さん、これからも頼りにしています。」


その言葉に、部屋の空気が少し柔らかくなったように感じた。田島は部下たちに目を向け、彼らが新しい環境に馴染むように意識的に振る舞っていることを確認した。石井は冷静に状況を見極め、高野は既にこの場所での自分の役割を考えているようだった。黒木は黙って周囲を観察し、吉田はその人懐っこい性格で他のスタッフと早速コミュニケーションを取り始めていた。


「それでは、早速次の案件についてブリーフィングを始めましょうか。」榊原が笑みを浮かべてそう言うと、全員がその場に整列した。これから始まる新たな挑戦に向けて、チームとしての一歩を踏み出す準備が整ったのだ。


田島は改めて前田に目をやり、彼女がどのように動くのかを見定めようとしていた。前田もまた、田島がもたらす新しい風にどう対処すべきかを考えていた。二人の間にはまだ見えない壁があったが、それがいずれ崩れる時が来ることを、両者とも心の片隅で感じていた。

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