第35話 影の組織の登場

東京・夜。薄曇りの空の下、ビル群が静かに光を放っていた。だが、その静寂の中で、NDSラボのオフィスはいつになく慌ただしい空気に包まれていた。深夜にもかかわらず、主要メンバーが次々とラボに集まり、いつもの日常とは異なる緊迫感が漂っている。


田島玲奈は、自分のデスクで端末に映し出された緊急通知を見つめていた。内容は国家機密に関するサイバー攻撃の警告だったが、今回はその規模が違った。これまで見たことのない大規模な攻撃が、瞬く間に複数の政府機関を標的にしている。


「まさか、こんなに早く仕掛けてくるとは……。」田島は心の中で呟きながら、焦燥感を抑えようと努めた。彼女はすぐに神谷右京のオフィスへと向かった。


右京はデスクに座り、冷静な表情でレポートに目を通していた。田島が入室するのを見て、彼は静かに顔を上げた。その目は、すでに事態の深刻さを理解していることを示していた。


「右京さん、やはり影の組織が動き出しました。」田島はまっすぐに言った。


「そうですね。」右京は穏やかに頷き、レポートをデスクに置いた。「彼らの狙いは明白です。国家機密への直接的な攻撃……しかし、このタイミングで仕掛けてきたことには、何か裏があるのでしょう。」


「彼らの目的はオメガファイルにあると考えて間違いありません。問題は、その背後にどれだけのリソースを投入しているか……」田島は端末を右京に見せながら説明した。「これまでの情報では、影の組織は複数の国際的な犯罪ネットワークと連携している可能性があります。単独での犯行ではなく、世界的な脅威として捉えるべきでしょう。」


右京は端末に目を走らせながら、眉を僅かに動かした。「これまでの調査では、影の組織は各国の情報機関とも接触がありましたが、今回はそれを凌駕する規模の攻撃です。これは単なるハッキングではなく、組織的なテロ行為に発展する可能性が高い。」


「急いで対応策を考える必要がありますね。」田島は鋭い目つきで右京を見つめた。「このままでは、我々の持っているリソースでは彼らに対抗しきれないかもしれません。」


右京はしばし考え込んだ後、静かに口を開いた。「田島さん、組織の拡充が必要です。国際的な連携を強化し、新たなメンバーを迎え入れることで、我々の対応力を飛躍的に向上させるべきです。」


「国際部門の設立ですね。」田島はすぐに右京の意図を理解した。「そうすれば、他国の情報機関とも緊密に連携し、この脅威に対抗する力を得ることができます。」


「その通りです。影の組織がどれだけ強大であろうと、我々が結束すれば必ず対応できるはずです。」右京は微笑みながら、田島に資料を渡した。「まずは、この計画を他のメンバーたちに伝えましょう。NDSラボ全体で動き出す必要があります。」


田島は右京から資料を受け取り、力強く頷いた。「わかりました、すぐに皆を集めます。」


右京は田島の背中を見送りながら、デスクに置かれたレポートに再び目を通した。影の組織がこのタイミングで動き出した背景には、まだ何か隠された意図があるはずだ。彼の鋭い洞察力が、次なる一手を模索していた。

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