第10話 初期調査と謎の組織
朝早く、NDSラボのメンバーたちは地方都市へと向かった。霧がかった田舎道を進む車内では、田島玲奈が失踪者たちのファイルに目を通していた。車窓から見える風景は、都市の喧騒から離れた静寂に包まれているが、その平穏さとは裏腹に、田島の心は緊張で張り詰めていた。
「失踪者たちの年齢や職業に共通点はないようですが、それでも何かが彼らを繋いでいるはずです。」田島は助手席に座る石井遥斗に言った。彼女の声には、すでに謎を解き明かすための鋭い意識が感じられた。
「ええ、何かしらのパターンが隠されている可能性が高いです。」石井は運転しながら、田島の言葉に同意した。「それに、地方都市という閉ざされた空間でこれだけの失踪が起きているということは、何か大きな力が働いているのかもしれません。」
車が到着したのは、最初の失踪者である新聞記者の自宅だった。小さな家が静かに佇んでおり、その周囲には特に異変は見られない。しかし、田島は何か不穏な空気を感じ取っていた。彼女は車から降りると、目の前に広がる風景をじっと見つめた。
「まずは、家の中を調べましょう。」田島は静かに言い、石井と共に玄関へと向かった。
家の中は、きちんと整理整頓されていた。書斎には無数の書類や新聞記事が積み重なっており、記者としての職務に対する真剣さが伝わってくる。しかし、どこかに違和感があった。田島は部屋を歩き回りながら、その違和感を探ろうとしていた。
「何かが……ここには隠されている。」田島は小さく呟きながら、書斎の机の引き出しを開けた。そこには一見して普通の資料が収められていたが、彼女は直感的にその中に手を伸ばした。
すると、彼女の手に触れたのは、一冊の黒い手帳だった。その手帳は、明らかに最近使われた形跡があり、ページには細かいメモがびっしりと書き込まれていた。田島はそれを開き、目を凝らして内容を確認した。
「これは……」田島の表情が一瞬険しくなった。「彼は何か大きなスクープを掴んでいたようね。このメモには、ある組織に関する記述がある。」
石井がすぐに彼女の横に来て、その手帳を覗き込んだ。「『トリニティ』……? それがその組織の名前ですか?」
「ええ、ここにはその名前が何度も出てきています。」田島はさらにページをめくり、その内容を読み進めた。「彼はこの組織の存在を追っていた。そして、どうやらそれが彼の失踪に繋がっている可能性が高い。」
田島の脳裏に、かつて別班で経験した数々の事件がよぎった。その中でも、特に闇に葬られたような案件が思い出される。彼女はその感覚を振り払うかのように、冷静さを保とうとしたが、心の奥底で何かが再び動き出していることを感じていた。
「次に進みましょう。」田島は決意を新たにし、手帳を持って書斎を後にした。「この『トリニティ』が何者なのか、そして失踪者たちとどのように関わっているのかを突き止める必要があります。」
次に向かったのは、もう一人の失踪者である青年の自宅だった。彼は地元の工場で働いていたが、突然姿を消したという。家族は失踪に関して何の心当たりもないと話していたが、田島はその家にも何か共通するものがあると感じていた。
家の中を調べた田島は、すぐに一つの証拠を見つけた。青年の部屋には、記者の手帳に書かれていたものと同じロゴが印刷されたパンフレットが隠されていた。それは、表向きは地域の福祉団体を装ったものであり、そこには「トリニティ」の名が記されていた。
「やはり、この組織が鍵ね。」田島はパンフレットをじっくりと見つめ、冷静に分析を始めた。「彼らはただの福祉団体ではない。表向きの顔とは裏腹に、裏では何か違法な活動をしている可能性がある。」
石井もまた、そのパンフレットに目をやりながら頷いた。「このトリニティが失踪事件の黒幕かもしれませんね。」
「ええ、その可能性は高いわ。」田島はパンフレットを閉じ、考えを巡らせた。「次のステップは、この組織に関する情報を集めることです。表立った活動ではなく、彼らの裏側に隠されているものを暴く必要があります。」
二人は再び車に戻り、次の調査地に向けて車を発進させた。田島の心は再び緊張感で張り詰め、過去の記憶がかすかに蘇るのを感じていた。しかし、彼女はその感情を押し殺し、目の前の事件に集中することを決意した。
「このトリニティ……一筋縄ではいかない相手だわ。」田島は心の中でそう思いながら、窓の外に広がる風景を見つめた。何か大きな力が働いていることを、彼女は確信し始めていた。
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