第30話 内部抗争と右京の影響
東京・NDSラボ本部。会議室には冷たい緊張感が漂っていた。白い壁と大きなガラス窓に囲まれたその部屋は、普段はラボのメンバーが集まり、次の作戦を練るための知恵を絞る場であった。しかし、今日はいつもとは違う雰囲気がそこにあった。
田島玲奈は、会議室の中央にある大きなテーブルに資料を並べ、眉間に皺を寄せていた。彼女の前には、NDSラボの主要メンバーが集まっていたが、全員が一様に険しい表情をしていた。
「ここで一度、意見を整理しましょう。」田島の声には、普段の落ち着きとは異なる鋭さがあった。「シャドウネットワークの残党が、次にどのような手を打つのか、私たちにはまだ全てを把握しきれていません。しかし、このままでは次の一手を打たれる前に、こちらが出し抜かれる可能性があります。」
「だからこそ、今すぐにでも彼らのアジトに踏み込むべきです!」石井遥斗が声を荒げた。彼の顔には焦りが浮かんでいた。「時間が経てば経つほど、奴らは動きやすくなる。私たちはあの工場跡地で見つけた証拠を基に、一気に仕掛けるべきなんだ。」
前田奈緒美は石井の発言に即座に反論した。「石井さん、落ち着いてください。確かに私たちは時間がないかもしれませんが、今のまま突入しても、また罠にかかるだけです。もう少し情報を集めて、彼らの全容を掴んでからでも遅くはないはずです。」
「それじゃあ、手遅れになるかもしれないんだぞ!俺たちが一歩でも遅れれば、奴らはその隙を突いて新たな計画を実行に移すだろう!」石井は前田の意見を全く受け入れる気配を見せず、声をさらに大きくした。
二人の激しい言い争いに、会議室の空気はますます重くなっていった。田島は二人を見渡しながら、言葉を選んでいたが、その時、部屋の隅で静かに立っていた神谷右京が、ゆっくりと歩み寄り、口を開いた。
「皆さん、少し落ち着きましょう。」右京の穏やかな声が会議室に響き渡り、その瞬間、全員が彼の方を向いた。「感情に流されていては、冷静な判断ができません。重要なのは、目の前の事実を見極めることです。」
右京はそのままテーブルに並べられた資料に目を通し、続けた。「確かに石井さんの言う通り、迅速な行動が必要な場合もあります。しかし、前田さんが指摘したように、我々が持っている情報はまだ不十分です。今突入しても、相手の罠にかかるだけかもしれません。」
石井はなおも反論しようとしたが、右京は静かに彼の目を見つめ、「石井さん、あなたの焦りは理解できます。しかし、我々がここで冷静さを失えば、全てが無駄になります。真実に辿り着くためには、冷静な判断が不可欠なのです」と語りかけた。
その言葉に、石井は一瞬言葉を失い、深く息を吐いた。彼の肩の力が抜け、ようやく冷静さを取り戻したようだった。「……わかりました、神谷さん。確かに、感情に流されてはいけませんね。」
右京は微笑みを浮かべ、続けた。「ありがとうございます、石井さん。これで、皆さんが一丸となって次の手を考えることができますね。」
前田も静かに頷き、「石井さん、冷静になってくれてありがとうございます。これで、次の作戦を練ることができますね。」と感謝の意を示した。
田島は右京に向き直り、その落ち着いた姿勢に感謝の言葉をかけた。「神谷さん、あなたの視点はいつもながら鋭いですね。おかげで、私たちは冷静に次のステップを踏めそうです。」
右京は穏やかに笑みを返し、「私はただ、皆さんが最良の結果を出すために、少しお手伝いをしているだけです。これからも、共に最善を尽くしましょう」と言った。
その言葉に、会議室の雰囲気が一変した。緊張感が和らぎ、メンバーたちの顔には再び集中力が戻ったように見えた。田島は深く息を吐き、改めて次のステップを考えるべく、全員に向けて指示を出し始めた。
「それでは、情報収集をさらに進め、次の行動を決定しましょう。前田さん、デジタルフォレンジックのチームに追加のデータ解析を指示してください。石井さん、現場の捜索を再度徹底的に行い、見落としがないか確認をお願いします。神谷さん、もう一度、この現場の情報を整理していただけますか?」
右京は軽く頷き、「もちろんです、田島さん。できる限りのことをさせていただきます。」と言いながら、資料に目を通し始めた。
その瞬間、NDSラボは再び一つのチームとして動き出した。神谷右京の冷静で知的なアプローチが、メンバーたちを再び結束させ、次なる行動への道筋を示したのである。
会議室を後にしながら、田島は心の中で右京に感謝していた。彼が加わったことで、NDSラボは新たな力を得たのだと確信した。これから、どんな困難が待ち受けていようとも、彼と共に乗り越えていけるという自信が、彼女の心に芽生えていた。
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