第7話 復元されたデータの発見

NDSラボのデジタルフォレンジックルームは、いつもどおり静かな電子音に包まれていた。部屋全体が青白い光に照らされ、コンピュータのモニターには複雑なコードやデータが絶え間なく流れていた。高野美咲は、その光景に目を凝らしながら、三浦達也のスマートフォンから復元されたデータに集中していた。彼女の指先がキーボードを素早く叩く音が、部屋の静寂を切り裂くように響き渡る。


田島玲奈は、部屋の隅で腕を組みながらその様子を見守っていた。彼女の心は、緊張と期待が入り混じった複雑な感情で揺れていた。今回の事件は、彼女がこれまで関わってきたどの事件とも違う。三浦達也という一人のビジネスマンの死が、彼の周囲の人間関係やビジネス取引、さらには国際的な陰謀にまで繋がる可能性を孕んでいた。


「班長、少しずつですが、データが復元できてきました。」高野が小さく息を吐きながら、画面を指さした。モニターには、断片的なメッセージやメールの一部が浮かび上がり始めていた。「特にこの部分、斉藤とのやり取りが復元されました。これはかなり重要な手がかりになるかもしれません。」


田島は高野の隣に歩み寄り、画面に映し出されたデータに目を凝らした。そこには、斉藤と三浦の間で交わされたメッセージの一部が表示されていた。メッセージは短く、何気ない言葉に見えるが、その裏には明らかに何か隠されている雰囲気が漂っていた。


「これは……ただのビジネスのやり取りとは思えないわね。」田島が静かに呟く。「『全て計画通りだ』って……一体、何の計画を指しているのかしら?」


高野は頷きながら、さらに深い解析を進めるためにキーボードを再び叩き始めた。「そうですね。私たちが知るべきは、この計画が一体何なのか、そしてそれが三浦の死にどう関係しているのかです。」


「他に何か手がかりは?」田島は、冷静さを保ちながらもその目に強い決意を宿していた。


「まだ復元中ですが、いくつかの暗号化されたメッセージも見つかっています。」高野が答える。「これらが解読できれば、さらに詳細な情報が得られるかもしれません。ただ、時間がかかりそうです。」


「時間は問題じゃないわ。」田島が即答した。「重要なのは、真実を見つけること。斉藤が何を企んでいたのか、そしてその背後にある真実を暴くことが私たちの使命よ。」


その言葉に、高野は改めて田島の強い意志を感じ取り、深く頷いた。「分かりました、班長。引き続き全力で解析を進めます。」


そのとき、扉が静かに開き、前田奈緒美が部屋に入ってきた。彼女は田島と高野のやり取りを一瞬見つめ、静かに近づいてきた。「どうやら進展があったようですね。」


田島は前田に振り返り、頷いた。「ええ、高野が斉藤とのやり取りを復元してくれたわ。まだ断片的だけど、これが事件の真相に繋がる重要な手がかりになるはず。」


前田はその画面に目を移し、復元されたデータを一瞥した。「『全て計画通りだ』……この一言が、何を意味するのか。私たちは、まだ全貌を掴んでいないようですね。」


「そうね。でも、これが私たちの次のステップを示してくれる。」田島は真剣な表情で前田に告げた。「あなたが言ったように、法医学的な分析も重要です。でも、このデータの解析が進めば、私たちが求める真実に一歩近づける。」


前田は静かに頷き、田島の言葉を受け入れた。「その通りです。科学的な証拠と、このデジタルデータの解析を組み合わせることで、真相が見えてくるでしょう。」


その瞬間、再びキーボードを叩く音が止まり、高野が小さく息を飲んだ。「……班長、前田さん、これは……」


田島と前田が再び高野のモニターに視線を戻すと、そこには新たに復元されたデータが浮かび上がっていた。それは、斉藤が三浦に送った暗号化されたメッセージの一部だった。だが、メッセージの内容は、さらに不穏なものだった。


「『次は計画の最終段階だ』……」田島が小さく呟き、その言葉の意味を深く考え込んだ。「これは、ただのビジネス取引ではない。もっと大きな陰謀が隠されているわ。」


前田もまた、画面に映し出されたメッセージに目を細め、緊張感を隠しきれなかった。「この『最終段階』という言葉が示すものが何なのか、それが事件の核心に迫る手がかりになるでしょう。」


「高野、これをさらに解析して、全てのメッセージを解読して。」田島が指示を出し、その声には揺るぎない決意が込められていた。「私たちはこの陰謀の全貌を暴かなければならない。」


「分かりました、班長。」高野は頷き、再び作業に取り掛かった。


田島と前田はそのまま、モニターの前で立ち尽くしながら、復元されたデータの内容を静かに見つめていた。二人の間には、これからの捜査に対する重圧と、それに打ち勝つための強い決意が渦巻いていた。


「これからが正念場ね。」田島が小さく呟き、前田に視線を向けた。


「そうですね。」前田もまた、静かに頷いた。「私たちの捜査が試されるときが来ました。」


二人はその言葉に共感を示し、再び捜査に向けての準備を整えるために動き始めた。デジタルフォレンジックルームの青白い光の中で、彼女たちの足音だけが静かに響き渡り、NDSラボ全体がこれからの展開に向けて一丸となって動き出すのを感じさせた。

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